DRITTOの「永く愛される家づくり」

（株）DRITTO一級建築士事務所
代表取締役　三原 宏文 氏

顕著な特徴ある立地

　「建築家冥利に尽きる設計だっただろうな」──それが、現地に足を運んでまず感じたことだった。というのも、住宅を建てるうえでの制約と魅力が混在する立地だからだ。具体的には、敷地が切り土された傾斜地、道路から4mほど高い場所にあり、しかも決して広く整った形状でもない。一方で風致地区内にあり、しかも南側と西側は緑地保全地区であり、宅地開発が行われないという緑の豊かな環境でもある。ただ、敷地内の30％を緑化する必要もある。平地にある一般的な土地での住宅設計とは段違いの、明らかに高度なプランニングが要求されたのが井野氏邸だ。

　「延床面積の限界と必要とされる部屋数を考慮しつつ、この顕著なロケーションを生かしながら、どう建物をかたちにしていくのか、なかでも周辺の緑をどう生かし共存させていくのか。それに従っていくのが設計の基本的な流れとなった」と三原氏は振り返る。

    完成した建物は1階にLDK（約23帖）と水回りなどが配置され、2階には家族それぞれの個室がある。このうち、LDKは緑地に面した大開口となっている。「季節感を十二分に感じられ、高低差のおかげで道路からの視線が遮られるため、プライバシーも確保されるよう設計」（三原氏）。また、大変多忙な井野氏家族の暮らしに配慮し、玄関ホール→LDK→パントリーなど回遊性がある動線も採り入れられた。

　各所には遊び心も感じられる。その1つが隠し部屋の存在。玄関ホールの靴箱の一部をドアとしたもので、その見た目から奥に部屋があるとはまったく想像がつかない、この住宅の特徴的なスペースの1つとなっている。小屋裏空間を利用したロフトスペースもそうだ。天井高が低いため籠もり感があり、シアタースペースなどとして活用されている。竣工から約1年。「三原さんに設計を依頼したのは、奥さまと私がママ友であることがきっかけでしたが、依頼して良かった。不満があるとすれば虫が多いことくらい」と、オーナーの井野氏は満足げに話していた。

工務店支援業務も展開

　ところで、三原氏は工務店を対象にした支援業務にも取り組んでおり、現在、その提携先は約10社におよぶ。具体的にはプラン提案の協力、設計内容の検証、さらには若手設計士の教育・育成にも携わっている。

　三原氏は「これにより良い家、まちなみを形成することができ、オーナーメリットも高めることができる。また、実際に家づくりを担っている地場の工務店と協業することで、家づくり本来の姿、業界像になっていくのではないか」と話し、今後も協業も含めた展開で、魅了的な建築物の供給、福岡のまちづくりに貢献していく考えだ。

【田中　直輝】

チェックポイント

　LDKの様子。手前から吹き抜けの最奥部まで奥に進むにつれ、開口部が大きくなり明るさが増すように工夫されている。「お昼は日差しが差し込んで暖房がいらないくらい」（井野氏）と話すほどの快適な空間となっていた。開口部とデッキがフラットにつながり、それも開放感を演出している点もチェックポイントの1つだ。内装は既存のお気に入りの家具を生かして違和感なくコーディネートされ、落ち着きのある空間に仕上げられている。

井野氏邸
所在地　：福岡市南区
敷地面積：173.03ｍ²
延床面積：129.79ｍ²
構　造　：木造軸組（2階建て）
竣　工　：2021年11月
家族構成：5人

＜プロフィール＞
三原　宏文（みはら・ひろふみ）
1974年生まれ。武蔵工業大学工学部建築学科卒業。大手ハウスメーカーの住宅設計職としてキャリアをスタートし、地場の工務店、デザイン会社を経て独立。戸建注文住宅はもちろん、マンション、店舗、リノベーションなど幅広い建築物の設計を手がけている。

＜COMPANY INFORMATION＞
（株）DRITTO（ディリット）
代　表：三原　宏文
所在地：福岡市南区三宅2-1-28
設　立：2022年11月
資本金：100万円
インスタグラム：dritto_mihara