2024年05月09日( 木 )

【熊本】復興特需からTSMC狂想曲へ(前)

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TSMC進出の影響で、周辺は“狂想曲”の様相

着々と建設が進むTSMC熊本工場
着々と建設が進むTSMC熊本工場

 熊本県菊陽町で現在、世界最大の半導体受託製造企業TSMC(台湾積体電路製造)の工場建設が急ピッチで進んでいる。

 場所は菊陽町の北東部で大津町との町境に位置し、合志市にまたがる工業団地「セミコンテクノパーク」の南側に隣接する一角。現地では大型のクレーンが幾本も屹立しており、遠目からでもその規模の巨大さが確認できる。同工場はTSMCにとって中国、米国に次いで3カ国目の国外工場で、21万3,339m2の敷地にSRC造・地下2階・地上4階建、延床面積22万6,423m2のFAB棟(工場)やCUP棟(工場の動力である電力・水などを制御・管理する施設)を建設する計画。地上部の構造は4階建とはなっているものの、現地で見上げる限り、オフィスビル10階程度の高さは優にあるように見える。

 TSMCが熊本に工場を新設すると正式に発表したのが、2021年11月のこと。そこからあれよあれよと話が進み、22年4月には新工場が着工。現在は23年末の竣工を目指して、現場の作業員5,000人体制で昼夜問わず建築が進んでいる。完成後に同工場の運営を手がけるのは、TSMCの日本子会社・JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(株))で、同社にはTSMCが過半数を出資するほか、ソニーセミコンダクタソリューションズ(株)と(株)デンソーが少数株主として参画。今回の進出に際しての投資額は約86億ドル(1兆円超)で、そのうち日本政府が最大4,760億円を補助するとされている。工場完成後は、24年12月からの出荷開始を予定しており、回路線幅が10~20nm台の半導体を月に5万5,000枚生産する計画で、約1,700人が勤めることになる。

 現在、近隣では多くの工事関連の車両がひっきりなしに行き交うほか、現場近くのコンビニやディスカウントストアの駐車場に停まって店舗の売上増に貢献している様子がうかがえる。一方で、工場建設地の南側を走る熊本県道30号(大津植木線)をはじめとして周辺道路は片側1車線がほとんどで、増加した交通量を受け止めきれずに渋滞が頻発。TSMC熊本工場の隣にあるソニーに勤めている菊陽町内在住の40代男性によると、通勤時間帯の交通量は体感で約1.5倍程度に増加しており、通勤所要時間も同程度増加したという。

 また、TSMCの工場進出にともない、立地する菊陽町だけでなく近隣の合志市や大津町を含めた周辺一帯では、関連する新たな工場の開発計画が次々と発表。ソニーグループが合志市に半導体の新工場建設を検討しているほか、日本通運が益城町に半導体関連産業向けの倉庫を建設する旨を発表。これ以外にも、多くの企業が周辺への工場進出の方針を打ち出している。さらには、TSMCが日本に第2工場を新設することを検討していることも明らかになっており、第1工場のある菊陽町周辺一帯がその候補地として有力視されていることで、周辺の土地の取得合戦と開発合戦がさらに過熱。別項で取り上げているが、周辺では工業地だけでなく商業地や住宅地でも地価が高い上昇率を示すなど、さながら“TSMCバブル”もしくは“TSMC狂想曲”といった様相を呈している。

菊陽町役場
菊陽町役場

     そうした状況下で、TSMCに関連する対応を急遽迫られているのが、立地自治体である菊陽町だ。菊陽町では22年度に産業振興部のなかに「半導体産業支援室」を新設。TSMCをはじめとした台湾側からの要望などを一手に受け付けて対応する総合窓口として、日々業務にあたっている。

 「TSMCという会社の特色というか、台湾企業の特色というか、国内企業とは違うさまざまな要望を受けています。たとえば居住先についてですが、単身だけでなく家族連れで日本に来られる方も多いので、3LDKの賃貸マンションのニーズが高い傾向にあり、そうした要望などを民間の不動産業者の団体などに伝えています。国内企業に比べ、かなりスピーディーな対応を求められるので、なかなか大変です」(半導体産業支援室)。

 こうした日本側の関係機関との調整役や民間企業への橋渡し役などを務めるほか、国内の企業からの問い合わせにも対応。最近多くなっているのが、TSMCにあやかろうと、菊陽町内への進出を希望する企業からの問い合わせだという。

 「TSMC進出の発表以降、『菊陽町に進出したい』という企業さまからの打診も増えましたが、菊陽町は町内の大部分が市街化調整区域であり、農業振興地域(農振)がかかっているところも多くあります。残念ながらご案内できる工業団地などはないのが現状です」(半導体産業支援室)。

 菊陽町では、幹線道路から少し入ると途端に一面の農地が広がるなど、町域のほとんどは市街化調整区域となっている。市街化区域は町西部の国道57号沿いなどの限られた部分のみで、町全体の約15%にしか過ぎない。その限られた土地の争奪戦が繰り広げられており、企業進出を受け入れるだけの余剰地は皆無に等しいのが現状だ。市街化調整区域の広大な農地を転用することで、新たな開発が可能な土地を捻出できなくはないものの、通常であれば転用の許可や諸手続きには時間がかかってしまう。にもかかわらず、周辺の農地を買い求めようとする不動産ブローカーの存在が噂されるほど、土地の争奪戦が激化している模様だ。

 今後、TSMCの第2工場がどこに進出するかはまだ定かではないものの、菊陽町周辺での狂想曲はまだしばらくの間は鳴り止みそうにない。

(つづく)

【坂田 憲治】

(中)

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