2024年05月08日( 水 )

木造非住宅の普及には、建て方の標準化が必須

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(株)キユーハウ
代表取締役社長 岩永 彬 氏

 住宅産業は競争激化や資材の高騰、大工や職人などの人材不足といった課題を抱えている──その解決策の1つが、今や住宅供給に欠かせないのがプレカット木材で、木材利用を非住宅分野へ拡大するカギとなるものだ。そこで、福岡におけるプレカット供給の代表的な企業、(株)キユーハウの岩永彬社長に、木材活用拡大にあたっての課題や改善の在り方などについて意見を聞いた。

Just in Timeで部資材を供給

(株)キユーハウ  代表取締役社長 岩永 彬 氏
(株)キユーハウ
代表取締役社長 岩永 彬 氏

    ──御社は早くから九州・福岡において、プレカット事業に取り組んできました。

 岩永 当社は1957年に「福岡ベニア商会」として創業したのが始まりです。85年に現商号に変更しました。2018年末には、持株会社「(株)キユーハウホールディングス」を設立し、4つのグループ会社を傘下に置いています。「地域社会のより良い住まいづくりへの奉仕」を企業理念とし、住宅建設に関わるさまざまな素材を、福岡や九州の工務店や建設会社に供給しています。

 中核となっているのが、89年に開始した木材プレカット事業です。それまで大工さんが現場の手作業で行っていた木材加工を、工場のコンピューター制御機械で行えるようにしました。2002年に自社プレカット工場を新設、07年にはパネルプレカット工場を増設して、顧客の要望や条件にきめ細やかに対応する体制を整えてきました。自社配送部門があることから、プレカット材を含む資材を施工現場にジャスト・イン・タイムで供給できることも当社の強みの1つです。

 ──プレカット草創期には、混乱はなかったのでしょうか。

 岩永 プレカット材による住まいづくりについては、当初は「大工各人の職人技が発揮できなくなる」と反発も受けました。しかし、品質の安定や工期短縮、それによるコストダウン、さらには建築現場で発生する騒音・粉塵の低減にも寄与することから、急速に受け入れられるようになり、今では不可欠なものになっています。

 住宅資材を取り扱う企業は多いですが、プレカット材についてきめ細かな加工まで一貫して行い、供給できる会社はそう多くありません。また、関連して上棟工事や木工事の代行、いわゆる「サブコン」の業務も行っています。上棟工事には多くの人員が必要ですが、人手不足の深刻化によって、繁忙期には人員を確保できない工務店も多く、近年依頼が増えています。このほか、瑕疵保険や性能評価認定、「エコ住まい支援事業」といった補助金制度の認定書取得などをお手伝いする、工務店サポート業務も行っています。

メリットが多い木造非住宅

 ──福岡の住宅市場については、どのように見ておられますか。

 岩永 巣ごもり需要によって、コロナ禍にあっても比較的活発に動いてきた住宅市場ですが、昨年末から住宅ローン金利が徐々に上昇傾向に転じたこと、部資材価格や輸送費などの上昇を受け、失速気味になっているように見えています。

 福岡では近年、住宅地の価格が高止まりしています。分譲戸建住宅については着工増が依然として続いていますが、それが販売と直結しているとは限らず、こちらもブレーキがかかりつつあるようです。今後は勢いのあるビルダーと、そうではないビルダーの二極化が進むのではないでしょうか。こうしたことから、福岡では以前よりも難しい市場環境となり、その影響は私たちの事業にも影響するものと見ています。

ジャスト・イン・タイムで施工現場に届けられる
ジャスト・イン・タイムで施工現場に届けられる

    ──そのなかで代替となるものとして注目されるのが「非住宅の木造化」ですが、御社ではこの分野をどう見ていますか。

 岩永 モノにもよりますが、木造はS造やRC造と比べて、短期的には節税効果が高く、解体も比較的容易に行うことができるといったメリットがあります。ただ、現在は設計関係者の多くが木造での非住宅建設に不慣れです。まだ明確なことはいえませんが、近い将来に、木造とそれ以外でコストが逆転することもあり得ます。いずれにせよ、商業建築分野で木造建築物を建てるケースは、徐々にですが増えているのが実状です。

