2024年05月14日( 火 )

組合のシンボル 「CLT」採用の本部事務棟が運用開始

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エフコープ(生協)

堤理事長(左)と西田常勤理事
堤理事長(左)と西田常勤理事

 エフコープ(生協)は昨年12月、構造体に木質素材「CLT」(※)を採用した本部事務棟を竣工し、運用を始めている。福岡県内ではまだ数少ない、民間による大規模木造建築物の建設にはどのような狙いがあったのか、運用開始後の状況なども含めて、代表理事で理事長・堤新吾氏、常勤理事の西田浩基氏に話を聞いた。

※「Cross Laminated Timber(クロス・ラミネーティッド・ティンバー)」の略で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料

■本部事務棟の概要
建築面積:約2,033m2
延床面積:約6,990m2(4階建)
設  計:(株)洋建築計画事務所
技術監修:福田展淳・北九州市立大学国際環境工学部
     建築デザイン学科教授
施  工:松尾建設(株)
構  造:CLTと鉄骨造によるハイブリッド構造
     (準耐火建築物)
着  工:2021年11月
竣  工:2022年12月

持続可能社会実現へ

 ──本部事務棟建設のきっかけをお話しください。

 堤 本部は以前、隣接する篠栗冷蔵流通センターの2階にありました。1986年に建設されたものですが、施設に求められる機能が変化するなかで、老朽化に加えて、本部の事務機能と商品加工・集品機能が混在し、セキュリティ上の問題を抱えるようにもなりました。そこで、それぞれの機能を分離することとしたのが、建設のきっかけです。本部事務棟を木造化することは、持続可能な社会の実現に向けた私たちの「2030年ビジョン」と関係しています。
 「食への思い」「ひとへの思い」などからなる6つの基本方針のなかに「未来への思い」という方針があり、脱炭素社会への転換を掲げています。その一環として、地域循環社会の実現を図るため、18年から福岡市水道局と協定を結び、森林整備などを行う「コープの森づくり」にも取り組んできました。本部事務棟の木造化、省エネ化はそうした動きに連動するものとして、自然な流れのなかで計画されました。

 西田 ただ、それを4階建のビルで実現するのは、高度な知見や専門性が求められました。そこで、子会社の(株)アップルハウジングが全体をサポートするかたちで、専門家も交えたプロジェクトチームを発足。CLTの構造計算や意匠設計に対応できる(株)洋建築計画事務所、省エネ建築に詳しい北九州市立大学の福田展淳教授、CLT建築物のノウハウを持つ松尾建設(株)らとタッグを組み、実現へ向け動きました。この建物は柱と梁などを鉄骨、壁と床(天井)などにCLTパネルを用いるハイブリッド構造ですが、パネル配置にはミリ単位の調整が求められるなど、施工上の難しさにも直面しました。

 堤 使用する木材のすべてを九州産材としました。内訳は鹿児島県産が56%、宮崎県産が33%、福岡県産は11%となっています。総CLT使用量は840m3(336t)に上り、鹿児島・宮崎・福岡の木材を使用。福岡県産材は構造部以外の箇所でも活用しました。これはCLTの生産拠点が福岡県内にない現状を踏まえたもので、CLTは鹿児島県の山佐木材(株)から調達しました。

決して高くない事業費

建設に用いられたCLTパネル
建設に用いられたCLTパネル

    ──環境性能が高い「ZEB」(※)であることも特長の1つですね。

 西田 CLTは熱伝導率がコンクリートの10分の1、鉄の350分の1と、断熱性に優れた素材です。構造体にCLTを用いたうえで、断熱性が高いLOW-E複層ガラス、採光や換気の工夫、日射調整効果を考慮した庇のデザイン、明るさ検知センサー付きLED照明などを導入することで、建物の「省エネ」性能を高めています。
 加えて、太陽光発電(約255Kw)などの再生可能エネルギーや、コジェネレーションシステム(ガスで電気をつくり、排熱を冷房に有効利用する仕組み)による「創エネ」設備を導入。蓄電池(15kWh×4基)・V2Bシステム(4基、電気自動車とビルの間で電力をやりとりできる仕組み)の導入など「蓄エネ」を組み合わせることで、従来型の建物に比べエネルギー消費量を75%以上削減し、温室効果ガスの排出量も大幅に削減。レジリエンス(災害への備え)性も高まりました。
 堤 総事業費は約21億6,000万円ですが、国によるレジリエンス強化型ZEB実証事業(木造先導型)の補助金2億1,400万円を取得できたことから、建設コストを抑制することができました。CLTをはじめとする木造建築物は鉄骨造やRC造に比べ、建設コストが高額と言われていますが、エネルギー削減効果や補助金制度のおかげで、運用開始から半年以上が経過しましたが、「高コスト」という評価にはなっていません。個人的には建物の断熱性能、冷房効果の高さを実感しています。旧事務所では気温が高くなると、壁からの輻射熱を感じることが多かったのですが、今ではそれは皆無ですね。

※「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の略称。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことをいう。本部事務棟はエネルギー消費量を「省エネ」と「創エネ」で25%以下に削減するNearly ZEB(ニアリーゼブ)レベル。

職員の行動変容を促す

 ──エネルギー面以外で、評価が高い部分はありますか。

 西田 この建物は4階建ですが、エレベータを使用する職員がほとんど見られません。この建物で働くようになったことをきっかけに、「できるだけ省エネ行動をしよう」と行動の変容がみられているのです。職員に聞くと、とくに我慢してそうしているようではないようです。職員の環境意識の向上、さらには健康増進にもつながることを考えれば、理事長が評価するように木造による本部事務棟建設は、決して高いものではないと思われます。

 堤 オフィス内でも「木質」を感じられることから、無機質さや威圧感がなく、商談でいらっしゃる事業者の方々からは「木の香りがして気持ち良い」という声や、なかには外観を見て「高級旅館みたい」と話をしてくださる方もいます。嬉しいのが、就職活動でこの建物を訪れる学生さんに、私たちにより良い印象をもってもらえるようになったことです。きっとこの建物が生協のイメージに良く合うのでしょう。私たちの事業を象徴するシンボルとして、この建物が機能をしている印象です。私たちは本部事務棟を多くの方々に公開し、それにより地域や幅広い方々との連携につなげるとともに、木造建築物のさらなる普及にも貢献していきたいと考えています。

【田中 直輝】


<COMPANY INFORMATION>
理事長:堤 新吾
所在地:福岡県糟屋郡篠栗町中央1-8-3
設 立:1983年4月
出資金:243億2,800万円
供給高:(23/3)609億3,900万円

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