2024年05月09日( 木 )

中・大規模木造の普及を新素材・技術研究が後押し(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

北九州市立大学
国際環境工学部・建築デザイン学科
教授 福田 展淳 氏

北九州市立大学 福田展淳教授

 これまで欧米が主流となっていた木造の中大規模建築物だが、近年は日本においても少しずつ建設事例が見られるようになってきた。今後、普及を推進するにはどのような課題があるのかなどについて、CLTなど木造建築物に詳しく、木材の新たな活用法などを研究している、北九州市立大学の福田展淳教授に話を聞いた。

可能性はほかの木質素材にも

 ──施工には、苦労はなかったのでしょうか。

 福田 当初、福岡県産のスギによるCLTで建設する計画でしたが、CLTパネルの製造から施工に至る一連の流れのなかで、それは断念せざるを得ませんでした。補助金事業の期限に合わせるために福岡県産のスギの調達ができず、そのため西日本全域から建設に必要なスギを集めることになりました。ちなみに、CLTについてはメーカーが組立までを行うのが一般的ですので、それほど大きな苦労はありませんでした。建物の設計もメーカーとの連携を密にすることで、とくに大きな負担は感じられませんでした。いずれにせよ、CLTはプレハブ(工業化)手法の素材ですから、先ほど述べたオーストラリアのオフィスビルで言われていたことと同様に、建設前の段階の調整が大切であることを痛感した次第です。

メルディア高機能木材研究所の内部の様子(竣工時 大森今日子氏撮影)
メルディア高機能木材研究所の内部の様子
(竣工時 大森今日子氏撮影)

 ──木造の中大規模建築物は、CLTがベストなのでしょうか。

 福田 必ずしもそうではなりません。私は、集成材はもちろん、無垢材によるものなど、他の木質素材によるものにも大いに可能性があると考えていますし、それを実現するための研究も行っています。たとえば、先ほどの耐火性能に関することであれば不燃材の活用が有効であり、私たちはその研究も行っています。なかでも、割り箸状にした無垢材や、建材になりにくい小径木を圧縮して固めた圧縮木材は、非常に有望なものです。圧縮と同時に乾燥も行え、しかも形態の安定性も高いというメリットがあります。

 この圧縮木材やCLTなどの素材を、ロボットを使ってブロック状に積み上げる建築法についても研究しています。住宅やビルなどの建設を担う職人の数が減少し、それにともない施工現場のDX化が推進されると考えられますが、木質建材をブロック化することで、ロボットでも施工しやすくなるからです。実現すれば、24時間365日自動で施工できるようになり、施工現場の省力化に寄与することができます。

リサイクル建材活用も模索

 ──木造の中大規模建築物の普及が進んでいくことを、期待してもいいわけですね。

 福田 日本、とくに九州にはスギやヒノキの大規模な生産地があります。強度については、RC造や鉄骨に比べて軽い建築物を実現でき、問題はありません。コンクリート素材のようにクラックも発生しませんし。クリアすべきこととしては、先ほどの耐火性能のほかに、金具に頼りすぎない工法・構造の開発があります。というのも、メルディア高機能木材研究所の建設にあたって、接合するための金物が非常に高額であることがわかったからです。木質建材同士を継ぎ手・仕口で結合させる工法が普及すれば、より普及が進んでいくと考えられますし、すでに木造軸組住宅の建設で一般的なプレカット材を活用する工法が普及するようでしたら、少なくとも5階建てまでの中規模建築物の木造化はより推進しやすくなるのではないでしょうか。

 私たちはこのほかに、丸太を角材に圧縮し歩留まりを高めた圧縮木材、解体廃木材やそれをチップ化した木材から、耐水性や強度の高い木材を生産する技術、廃木材を集成材として活用する技術、リサイクル建材を使った住宅構法の研究なども行っています。さらに北九州市立大学では地域や企業などとの連携によるさまざまな研究開発を行っており、それらを通じてカーボンニュートラル実現や環境に優しい社会づくりに貢献していきたいと考えています。

杉105mm正角材による個性的なデザインの
木造住宅の建設手法の開発にも挑戦している

(了)

【田中 直輝】


<プロフィール>
福田 展淳
(ふくだ・ひろあつ)
1988年早稲田大学理工学部建築学科卒。95年同大学大学院理工学研究科にて博士号取得。2000年に北九州市立大学国際環境工学部助教授に就任。06年から東京大学・生産技術研究所研究員。日本建築学会会員で環境ビジネスモデルWG委員、環境設計小委員会・集合住宅小委員会幹事なども務める。博士(工学)、一級建築士。山口県出身。

(前)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事