2024年05月19日( 日 )

熊本23年地価公示、TSMC進出で「過去例を見ない現象」(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

集落内開発制度
 建築が制限されている市街化調整区域において、住宅等の建物の建築を可能とする制度。菊陽町では、集落内開発制度の区域=都市計画法(昭和43年法律第100号)第34条第11号に定められた都道府県の条例で指定する土地の区域が2008年4月に指定され、開発許可制度の運用が開始された。

建築が可能なもの
(1)住宅
   (共同住宅、寄宿舎および下宿を除く) 
   〔1区画の敷地面積は、200m2~500m2
(2)店舗面積500m2以内の日用品販売店舗
   〔1区画の敷地面積は、2,500m2以内〕
(3)店舗併用住宅
   ((1)、(2)に該当するもの)
   〔1区画の敷地面積は、2,500m2以内〕

上位8/10がTSMC要因

 熊本県内における公示地価の上昇率上位を【表】にまとめた。今回の地価公示の上昇率上位は、そのほとんどが熊本都市圏の東部エリアに集中する結果となった。とくに1位となった菊陽町の地点は20%を超える上昇率となるなど、急激な伸びを見せた。

 県内上昇率1位となった「菊陽町大字津久礼字石坂2343-2」は、JR三里木駅から徒歩2分にある3階建の賃貸住宅兼店舗ビルで、駅前立地らしく周辺には飲食店舗もあるが、多くの戸建住宅が建ち並ぶ。西側のゆめタウン光の森、南側を走る東バイパスからも近く、住宅地として人気のエリアとなっている。

 熊本市北区から大津町にかけて通る東バイパス沿いには、ホテルや商業施設、賃貸マンションが建ち並んでおり、熊本都市圏の東側への拡張と合わせて、新規出店も増えてきた。TSMCの新工場建設が始まってからは、作業員用にホテルや賃貸マンションは高稼働状態が続いており、菊陽町や大津町では熊本市中心部より空室が少ないホテルも目立つ。また、後述するように、新工場周辺の賃貸住宅は「実質的に空室率0%」となっており、需要過多の状況にある。そしてこの需要に対応するため、わずかに残された「住宅建築が可能な土地」ではアパート・マンションの開発が相次いでいる。

 2位となった「菊陽町大字津久礼字石坂2172-25」は、JR光の森駅南口まで徒歩4分の位置にあり、周辺には戸建住宅のほか、東バイパスからも1~2分にあり、ロードサイド店舗も近い。菊陽町内では希少な市街化区域が集中する西側にあり、前述のゆめタウンなど開発が進んでいるエリア。

 3位の「菊池郡大津町大字大津字拾六番町屋敷1096-2外」は、JR肥後大津駅から徒歩7分にある東バイパスの旧道(現・県道30号)沿いの低層店舗ビル。JR肥後大津駅があるJR豊肥本線は、16年4月の熊本地震により肥後大津駅~阿蘇駅間で不通となっていたが、20年8月8日に全線で運転を再開していた。熊本駅から肥後大津駅は電化区間で、市内中心部への通勤・通学の足として利用されており、肥後大津駅は県内でも上位の利用者数を誇る。

 もちろん、TSMC特需による住宅不足はこのエリアでも顕著で、供給計画の主体は不足しているファミリー向け住居だが、「長期的に市場を見て、単身向け住居の供給を予定している」と話す開発業者もおり、エリアとしては賃貸住宅の選択肢が増えそうだ。

通販需要で流通団地も上昇

 4位となったのは、こちらも東バイパス沿いの「熊本市東区石原2-3-10」で、熊本ICまで車で5分以内にある質店舗。幹線道路沿いということもあり、周辺はロードサイド店舗が建ち並ぶ商業エリアとなっている。こちらもTSMC進出をきっかけに周辺の不動産価格が高騰していったことから、大幅に上昇した。

 5位となった「熊本市南区流通団地1-34」は、物流関係の倉庫や営業所等が集積する流通団地で、中心部に近いことから引き合いの多いエリアにある。取引の中心となる規模は1,000m2から2,000m2程度で、一棟貸しの賃貸物件の取引も見受けられる。地価上昇は、通販事業の拡大といった流通業務用地に対する需要の増加によるもので、上昇率上位の地点では、TSMC進出との関連が薄い2地点のうちの1つとなった。

 6位の「熊本市北区弓削5-22-13」は、2位の地点から東バイパスを隔ててわずか徒歩6分、菊陽町との市町境付近に位置する区画整然とした閑静な住宅地域。JR光の森駅南口までも徒歩7分程度と交通利便性も良好で、需要は底堅く推移してきたところにTSMC進出効果を受けて、さらに上昇した格好となった。

(つづく)

【永上 隼人】

(前)
(後)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事