2024年05月12日( 日 )

九州の観光産業を考える(2)全国旅行支援、ニンニク注射で済ませるのか?(後)

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鹿児島に覚醒の兆し

早朝深夜枠を甲冑や忍者装束の物語体験で開拓
早朝深夜枠を甲冑や忍者装束の物語体験で開拓

    長崎県・ながさきで心呼吸の旅、佐賀県・GO!!佐賀旅キャンペーン、福岡県・「新たな福岡の避密の旅」観光キャンペーン、熊本県・くまもと再発見の旅 全国版、大分県・新しいおおいた旅割第2弾、宮崎県・みやざき旅行支援割キャンペーン(みやざき割)、鹿児島県・今こそ鹿児島の旅 第3弾。どれも中身は全国旅行支援で、適用ルールは共通。離島を多く有す鹿児島県にオプションはあるものの、制度運用に違いはない。

 では、キャンペーンタイトルで心躍るものはどの県だろうか。各県のキャンペーン紹介サイトは判で押したようにほぼ同じ。辛抱の3年弱に溜め込んだ打開エネルギーの放出は見て取れない。ただ鹿児島県だけ、体験・アクティビティのコンテンツを提供できる事業者のポータルサイトを掲示し、補助金措置も明示している。

 いずれの県でも市町個別の割引制度が併用されるが、AIでもなければベストミックスの提示は無理に思える。また、こうした地域堪能プランは、宿泊施設、食事といった従来の観光目録を広げている感だけで、この機に備えて企んできたはずの新味あふれるアイデアが打ち出されていないのが口惜しい。

イノベーションという漢方薬

 疲弊し切った観光業界の支援を旨とし、即効性を主眼とする施策ゆえに止むを得ないといえなくもないが、コロナ禍で練ったはずのレジリエンス策を垣間見ることができない。観光庁を軸に国では補助率10/10も含め、観光振興のための事業支援を公募により全国で推進してきた。コロナ収束後を想定し、我が国の観光様式を一段飛躍させようという取り組みは、仕込み期間を脱する「とば口」に立っている。

 2018年、観光庁は旗印を『美しい国 日本』から『楽しい国 日本』へ差し替えた。2030年の訪日外国人客を6,000万人と目論む計画は、コロナ禍を経ても変更なく、外貨獲得増には体験型コンテンツを充実させ、旅行消費額に占める娯楽サービス費の割合を高めたいとする。外国人がしばしばリードオフマン役を務めてきた我が国の観光レジャーの実態を鑑みれば、今度の全国旅行支援のような気前良い制度のなかで旅する我が国良民へ“海外では”でも“本邦初!”でも何でも良い、楽しい体験へのきっかけを積極的に用意したいと思うのだ。

 全国旅行支援は予算の再配分、制度第2弾も予期される。全国各県の謳い文句に目移りし、似通った商品を比較検討するだけで長大な旅を終えたような疲労感を覚えさせるのではなく、九州ブロック各地域はそれぞれの持ち味を生かす体験型コンテンツを編み出し、大いにアピールし異彩を放ってほしい。手ぐすね引いて出番を待っていたであろう、九州の新機軸にはぜひご登壇願いたい。マーケットの開眼を狙う導入プラン、再訪やつながり、熟達に執念を抱かせるプログラムの開発に踏み出す好機が、訪れているのだから。 

(了)


<プロフィール>
國谷 恵太(
くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。

(前)

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