2024年05月26日( 日 )

新国富指標の第一人者に聞く「福岡市のwell-being向上に必要なこと」(前)

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九州大学都市研究センター長・主幹教授
馬奈木 俊介 氏

九州大学都市研究センター長・主幹教授 馬奈木 俊介 氏

 天神ビッグバン・博多コネクティッドによる中心部の大規模再開発が話題となるなど、国内の都市のなかでも元気な印象がある福岡市。将来性に富む発展をしているように見えるが、少子高齢化などさまざまな課題を抱えていることは、他の自治体と同様だ。福岡市が健全な都市になり、持続的な発展を遂げるためには、どのような取り組みが必要なのだろうか。GDP(国内総生産)など、これまで重要視されてきたものとは異なる観点から、国や都市の総合的な豊かさを推し量る「新国富指標」の第一人者である馬奈木俊介・九州大学教授に、とるべき方向性や施策について聞いた。

科学的な検証で豊かさを可視化

 ──まず新国富指標とは、どういうものなのでしょうか。

 馬奈木 ノーベル経済学賞受賞者のケネス・アロー氏らにより開発された指標で、2012年から国連主導の下、さまざまな分野の学術経験者の研究成果をまとめてつくり出した、国や地域の豊かさを測定する物差しです。

 まず、道路や建築物などのインフラを「人工資本」、教育や健康など人々の暮らしに影響するものを「人的資本」、山林や海、生物など自然環境に関わるものを「自然資本」と位置づけ、科学的な検証とそれに基づく数値で可視化していきます。そして、それを根拠に国や自治体の総合的な豊かさを推し量るのが特徴です。インフラが整備され、工業製品などが大量に普及することは経済的発展につながりますが、一方で環境を破壊し、大気汚染などで人の健康状態を悪化させる懸念も残ります。新国富指標は、こうした損失についても評価することで、GDPでの指標を補うものとなっています。

 SDGsでは、持続可能な社会をつくるために17の目標を設定しています。目標達成するには、具体的な目標を定めて施策を進めなくてはなりませんが、目標の達成度はGDPでは測れません。GDPが増えても、同時に自然資源が減れば、持続可能性は低下するといった現象が起こるからです。

九州大学・都市研究センター提供
九州大学・都市研究センター提供 

 ──豊かさの可視化には、どのような手法が採り入れられているのでしょうか。

 馬奈木 私ども九州大学(以下、九大)では、衛星画像データや携帯電話の移動記録による独自のデータベースを可視化に役立てる研究を進めており、現在、佳境を迎えているところです。この研究では、どこにどれだけの人が住んでいて、周囲に何があるか、人はどこからどこに移動しているのかなどといった情報を基に、まちの魅力を可視化することを目標にしています。

 よくある「いい街ランキング」のような根拠が乏しいものではなく、より正確なデータを根拠にしたものを提示できるかもしれません。どのくらいのお金をかけて人が移動してきたのか、地元の人なのか、遠くからきた人なのかといったこともわかるため、ショッピングセンターなどの不動産開発にも役立てられるでしょう。

 ──この手法は、さまざまな分野で応用が期待できそうですね。

 馬奈木 行政によるインフラ開発の計画策定も同様です。福岡市の例を挙げると、天神ビッグバンと博多コネクティッドの次を見越し、九州の他地域の発展までを考慮したプロジェクト立案に役立てられると思います。

 また、たとえばマンション開発においても、「健康になる住居」「効果的な外構の配置」「遠くに住む家族が安心できる単身住居」というようなプランニングも、データを活用すれば可能です。

 日本は高齢化社会の先進国です。「ウェルビーイングとは何なのか」「ウェルビーイングを高めるためには何が必要なのか」といった、健康寿命を高めるために必要なデータを集めるチャンスに恵まれているともいえます。つまり、この分野で日本は世界をリードできる可能性があるのです。何はともあれ、データを蓄積し活用することで、新たな価値を生み出すことが可能になるというわけです。

 なお、すでにメンタルヘルス・プログラムを実施する企業との共同研究で、ストレスにより従業員が年間150万円相当以上の収入を失っていることなど、人的資本であるウェルビーイングについて明らかにしています。

(つづく)

【田中 直輝】


<プロフィール>
馬奈木 俊介
(まなぎ・しゅんすけ)
1975年生まれ。福岡県立修猷館高等学校卒後、米国ロードアイランド大学博士課程修了。九州大学主幹教授都市研究センター長。国連「新国富報告書」代表、国連「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」代表執筆者。(一社)ナチュラルキャピタルクレジット・コンソーシアム理事長。米国の大手世論調査会社・ギャロップの学術アドバイザーも務める。

(後)

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