2024年05月11日( 土 )

技術・技能は「盗むもの」から「伝えるもの」へ(前)

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(一社)日本造園組合連合会 福岡県支部
支部長 山本 辰雄 氏
(小嶺造園社長)
幹事長 白石 信和 氏
((有)若松緑地建設社長)

幅広い業務により、社会課題に対応

 ──まず、造園業と(一社)日本造園組合連合会(以下、造園連)、福岡県支部の活動についてお聞かせください。

山本 辰雄 支部長
山本 辰雄 支部長

    山本 造園業と一言でいいますが、植栽やその剪定にとどまらず、石組みをはじめとする土木、大工、左官、水道といった各種工事、それらの設計や施工管理、さらには庭園などの維持管理まで非常に幅広い業務を含み、近年ではビルの屋上・壁面緑化といったニーズに対応する業務も増えています。事業者それぞれで得意分野は異なりますが、その事業内容は地球温暖化を防止する環境保全や、まちづくりに重要な役割を担う社会的貢献度が大変高いものと自負しています。

 白石 造園連は日本最大規模の造園業者団体であり、福岡県支部の加盟事業者は九州で最も多い169社に上ります。これは全国的に見ても多い方で、とくに活発に活動している支部の1つです。

 加盟しているのは中小事業者がほとんどです。ただ、そのなかには「現代の名工」(厚生労働大臣表彰)や名園の管理者も多数います。

 ──造園業界にとっての大きな課題とは何か、その課題解決に向けてどのような取り組みをされていますか。

 山本 課題は、若い世代への技術・技能の伝承ですね。業務には野外での手作業が多く、体力を必要とするうえ、しっかりとした造園工事を行うには豊富な知識と経験が求められます。個人住宅を例に取ると、庭づくりには5年・10年後の植栽の状態をイメージすることが必要ですが、そのためには樹木の成長スピードや葉の茂り方などについての知識が求められます。枝の剪定方法も成長に影響しますし、どんな樹木と草花、石などを組み合わせればより美しい庭をつくり出せるかについても同様です。石組みについても、組み方次第で景観が変わってきます。

 そうしたことから、一人前になるには最低でも5年以上の経験が必要ですが、若い人の就業が少なく、定着しにくい状況に頭を悩ませています。

白石 信和 幹事長
白石 信和 幹事長

    白石 私たちの若いころには仕事とは“盗むもの”でしたが、今ではそれは通用しません。そこで解決に向けた取り組みとして、私たちは技能講習会や勉強会を定期的に開催することで、人材育成と造園業の魅力を“伝える”努力を継続的に行っています。

 このうち、講習会は山本さんや私などのベテランのほか、県内外からも豊富な実績を持つ講師を招くなどし、加盟事業者に所属する有望な若手、さらには学生さんらも招き、実践と情報交換を通じて技術や技能を伝承するというものです。もちろん、人材確保自体も課題ですので、西日本短期大学(以下、西短)、行橋高等学校や福岡農業高等学校、久留米筑水高等学校といった造園・緑化系の学科がある学生・生徒さんに対して、県のマイスター制度を活用した指導にも参加しています。

 ちなみに、西短二丈キャンパス(糸島市)では今年2月11日、12日に坪庭の講習会を開催しました。このキャンパスは広くて設備も充実している、全国的にも希有な施設です。

西日本短期大学二丈キャンパスにある石積み
西日本短期大学二丈キャンパスにある石積み

女性や外国人が活躍できる業界へ

 ──取り組みの成果は、いかがでしょうか。

 山本 近年は女性の就労者が増えてきています。たとえば、西短環境緑地科の生徒数の3~4割を女性が占めていますが、彼女たちは総じて真面目で熱心、意欲的ですし、交流するなかで、私たちベテランにとっても気付きとなることが多くあります。男性とは異なる目線で業務を行える人がいて、彼女たちの存在はとても刺激になります。ですので、今後はさらに女性の就業者が増えることを期待していますし、私たちも彼女たちが就業しやすい環境整備を進めていきたいと考えています。

 白石 講習会には西短を通じてアジア圏の外国人の生徒さんも参加してくれるようになり、それも成果の1つといえそうです。また、人手不足対策として外国人技能実習生を雇用して戦力化するケースも増えてきていますが、こちらはいくつかの問題を抱えています。

 というのも、冒頭でお話ししたように造園業では幅広い業務を行うことが求められますが、実習生に任せられる仕事は制度上で受け入れ可能な職種である土木や左官系などに限定されてしまうからです。これでは雇用側は実習生の扱いに困ってしまいますし、彼らにも不満が高まり、突然行方不明になってしまうといった事態も発生しています。ですので、造園連では現在、国に制度の見直しを働きかけているところで、受け入れ可能職種に造園業が入れば、人材難は現状よりも改善されるのではないかと考えています。

(つづく)

【田中 直輝】


<プロフィール>
山本 辰雄
(やまもと・たつお)
大学卒業後、造園工として就職し、その後、小嶺造園を設立し自営。以来、勉学と経験によって得た豊富な知識と高度な技能を習得し、技能者の育成・指導に尽力している。

白石 信和(しらいし・のぶかず)
1981年に(有)若松緑地建設に造園工として入社。2000年に代表取締役に就任。信望も厚く、その指導力は造園業界の地位向上・発展に多大な成績を残している。
 

(後)

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