2024年05月20日( 月 )

県調査は全ルート赤字、地下鉄と福北ゆたか線の接続可否(後)

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山積する検討課題、今後の議論の行方は──

 今回公表された接続に関する基礎調査の概要では、とくに収支採算性においてすべてのルートで赤字予測という厳しい数字が並んでいる。だが、前述の新設区間における建設投資や住宅および新駅整備の効果といった波及効果まで含めて勘案すると、一概にマイナスの収支採算性の面だけをあげつらって否定するわけにもいくまい。それ以外にも、筑豊エリアの地域活性化への寄与といった、単純な数値には表せない影響・効果などもある。

 今回、接続を希望する期成会や沿線自治体等に忖度したおためごかしの甘々な試算ではなく、現実味のある厳しい数字を突きつけた県の姿勢は、ある意味で「接続の可否を真剣に議論・検討していこう」という本気度の表れと見ることもできる。

 ただし、福岡市地下鉄とJR福北ゆたか線という2つの異なる鉄道路線の接続をめぐっては、収支採算性以外にも多くの課題が山積している。

 詳しくは本誌39号(2021年8月末発刊、「さまざまな思惑、想定される複数のルート案 地下鉄空港線とJR福北ゆたか線は接続できるか?」)で述べたが、たとえば市営地下鉄を市外まで延伸させることに対して、福岡市民の理解が得られるのかという問題がある。福岡市民にとっては地下鉄延伸およびJR福北ゆたか線への接続のメリットはほとんどなく、延伸工事の事業費に市税が投入されることに対しては反対の声が挙がるだろう。また、事業主体(建設主体、列車運行主体)がどこになるかも、今後の検討で問われる課題だ。今回の接続では地下に新設区間を設けることが想定されており、接続完了の暁には列車運行主体が福岡市交通局になることが想定される。だが、そのために建設主体が福岡市となって、延伸工事の事業費へ市税が投入されることは考えにくい。

 さらに、福岡市地下鉄は直流電化方式、JR福北ゆたか線は交流電化方式と、電車車両の電化方式が違うという問題もある。電化方式が違うということは、それぞれの車両の相互直通運転はできないことを意味する。JR筑肥線が地下鉄空港線で相互直通運転を行っている事例もあるが、この場合は筑肥線が地下鉄開業当初から乗り入れを想定し、JR九州ではほぼ唯一の直流電化方式の車両となっているから可能なのだ。

 このように、接続実現に向けては、まだまだ解決しなければならない課題が山積しているのが現状だ。これらも今後の議論・検討の過程で、1つひとつ解決の糸口を探っていかなければならない。

JR原町駅
JR原町駅

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 当初は“絵空事”や“夢物語”と見られた、地下鉄空港線と福北ゆたか線の接続に関する動きだが、今回、県が“おためごかし”のない“厳しい試算結果”の基礎調査の概要を公表したことで、道なき荒野を切り拓いていくような途方もない道程かもしれないが、少しは前進したといえるだろう。福岡県下で第4位の人口を抱える飯塚市を含めた筑豊エリアと、福岡都市圏とを結ぶ新たな交通インフラの整備は、両エリアの持続的な発展のためにも、十分な議論・検討をしていく価値はあると見られる。今後、接続実現に向けた議論がどのように進み、そしてどのようなかたちで結実していくのか――その進捗を引き続き見守りたい。

(了)

【坂田 憲治】

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