2024年05月11日( 土 )

移住者から見た糸島の可能性と課題(後)

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改めて考えてみる糸島の魅力

 ──糸島の知名度は気付けば全国区になりましたが、改めて魅力はどこにあると思われますか。

 中村 糸島と一口にいっても、二丈、前原、志摩と、エリアごとに景観も土地柄もガラリと変わります。一次産業も農業、漁業、畜産業、それぞれに強みがあり、アーティストとして活動される人が手がけたオシャレな雑貨屋やカフェもある。また、福岡空港まで電車1本で約50分と、福岡市の中心部への交通アクセスも良い。牧歌的で多様性に富んだ地域でありながら、都市部の利便性も享受しやすく、人口も約10万人とゆとりのある規模で、個々の顔が見えやすい。だから官民一体となって糸島というブランドを共創しやすい。何かが特出しているというよりも、総合力の高さが糸島最大の魅力じゃないでしょうか。伊都国という歴史の深みもありますし、最近だと九州大学伊都キャンパス(以下、九大)の存在も大きいですよね。若い世代が定期的に相応数流入してくる、そのインパクトは大きいですよ。

 後原 福岡市の周辺に、競合する同じような地域がないというのも大きいかもしれません。海辺のまちで、福岡市にも比較的近いという点では、福津や宗像もそうですが、糸島だとサンセットなど、個人発のサブカルを楽しめる場所やイベントが、糸島を象徴するものとしてしっかり育っていますよね。サンセットは、私が20代のころからありましたから。あと、遊びに行く場所の選択肢として、隣に唐津もあり、交通アクセスの良さが福岡市だけに限定されていない点も強みですね。九大に通う学生たちにとっては、自分たちで何か挑戦しようとしたときに、空き部屋などの場所を借りやすい状況がある。たとえば本屋を開いてみるといったような、若い人たちの挑戦を受け入れられる“余白”が充実しているのも強みじゃないですかね。前原商店街にいると、とくにそう感じます。

 ──逆に、もっとここをこうすれば良いのに、と思うところはありますか。

浦川 洸一郎(うらかわ・こういちろう)氏
浦川 洸一郎(うらかわ・こういちろう)氏

    浦川 子育てをしている身からすると、もっと公園の内容を充実してほしいなと思いますね。たとえば、糸島には本当にバスケットコートが少ない。故郷の唐津には結構多いんですよ。まぁ、最近映画「スラムダンク」を観た影響もあるんですけどね(笑)。あと、観光客のなかには、宿泊場所は博多のホテルという人が多い。そのため、お勧めの飲食店なんかを聞かれたときに、帰りの時間を考慮すると、本当に紹介したいお店を紹介できないということがままあります。それを考えると、街中に泊まれる場所がもう少しあったほうが良いのかなと思います。

 後原 私は子どもたちがもっとアート・芸術文化に触れる機会があると良いなと思うので、小規模でいいから、落語や音楽発表会、コンサートができる演芸場をつくりたいですね。あと、これは懸念していることですが、そろそろ過剰開発の段階に入ってきたのかなと。二丈鹿家でも開発の話が聞こえてきますし、当然場所によりますが、販売価格5,000万円台の住宅も出てきています。

 中村 資本がある人しか入れないまちになるのは良くないですね。誰もが参画できて、工夫で面白くできるまち、それが理想です。糸島の特徴の1つに、間借り文化があると思っていて、店の一角を借りて、空き時間にカフェやおにぎり屋さんを開く人が結構います。やってみたいことを低リスクで試せることに加えて、地元の先輩事業者がお客さんを紹介してくれたり、ノウハウを教えてくれたりもする。本来ならば商売敵になるわけですから、普通はそんなことしませんけど、糸島におけるこうした相互扶助の在り方は、若い事業者にとって心強く、九大の卒業生のなかには、卒業後もそのまま糸島に残って起業する人もいます。

残された糸島の武器は一体何か

 ──最後に、糸島がこれからも賑わいを持続していくために、何が必要だと思いますか。

 後原 今、市と一緒に安全にサイクリングを楽しめるように自転車マップを作成中ですが、そのなかで私は、平原遺跡やワレ塚古墳などをめぐる歴史コースを担当したんです。そこで思ったのが、遺構をもっと活用できないかということです。現状は説明文が立て看板に記載されているだけなので、遺構までの動線設計を含め、観光客が遺跡や古墳の成り立ちなどを面白く学べる仕掛けをつくれないかな、と。歴史コンテンツこそ糸島固有の観光資源であり、深堀りする価値があると思っています。このまま通いやすい観光地としてだけで終わって欲しくないというのが、正直な思いですね。

 浦川 子育て中ということもあり、個人的には子どもが住みやすいまちになってくれればと思っています。ベビーカーを押しやすいように道路を舗装したり、自転車専用道路を設けたり、見守る親も安心できる環境整備が進んでくれればいいな、と。あとは、新旧住民や、地元の人と九大生の世代間交流は進んでいると思うので、移住者間でももっと交流の輪を広げていければいいなと思っています。そうすれば、もっと面白いことができるはずですから。

 中村 糸島市は、経済至上主義とは違う方向性への発展を示せるポテンシャルを秘めていると思います。市民のなかには、新しい地域通貨の在り方を模索している人もいます。だからこそ市には、こういう生き方も選択できると、ほかの地方自治体に先行してモデルケースを示してほしい。それぐらいの意気込みをもって、これからのまちづくりに励んでほしいですね。

(了)

【代 源太朗】


<プロフィール>
中村 真紀
(なかむら・まき)氏
学卒後、(株)西友に入社。以降、国内外の企業に所属し、流通業界で経験を積む。2020年に糸島市に移住し独立。(株)まんまを設立し、これまでの経験を生かしコンサルティングやコーチングなどを行う。21年よりサツドラホールディングス(株)社外取締役。

後原 宏行(せどはら・ひろゆき)氏
ウェブ企画・制作などを手がけるカラクリワークス(株)代表取締役。2016年に糸島市に移住。いとしまちカンパニー(同)では、「オープンコミュニティスペースみんなの」などの企画・運営を通じて、糸島の活性化に取り組んでいる。

浦川 洸一郎(うらかわ・こういちろう)氏
コーヒー焙煎所兼ショップ「SAZANAMi(サザナミ)」の店主を務めるほか、Studio Kura(スタジオクラ)絵画教室糸島校でイラストの先生としても活動。自身も、個展の開催やオリジナルグッズの販売を行うなど、作家活動を続けている。


【今回の対談場所】
糸島の顔がみえる本屋さん~通称「糸かお」

所在地 :福岡県糸島市前原中央3-2-14
     (前原商店街内)
営業時間:午前11時~午後5時
定休日 :不定休

糸島の顔がみえる本屋さん

 

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