2024年05月11日( 土 )

技術・技能は「盗むもの」から「伝えるもの」へ(後)

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(一社)日本造園組合連合会 福岡県支部
支部長 山本 辰雄 氏
(小嶺造園社長)
幹事長 白石 信和 氏
((有)若松緑地建設社長)

県支部で資格取得を強く後押し

 ──建設業界では待遇の改善、なかでも賃金面での改善が急務であるといわれています。

山本 辰雄 支部長
山本 辰雄 支部長

    山本 建設業全体にいえることですが、造園業もほかの職種と比べ賃金は低く抑えられており、これも人材確保に向けての課題の1つです。打てる手としては単価アップに加え、作業時間の短縮と仕事を増やすことしかありませんが、前者についてはお客さま、元請に理解していただけるように働きかけを強めています。

 後者については、とくに若手の教育が大切だと考えています。事業規模が決して大きくない私たちにとって、経験や知識、技術が乏しい若手を雇用するのは大きな投資で、彼らの賃金は会社の収益に大きな影響をおよぼします。

 白石 ですので、少しでも賃金アップにつなげられるよう、私の会社(若松緑地建設)では彼らにも経営の意識、コスト意識をもってもらえるように、工事単価と経費を若手にすべて見せています。このことは彼らが将来、独立する際にきっと役立つと考えているからです。

 造園業では、大工や左官、水道といった各種工事をすべてこなさなければなりません。戦力化を早めるためには、若手それぞれの得意な仕事を伸ばすことも重要ですね。たとえば、工事が得意ではないけれども、工程表の制作は抜群にうまい若手がいたりします。私たちには彼ら1人ひとりの個性を尊重すること、かつてのような頭ごなしではなく、よりフラットな関係性で接することが必要です。とにかく、現在は私たちベテランが若手に積極的に声をかけ、時には細かなことを褒めてあげるなど、指導する側も工夫しないとダメですね。

 ──福岡県支部として、人材育成でとくに力を入れていることがありますか。

 山本 福岡県支部は、国家資格である造園技能士の試験において、全国のなかでトップレベルの合格率を実現してきました。これは支部主導で1週間ほどかけて講習会や練習会を開催するなど、対策を強めてきた成果です。他県の方々も見学にいらっしゃるなど、若手育成のお手本の1つとみられています。

 また、技能五輪全国大会(1963年から開催、参加年齢23歳以下)では、造園は1999年から正式種目となっています。福岡県からも選手を数多く派遣し、これまでに優秀な成績を収めてきました。

白石 信和 幹事長
白石 信和 幹事長

    白石 技能五輪には国際大会も開催されており、2022年11月に行われた第46回エストニア大会では、日本代表選手(中野太一選手:(株)伊万里春光園/浦辻知菜莉選手:(株)近江庭園)が初めて銀メダルを獲得することができました。これは私たちにとって大変喜ばしい、励みとなる出来事でした。

 中小企業が多い造園事業者にとって、重要な戦力である若手を講習会や技能五輪に派遣することは、人的、金銭的な側面から大きな負担となりますが、このような取り組みを継続することは、決して疎かにできません。

業界の地位向上を目的とした日本庭園士

 ──最後に今後、造園業が維持・発展していくためのビジョンのようなものはありますか。

 山本 ここ10年ほどで日本を訪れる外国人旅行者が大幅に増えました。コロナ禍で大幅に減少しましたが、それも収束を迎えつつあり今後、回復していくことでしょう。そのなかで、日本に対して良い印象を与えるものの1つが日本庭園であり、それをつくり出し維持管理することで貢献しているのが、私たち造園事業者です。

 また、海外各地に日本庭園がつくられて現地の方々に愛されていますが、それらも含めて日本庭園は、世界的な文化遺産という位置づけを獲得しています。そこで造園連では「日本庭園士認定制度」を創設し、登録者を増やすことに注力をしています。

 白石 同制度は日本庭園の作庭、管理、修復・改修に携わる技術・技能者の技能水準の向上、社会的地位の向上を図ることを目的としており、それにより国内外の日本庭園の保全と創造、技術・技能の継承・発展につなげるというものです。日本庭園の施工や管理の現場を担ってきた技能者が、まず日本庭園士補として認定を受け、5~10年の研鑽を積みようやく正式に日本庭園士として認定される難易度の高い資格でもあります。

 山本さんからもお話がありましたが、造園業は長期スパンを見据えた事業です。言葉を換えれば、造園業はそれだけ若い人材には大きな期待がかかる、やりがいのある仕事です。環境保全の重要な担い手、日本庭園士という資格の存在などということも含め、造園業の役割をより広く周知することで事業者の地位向上を図り、人材の確保につなげ、それをもって造園業を発展させていきたいと考えています。

美しい日本庭園

(了)

【田中 直輝】


<プロフィール>
山本 辰雄
(やまもと・たつお)
大学卒業後、造園工として就職し、その後、小嶺造園を設立し自営。以来、勉学と経験によって得た豊富な知識と高度な技能を習得し、技能者の育成・指導に尽力している。

白石 信和(しらいし・のぶかず)
1981年に(有)若松緑地建設に造園工として入社。2000年に代表取締役に就任。信望も厚く、その指導力は造園業界の地位向上・発展に多大な成績を残している。
 

(前)

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