2024年04月28日( 日 )

急加速する天神ビッグバン&博多コネクティッド(5)

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 2022年の下半期―とくに年末にかけて、福岡市の都心部再開発プロジェクト「天神ビッグバン」の新たな大規模プロジェクトが次々と発表された。現在、天神および博多という都心部で市主導の2つの再開発プロジェクトが進んでいるが、コロナ禍での一時的な停滞を経て、再び活況を呈し始めている。今回、現在進んでいるプロジェクトの概要を改めて振り返ってみたい。

博多コネクティッド

博多駅周辺で進むもう1つの都心部再開発PJ

 天神ビッグバンから約4年後の19年1月に始動が宣言された、福岡市におけるもう1つの都心部再開発プロジェクトが「博多コネクティッド」だ。

 博多駅から半径約500mの約80haを対象エリアに、容積率などの規制緩和や国の金融支援、税制優遇などによって、耐震性の高い先進的なビルへの建替えを促していくほか、交通基盤拡充などによって都市機能の向上を図っていこうというプロジェクト。天神BBBと同様の建替え促進のためのインセンティブ「博多コネクティッドボーナス」もある。交通インフラ整備などの独自の取り組みもあるものの、基本的には博多版“ビッグバン”といって差し支えないだろう。

 ビルの建替え目標は28年末までに20棟で、市の試算では目標を達成した場合の10年間の建設投資効果が約2,600億円、建替え完了後には年間約5,000億円の経済効果が見込まれるとしている。なお交通基盤拡充の一環として、22年8月には博多駅筑紫口駅前広場のリニューアル工事が完了した。

博多イーストテラス

 22年8月には、博多コネクティッド規制緩和第1号として「博多イーストテラス」が竣工した。

 博多イーストテラスは、19年3月に閉店したボウリング場「博多スターレーン」跡地でNTT都市開発(株)と大成建設(株)の2社による共同事業として開発が進められたもので、博多エリア最大級のオフィスビルとなっている。

 エリア最大級の基準階約2,200m2の無柱空間を有し、オフィスワーカーの目的や気分に応じて働き方や場所を自由に選択可能な多彩なワークスペースにより、すべてのオフィスワーカーのWell-being(身体的、精神的、社会的な健康・幸福)およびABW(Activity Based Working)をサポートし、新しい働き方の推進を後押しするというコンセプト。駅東エリアでは希少な緑あふれる広場をビルの南北に配置し、1 階にはタッチダウンスペースやカフェ、屋上にはテナント専用の多目的スペースを備えるほか、カフェではさまざまなテーマのイベントを定期開催し、新たなコミュニティやイノベーションの創出に貢献する。

 さらに、入居企業の事業継続のために、ビル自体の地震対策だけでなく、最大2mの浸水対策も施されているほか、災害対応のための防災備蓄品や充電スペースも確保するなど、BCPの強化も図られている。

 博多スターレーン跡地の新施設とだけあって、早くも博多駅東エリアの新たな“顔”となりつつあるようだ。

博多イーストテラス

博多イーストテラス

敷地面積:約4,900m2
延床面積:約2万9,170m2
規 模:地上10階・塔屋1階建
用 途:事務所、店舗、駐車場
竣 工:2022年8月

福岡東総合庁舎跡地

 「福岡東総合庁舎敷地有効活用事業」は、福岡県所有の「福岡東総合庁舎」の敷地約2,638m2を定期借地方式により民間事業者に貸し出すかたちで行われるビル建替え事業。民間事業者の選定は公募型プロポーザル方式で実施され、19年8月に九州旅客鉄道(株)(JR九州)を代表企業とし、福岡地所および(株)麻生で構成される企業グループが優先交渉権者に選ばれた。その後、21年11月に「博多コネクティッドボーナス」の認定を受け、計画の概要が発表された。

