2024年05月20日( 月 )

建設業の人手不足問題 そのメカニズムと解決の糸口(中)

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多重下請構造の弊害(1)
価格ダンピングと中間搾取

 その元凶を、我が国建設業界の構造そのものに見出す人は多い。「工事全体の総合的な管理監督機能を担う元請の下、中間的な施工管理や労務の提供その他の直接施工機能を担う1次下請、 2次下請、さらにそれ以下の次数の下請企業から形成される重層下請構造」(国交省)、いわゆる「多重下請」による分業体制である。

 この重層下請構造は、高度成長期からバブル経済期にかけて、増大の一途をたどる建設需要に応えるなか、次第に確立されていった。1つの頂点企業の下で、各業者が独立性を保ちつつ、それぞれの労働力・機械力・技術力を融通し合うというこの体制─「八ヶ岳型」と呼ばれる──は、規模も内容もさまざまなオーダーを、1件ずつ受注し生産していくこの業界で、必然かつ合理的なことだったのだろう。実際、それは業界全体の生産性を高め、技術革新を生み出す母体になった。

 ところが、バブル崩壊を機に建設需要が減少に転じると、この体制は一種の収奪装置のように働くようになる。激減したパイをめぐって受注競争が激化。元請各社はとにかく受注して売上や実績を確保しようと、著しく低価格で請け負うようになった。財政基盤の固い大手ゼネコンがそうして大規模事業をさらっていき、その残りに中小元請が群がって、これまた低価格競争を繰り広げる。当時、銀行が中小建設会社への貸し渋り・貸し剥がしに出たことも、彼らの低価格受注競争をヒートアップさせた。いわゆる「価格ダンピング」である。

 元請の受注価格が下がれば、下請に支払われる対価も下がる。このような局面では、両者の間では協働者としての性格よりも、発注・受注の上下関係こそが前面に押し出され、下請業者は指値発注でもこれを受けざるを得ない。このことは彼らをコストカットに走らせ、請け負った労務の一部あるいは大部を外注化するという手立てを講じせしめた。つまり、下請の下請、さらにその下請と、体制の重層化・複雑化がどんどん進んでいったのだ。

 間に介在する業者の数が増えれば増えるほど、建設現場での労務提供を担う下位下請が受け取る対価も少なくなり、利益率も低くなる【図4】。マージンを得ることそれ自体が目的の、建設業者としての実態のほとんどない業者も跋扈し、不要な「中抜き」が幾重にも行われるようになった。その皺寄せは当然、現場を支える末端労働者の低賃金というかたちで表れる。

【図4】建設業売上高別 売上高営業利益率の推移((一社)建設業情報管理センター「建設業の経営分析」のデータに基づき筆者作成)
【図4】建設業売上高別 売上高営業利益率の推移
((一社)建設業情報管理センター「建設業の経営分析」の
データに基づき筆者作成)

多重下請構造の弊害(2)
工期ダンピングと保険未加入問題

 受注単価の低下はまた、元請に“量をこなす”ことを指向させる。かくして建設業界では、著しく短い工期で受注すること、いわゆる「工期ダンピング」の横行を見た。

 これが労働環境を悪化させるだろうとは、容易に予測できることだった。ただでさえ、天候不良や種々のトラブル、施工内容の変更などで、スケジュール通りに進まないのが建築現場の常である。工期に間に合いそうになければ、追加の人員や重機を手配するなどの対応が不可欠だが、下位下請業者にはとてもそんな余裕はない。そこで、今あるリソース=労働者をフル稼働させる、長時間労働が常態化したというわけだ。

 また、下請業者にとって、雇用保険や健康保険など、従業員1人あたり15%前後の法定福利費は大きな負担となる。法令を遵守してこれを負担すると、今度は競争上不利になる。そんな矛盾した状況にあって、社会保険に加入せぬまま労働者を働かせる業者が出てくるのは当然だ。実際、11年10月時点における、建設企業の3保険加入率は、1次下請の85%に対し、2次下請が約73%。3次下請に至っては約66%という低さだった【図5】。

【図5】3保険加入状況(企業  元請・下請次数別)
各年度10月時点
(国交省「公共事業労務費調査」より筆者作成)

 偽装「一人親方」──実質的な雇用労働者を個人事業主のような扱いにし、社会保険料の削減や労働時間の規制逃れを画策する行為―といったモラルハザードもはびこるようになった。こういった労働環境は、若者たちを惹きつけるにはほど遠く、その原因はすべて、下請制度が重層化する過程で根づいてしまった、収奪の構造に収斂するのである。

(つづく)

【黒川 晶】

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(後)

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