 そのため、当社でもプレカット材による木造非住宅の供給のお手伝いができる体制を整備してきました。たとえば、14年にはグループ会社の1つである九州ハウジング(株)(みやま市)内に、大断面の木材加工工場を開設しています。これにより、当社では大空間を実現するために必要なスパンの大きい梁などを加工できるようになり、その結果、柱のない広いスペースが求められる倉庫を、木造によって建設するという事例が見られるようになってきました。また、木造あるいは木質素材を多用した幼稚園や学校、公共施設などの建設事例も増えています。木材に囲まれた空間は、心身の健康にプラスの効果があることが明らかにされつつあることも、木造施設が増えている背景としてあるようです。

公共建築物中心から脱却するためには

 ──とはいえ、全体として木造の非住宅はまだまだ限定的な広がりに止まっています。今後、さらに普及を進めるためには、どのような取り組みが必要と考えていますか。

 岩永 たしかに住宅を除く木造建築物の普及は、公共建築物中心であることは間違いありません。それはコストの問題が大きく関係しています。民間の建築物での普及を進めるためには「建て方の標準化」が必要です。キーマンは設計事務所、つまり構造計算ができる人材なのですが、彼らが容易に設計できるシステムを確立することが大切ということです。ただ、現状は多くの課題があります。

 その1つが木材の強度の問題です。大規模な建物では構造計算を行うことが必須になるからです。強度の問題を解決するには、明確な等級表示がある木材が求められます。日本農林規格に適合した木材「JAS材」がそれにあたりますが、まだまだ一般流通材より高額で、建築コストを重視する民間建築物では採用されにくい状況にあります。もっとも、住宅ではJAS規格に適合した輸入の集成材(断面寸法の小さい木材を接着剤で再構成してつくられる素材)の採用が増えており、公共建築物ではそれを用いるケースもあるようです。国産材の集成材も近年普及していますが、コストが高く主流になり得ていません。

 ──日本には世界的に希な建築様式が豊富にあることも影響しているように思われます。

 岩永 欧米で木造建築の主流になっているCLTを用いることも含め、特別な知識を持つ設計事務所や建設会社がさまざまな様式や独自の工夫を行うことで、木造建築物を建てようとしています。そうではなく、住宅建築に一般的に用いられている木材と設計手法、建築技術を用いる、標準的な建築手法が確立することが、普及の早道になるのではないでしょうか。

九州全体での取り組みが必要

プレカット材
プレカット材

    ──日本、とくに九州は山林資源が豊富ですが、それを生かすには建築分野で木材活用をより増やすことが期待されます。

 岩永 木造建築の標準化に取り組むことに加え、輸送の合理化やトレーサビリティ(追跡可能性)の追求も必要ではないでしょうか。現状では各県単位でそれぞれの木材の活用振興策が進められています。当社は鹿児島や宮崎、熊本、大分など福岡以外の県からも調達し、プレカット加工を施すなどして市場に供給していますが、住宅建築などに用いられる際、その木材が「何県産」なのか見えづらいのが実情です。

 当然、その過程では輸送や製造などのコストも発生します。カーボンニュートラルの実現や、「2024年問題」といわれるドライバー不足を見据えるうえでも、九州全体で取り組むべきです。九州だけならできるのではないか、と個人的には感じています。

 国や自治体においても木材活用の取り組みは始まったばかりですが、このような取り組みが行われるようになったこと自体、大きな時代の流れを感じる出来事です。当社としても九州・福岡の地場企業として、そして山林と住宅・建設事業者、エンドユーザーの間に立つものとして、木材活用の在り方に常にアンテナを張ることで、社会に貢献を続けていきたいと考えています。

【田中 直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:岩永 彬
所在地:福岡市東区箱崎ふ頭4-3-5
設 立:1961年4月
資本金:4,500万円
TEL:092-631-3781
URL:http://www.kyu-hou.co.jp/

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