2024年06月14日( 金 )

新国富指標の第一人者に聞く「福岡市のwell-being向上に必要なこと」(後)

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九州大学都市研究センター長・主幹教授
馬奈木 俊介 氏

 天神ビッグバン・博多コネクティッドによる中心部の大規模再開発が話題となるなど、国内の都市のなかでも元気な印象がある福岡市。将来性に富む発展をしているように見えるが、少子高齢化などさまざまな課題を抱えていることは、他の自治体と同様だ。福岡市が健全な都市になり、持続的な発展を遂げるためには、どのような取り組みが必要なのだろうか。GDP(国内総生産)など、これまで重要視されてきたものとは異なる観点から、国や都市の総合的な豊かさを推し量る「新国富指標」の第一人者である馬奈木俊介・九州大学教授に、とるべき方向性や施策について聞いた。

福岡市が考えるべき長期的なリターン

 ──福岡市がより良いまちとなるには、何が必要でしょうか。

 馬奈木 福岡市は市街地がコンパクトにまとまり、山や海などの自然環境にもアクセスしやすく、さらに商工業がしっかりしており、農林水産資源にも恵まれています。つまり、人工・人的・自然の各資本がバランス良く配置されているわけです。御存知の通り、人口増加が続いており、ヒト・モノ・カネがこれまで以上に集まっていますし、国内他都市と比べても優れたまちだと思います。

福岡市市街地のイメージ
福岡市市街地のイメージ 

    しかし、より広範な視点では、福岡市以外の自治体とも幅広く連携することが重要な課題といえます。福岡市が周辺自治体の資本を吸い上げ、それにより周辺自治体が衰えることは、将来の福岡市の衰退につながるからです。資金や人的資源に余裕がある福岡市が周辺自治体を支えることで、福岡県全体、そして九州全体の発展につなげるべきです。

 福岡市が将来も発展していくためには、九州のリーダー都市として九州全域に目を向けるべきです。というのも、福岡市以外の自治体ではすでに、機能不全に陥っているケースが少なくないからです。たとえば、学生不足に直面する大学もそうです。人的余裕がなく、教員が雑務をこなさざるを得ない状況になっています。状況を改善するため、九大では今、総長が中心となってそういった大学を支援する取り組みを行っています。そうしなければ、近い将来に地域にある大学が失われ、その影響は九大にも波及してくると考えているからです。

 ──福岡県、九州全体に豊かさを広げる必要があるわけですね。

 馬奈木 福岡県内では、北九州市が人口減少に苦しんでいます。福岡市と北九州市、さらにはその間にある自治体が広域連携を図り、全体での底上げを図ることが重要です。福岡県の人口は約510万人ですが、この人口規模は世界的な大都市になる条件を満たしています。周辺からヒト・モノ・カネが集まることで発展しやすいからです。もともと、しっかりした産業基盤があり、空港へのアクセスも優れている。「産業誘致がより進めば、ここで働くことに魅力を感じるエンジニアが増えるだろう」と、高く評価する海外の大学関係者もいるくらいです。広域連携に失敗したら、福岡市も近い将来の空洞化が避けられないと私は考えています。

 幸いにも九州は、福岡県の七社会に代表される有力企業のまとまりが存在しますし、県の数も7つとちょうどよく、合意形成しやすい条件が整っています。私は、政府や全国の自治体、企業とのつながりがありますが、国や東京都は利害関係者が多くてまとまりにくく、逆にその他地域では少なすぎて実効性が薄くなることが多いのですが、それとは対照的です。

小から大への展開が最も効率的

 ──とはいえ、福岡市とその他自治体とは、置かれる状況に大きな違いがあります。

 馬奈木 人口、産業基盤、立地、自然の状況などさまざまで、異なる特徴や事情を有していますね。そこで大切になるのが、連携の在り方でしょう。好例といえるのが、2020年に九州電力送配電(株)が久山町において開始した「IoTを活用した見守り事業」です。久山町が成果を上げた翌年、福岡市がその仕組みを採用しました。大きな組織が新たな取り組みを採用するには、「実績」が重要です。同町の持続可能なまちづくりに向けた成功事例が、より大きな自治体へと広がったわけです。財源など何かと制約が多い現在では、こうした連携の在り方が最も良いと考えられます。

 ですから、私たちはまず、小規模自治体との取り組みを積極的に進めております。新国富指標を活用したまちづくりに関する取り組みがそうで、九大都市研究センターは、昨年までに久山町、中間市、宮若市、直方市の間で協定を締結してまいりました。今年1月末には大分県佐伯市とも協定を締結しましたが、同市の地域特性から海を使ったCO2削減策に挑むのが特徴となっています。

 ──大学と自治体のほか、民間企業との連携はいかがでしょう。

 馬奈木 これまでの実績から、CO2削減・地球温暖化対策の取り組みについては、より幅広い関係者の参画を得ることができるようになりました。昨年12月に創設された「(一社)ナチュラルキャピタルクレジット・コンソーシアム」がそれにあたります。先進技術を活用して、地方創生とカーボンクレジット取引の活性化を目指す組織で、小規模自治体と進めている活動を、より広範なエリアで行うものです。

 小規模自治体だけでなく、福岡市や北九州市といった大都市、大分県国東市や佐賀県有田市などの県外自治体、福岡銀行などの地方銀行や九州の地場企業、さらには環境省や国土交通省など国の行政機関、東京ガスやソフトバンク、損害保険ジャパンのような大企業もメンバーとなっています。小規模自治体と九大で始まった連携が、全国的な産官学連携へと進展したわけです。

 また、私たちは(株)ふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)の子会社でSDGs支援を手がける(株)サステナブルスケールに、設立時から参画しています。同社と九大で共同開発した地域金融機関向けSDGs/ESGスコアリングサービスの「サステナブルスケールインデックス」では、約200項目の評価データに基づき、企業の相対的なSDGs/ESGに関連する取り組みを「SDGsの17ゴール」と「ESGの10カテゴリー」に沿って指標化することが可能です。指標化することで、業界トップ企業や中央値とのスコア比較ができるほか、企業のSDGs/ESG取り組みにおける客観的な強み・弱みの把握も可能です。

 また、評価項目を個別に深掘りすることで、今後の取り組みのヒントを得ることもできるため、北九州市がすでに採用しています。FFGとは、サステナブルスケールインデックスを用いたさらなる商品開発も進めています。昨年、さらに(株)aiESGを立ち上げてサプライチェーン全体を製品ごとに見える仕組みを構築し、現在、実績を出していっております。

 今後も私たち九大は研究開発のみならず、時には連携のための仲介者としても活動し、さらに連携の輪を広げ、地域の問題解決に取り組んでいきたいと考えています。

(了)

【田中 直輝】


<プロフィール>
馬奈木 俊介
(まなぎ・しゅんすけ)
1975年生まれ。福岡県立修猷館高等学校卒後、米国ロードアイランド大学博士課程修了。九州大学主幹教授都市研究センター長。国連「新国富報告書」代表、国連「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」代表執筆者。(一社)ナチュラルキャピタルクレジット・コンソーシアム理事長。米国の大手世論調査会社・ギャロップの学術アドバイザーも務める。

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