2024年05月20日( 月 )

エーザイの新しい認知症治療薬、米国で承認申請へ

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アルツハイマー病の治験で「有効性を確認」

認知症薬 イメージ    製薬会社のエーザイ(株)(東京都文京区)は28日、米国製薬会社のバイオジェンと共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の第3相臨床試験(治験)で「有効性を確認した」と発表した。今回の結果を基に、2022年度中の米国におけるフル承認申請を目指し、次いで、日本や欧州でも販売承認申請を目指すという。

 日本の65歳以上の認知症患者数は約600万人(2020年現在)で、高齢者の約6人に1人が認知症と推計されている。認知症のうち、アルツハイマー病が占める割合は約6割と最も多い。アルツハイマー病になると、脳神経が変性して脳の一部が委縮して認知機能が低下、日常生活に支障が出てくる。

 アルツハイマー病はこのように日常生活に大きな影響を与える病気であるが、その原因はまだ解明されておらず、病気を完全に治す治療法は見つかっていない。アルツハイマー病で脳の神経細胞が一度変性してしまうと再生せず、失われた認知機能を回復するのは難しいとされる。そのため、できるだけ症状を軽くして、進行を遅らせることが治療の目標となっている。

症状の悪化を「27%抑制した」と発表

 アルツハイマー病の原因の解明に向けて研究が進められるなか、アルツハイマー病になると、脳内に「アミロイドβ」というたんぱく質が異常に蓄積することで、神経細胞の変性に関係するという「アミロイド仮説」が提唱されてきた。そのため、この仮説を基に、アミロイドβを蓄積させない治療薬やアミロイドβを減らす治療薬の開発が進められてきた。

 エーザイのレカネマブは、アミロイドβに抗体を結合させて取り除くことで、アルツハイマーの進行を抑制することを目指して開発された薬だ。今回の治験では、アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度アルツハイマー病の1,795人を対象としている。認知症の重症度を評価する指標6項目である「記憶」「見当識」「判断力と問題解決」「地域社会の活動」「家庭および趣味」「身の回りの世話」の合計スコア(CDR-SB)に関して、プラセボ投与群()と比較して、投与18カ月時点で症状の悪化を27%抑制したという結果が発表された。また、脳内のアミロイドβの蓄積を防ぐことに関しても有効性があったという。これらの結果により、レカネマブがアルツハイマー病の進行を遅らせ、認知機能と日常生活を送る機能に対して、意義のある影響を与える可能性が示されたと報告されている。

 認知症は多くの人がかかる病気であり、年を重ねても認知機能を保てるかどうかで、「生活の質」が大きく変わる。そのため、認知症の進行を止められる治療の開発に対して多くの期待がかけられている。一方、さまざまな研究から、脳内にアミロイドβが蓄積しても認知症にならない人もいるという結果も出ており、アミロイドβがアルツハイマー病の原因とする説には賛否両論あることも事実だ。人の体は複雑で、脳のメカニズムはまだ解明されていないことも多い。認知症が「完治」できる病気になるかは、これからの研究の進歩にかかっている。

【石井 ゆかり】

※:色や重さ、味、匂いなどをできる限り治療薬に似せて薬の成分を含まない偽薬、「プラセボ」を投与した被験者。 ^

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