 ビルのデザインは世界中で多くの実績を持つ建築デザイン事務所「シュミット・ハマー・ラッセン・アーキテクツ」(デンマーク)が担当し、3層ごとに分節する独特の外観で、周囲に対してさまざまな角度で向き合うことで、周囲の街並みとの調和を図る。また、筑紫口中央通りに広く面したピロティ広場はさまざまなイベント利用に対応するほか、1階部分には福岡県産品を使ったメニューを提供するカフェを導入するなど、エリアの賑わい創出およびまちの回遊性向上に寄与。竣工は24年3月を予定している。

福岡東総合庁舎敷地有効活用事業

福岡東総合庁舎敷地有効活用事業

敷地面積:2,688.84m2
延床面積:2万1,535.00m2
規 模:地上12階・地下1階建
用 途:事務所、店舗、駐車場
竣 工:2024年3月(予定)

Walkプロジェクト新築工事

 かつて博多駅前・博多口のランドマーク的な存在だった「西日本シティ銀行本店本館ビル」が解体され、その跡地では現在、西日本シティ銀行と福岡地所が出資する「特定目的会社Walk」による「(仮称)Walkプロジェクト新築工事」が進められている。

 同プロジェクトは西日本シティ銀行と福岡地所が共同で、西日本シティ銀行本店本館ビル(以下、本店本館ビル)を建て替える計画。本店本館ビルは22年末に死去した世界的な建築家・磯崎新氏による設計として知られていたもので、全面が茶褐色のインド砂岩で覆われた特徴的な外観の意匠を、(株)磯崎新アトリエの助言を得ながら一部を新ビルに移設・保存していく予定としている。

 また、本店本館ビル以外にも本店別館ビルおよび事務所本部ビルの計3棟のビルを連鎖的に再開発していく計画で、新本店ビル竣工後に別館ビルおよび事務本部ビルの解体に着手し、2棟の再開発を行っていくとしている。

 新ビルの具体的な計画についての発表はまだないものの、現地の工事標識によれば、設計・施工は大成建設(株)が担当。25年6月末の竣工を予定している。

(仮称)Walkプロジェクト新築工事
(仮称)Walkプロジェクト新築工事

博多駅空中都市プロジェクト

 22年3月には、JR九州が構想として検討を進めていた博多駅の線路上空を立体的に活用する「博多駅空中都市構想」が、「博多駅空中都市プロジェクト」として事業着手した。

 同プロジェクトは、博多コネクティッドを推進し、博多駅の活力と賑わいをさらに周辺につなげるべく、博多駅線路上空に新たな“都市”をつくるもの。ポストコロナに向けて国際ビジネス都市・国際観光都市に相応しい機能を備えるとともに、博多口と筑紫口の回遊性を高めて賑わいのある街並みを創出することで、福岡を“世界から選ばれるまち”へと高めていくことを目指している。

 開発するビルのコンセプトは、国際ビジネス都市・国際観光都市に相応しい機能を備えた最先端複合ビルで、線路上空という高い利便性の立地を生かし、施設用途としては最先端オフィスやラグジュアリーホテル、商業店舗などを想定。竣工は28年末を予定している。

博多駅空中都市プロジェクト
博多駅空中都市プロジェクト

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 天神ビッグバンのエリア内では、26年末までの天神BBB適用の竣工期限が近づいたことで、期限内での竣工が間に合わずとも特例的に適用を受けられる「複数街区にまたがる段階的および連鎖的な建替え計画」という大規模なプロジェクトが相次いで発表された。

 その一方で、博多コネクティッドのエリア内では、現時点でのプロジェクト数はまだ多くはない。だが、今年3月には福岡市地下鉄七隈線の博多駅までの延伸開業が控えており、それにともなって博多駅周辺の開発熱が再燃する可能性はある。

 コロナ禍で一時的に停滞を余儀なくされていたものの、依然続く市の人口増にも後押しされるかたちで、天神と博多の両エリアでは大小のさまざまな開発が散見されるようになってきた。両都心部で進む再開発プロジェクトを起爆剤として魅力あるまちづくりが進み、ひいては福岡市の都市力がさらに高まっていくことを期待したい。

3月開業予定の地下鉄新駅「櫛田神社前駅」
3月開業予定の地下鉄新駅「櫛田神社前駅」

(了)

【坂田 憲治】

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