2024年03月29日( 金 )

公共性高い「土木」の魅力を知ってほしい(中)

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九州大学 大学院工学研究院 教授 日野 伸一 氏

 ――先生の手がけるモノづくりで難しいのはどのような点でしょうか。
img 日野 いわゆる製造業で生産されるもの、たとえば電化製品と土木構築造物では均質化の点で大きく異なります。電化製品は工場内で一定の環境で、機械的に均質なものが生産されます。しかし、土木構築物は屋外で、しかもそれぞれ異なる経験者が製造することになります。ですから、同じコンクリート材料を使用しても、設計段階で要求された性能が必ず表れるとは言い切れません。しかも、製造後の使用状態や環境がそれぞれ異なります。製造後に、所定の検査を実施することは義務付けられていますが、直後にはクリアできても、いつまで所要の性能を保証できるのか。その予想は非常に難しくなってきます。

 ――それでは、マニュアルは存在しないということですね。
 日野 そうなのですが、それではいけないということで、国をはじめとする道路管理者ごとに点検方法や診断基準に関する規則やマニュアルを定め、維持管理に取り組んでいます。維持管理において、橋や道路の健全度診断は、人にとっての健康診断と同様です。患者の症状を見ながら、原因を探って、処方せんを書くように、私たちもコンクリートや鋼材でできた構造物を診断しながら、解決策を探っています。道路や橋は1970年代の高度経済成長期に整備されたものが最も多く、それから40年以上経過した今、あちらこちらで劣化症状が出始めているのです。人間社会では「高齢化」と言われて久しいですが、実は土木構造物の高齢化も確実に進んでいます。

 ――福岡県内でも公園内の橋が突如、落下するというケースも発生しました。
 日野 小さなものまで含めれば、日本には70万の道路橋があると言われています。長さ15m以上の本格的な橋は14万橋。そのうち、80%以上は地方自治体が管理しています。国や高速道路事業者が管理しているのは、せいぜい10%ほど。県や福岡市のような政令指定都市では、大学で専門知識を身につけた職員が配属され、ある程度の財政も整っています。しかし、多くの地方自治体ではそのような人材もいないし、財政的な余裕もありません。これが土木構造物の維持管理において、最も深刻な問題なのです。少子高齢化で、税収が減っていく。インフラの維持管理にまで、回す余裕がありません。そして、土木を学ぼうとする若い人材が集まらない。先を見据えたときに、頭の痛い状況にあります。国が地方自治体の支援をしようという取り組みがようやく始まろうとしていますが、まだまだ十分には機能していません。

 ――現在はコンクリート製品の研究を行っているようですね。民間企業との共同研究も進んでいると聞きます。
 日野 コンクリート内部の鉄筋や鋼材が腐食する問題が起きています。それに代わる新しい材料として、FRP(炭素繊維・ガラス繊維補強材)の開発を進めています。鉄筋の代わりにコンクリート内部にFRPを使用し、腐食の問題が解決できるのではないかと考えています。またコンクリートの補強として、コンクリートの周囲をFRPでできたシートで覆うという方法も考えられています。大地震発生後、コンクリートの柱を補強する際に、これまでは柱の周りに鉄筋を配し、さらにコンクリートを流し込む方法が取られてきました。この処置では、コンクリートが10センチ以上厚くなりますし、その分だけ重くなります。そうすると、地盤の基礎の部分が耐えられなくなったりと、新たな問題が発生します。FRPのような、軽くて強い素材を活用することで、課題をクリアできます。ようやく一般的に使用されるようになってきました。
 複合構造を追いかけていく過程で、企業との共同研究も始まりました。自治体からの要請を受けて、企業と連携しインフラの補強に関する研究を行っています。具体的には地中に埋設される箱型の構造物で、道路、水路、通信線等の収容などに使用される「ボックスカルバート」の開発、トンネルの天井部を固定する特殊アンカーの設計など事例は増えています。

(つづく)
【東城 洋平】

<プロフィール>
日野 伸一(ひの・しんいち)日野 伸一(ひの・しんいち)
愛媛県出身、九州大学工学部土木工学科卒業。同大学院工学研究科博士課程修了。九州大学工学部助手、助教授、山口大学工学部助教授などを経て九州大学教授。2009年より工学研究院長、工学部長を務め、12年より副学長を兼務して現在に至る。専門は土木工学で、橋梁をはじめとする土木構造物などの開発・設計・維持管理の研究・教育を行う。そのほか、土木学会、日本工学教育協会などの委員、国、福岡県、福岡市などの公営企業体の委員を務めている。

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