2024年05月10日( 金 )

IRの現状とハウステンボスへ誘致の是非(前)

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運輸評論家 堀内重人

 IRは「Integrated Resort」の頭文字で、「統合型のリゾート」という意味であり、カジノを含むIR=統合型リゾート施設の整備法は、2018年7月に成立した。
 IRの整備をめぐっては、地元への経済効果やインバウンド需要の拡大などを期待する声が多く、誘致を目指す動きが相次いだが、横浜ではIR誘致に反対を訴えた市長が当選して計画を撤回したほか、和歌山県では整備計画を国に申請するための議案を、議会が否決するなどの動きも出てきた。
 長崎県は、ハウステンボスのハーバーゾーンにカジノを含めたIRを誘致する計画があり、国に申請しているという。
 本稿では、カジノの是非と長崎県の計画について述べたい。

行政がIRを整備したがる理由

 IR整備の目的は、国のIR施設区域整備推進本部によると、「観光振興に寄与する諸施設」と「カジノ施設」が一体となった施設群を、民間事業者が整備することで、集客と収益を通じた観光による地域振興と、新たな財政への貢献を図ることを、意図している。

 我が国では、2006年に観光立国推進法が施行されたこともあり、カジノを含めたIRを観光立国のシンボルと位置付けている。また官民協調のシンボルとも考えられている。

 政府はIRの整備について、競争力の高い観光施設を設けて、訪日外国人を呼び込むことを目的としており、カジノは施設を維持・管理するための財源と位置付けている。

 「IR施設群」と聞くと、「カジノ施設」を連想してしまう。だがカジノ施設の面積は、IR施設のなかで1カ所だけとされ、かつ施設全体の面積では、3%以下にしなければならないという制約を受ける。

 主体は、ホテルや国際会議場・国際展示場であり、それに関連してレストラン、ショッピングモール、劇場や水族館などのエンターテインメント施設が加わる。IRを整備する民間事業者は、これらを一体的に整備・運営することが求められる。

 カジノ施設への入場料収入と、事業者がカジノから得られる収益の3割は、上納金として国と都道府県に納付される。大阪府と大阪市への年間の納付額は、合計で1,060億円を見込んでいる。大阪府と大阪市が整備を申請したIRは、年間の売上は5,200億円と推計されており、このうちの8割の約4,000億円が、カジノ事業による売上を予想している。

 IR法が成立すると、大阪府・大阪市、横浜市、北海道、長崎県、和歌山県などが声を挙げたが、新型コロナの感染拡大を機に、トーンダウンするようになった。

 北海道は、一転して誘致に慎重な姿勢を示すようになり、横浜市もIR整備に反対派の市長の誕生により、計画が撤回された。和歌山県も、申請書の提出を議会で拒否される事態になっている。

 北海道は、IR施設の誘致に慎重な構えを見せるが、誘致先である苫小牧市はIR誘致に前向きである。苫小牧市には、かつて工業団地を誘致しようとして断念した経緯があり、遊休地などもある。もしIR施設が誘致されれば、雇用が拡大するだけでなく、人口減少に歯止めがかかるという思惑がある。そして上納金により財政への貢献という視点もある。苫小牧市は、IR施設を「良質な雇用の場」と考えているが、いまだ国に対して申請書の提出は行っていない。

 現在、国に対して申請書を提出しているのは、大阪府・大阪市と長崎県だけである。

カジノの弊害への対策

 カジノは雇用創出や地方財政の健全化、地域活性化など、プラスの面が強調される傾向にあるが、治安悪化やギャンブル依存症という、負の側面も大きい。治安悪化に対して、事業者の運営を監視するため、免許制が導入された。またギャンブル依存症の対策として、カジノ施設の入場規制が設けられ、7日間で3回、28日間で10回に制限される上、家族などからの申し出があれば、利用を制限することが盛り込まれた。それ以外にも、ギャンブル依存症対策として、カジノへの入場料を高く設定して、カジノへ向かわせなくする方法もある。

 そこで日本人や国内に居住する外国人が、カジノ施設を利用する場合、1回あたりか24時間あたり6,000円程度の入場料を徴収する考えである。

 2022年4月に大阪府と大阪市、長崎県の整備計画が国に申請され、有識者による委員会で内容の審査を続けてきたことから、内閣府の外局として設置された「カジノ管理委員会」が設けられた。ここがカジノ施設の運営などに関して財務の状況や暴力団とのつながりの有無などを審査したうえで、免許を付与する。免許制の採用は、事業者の運営を監視して治安を維持するため、IR整備法で定められた。

 この委員会はカジノ施設の運営の監視を行う役割を担っており、立ち入り検査を行うことができる。そして違反が見つかれば、免許を取り消すことができるなど、強い権限が与えられている。

 また「ギャンブル依存症増加」と「資金洗浄」が、懸念材料である。ギャンブル依存症の増加に対しては、マイナンバーカードや顔認証システムによる入場制限を行う。そしてIR区域外でのカジノの広告は原則禁止され、自動現金支払機(ATM)の設置も禁止して、ギャンブルによる破産などを防ぐようにする。

 資金洗浄に対しては、国際基準に準拠した内部統制システムの構築、暴力団などの排除を掲げている。

 カジノ施設の完成後は、機器などの検査が行われ、問題が無ければIRが開業することになる。

(つづく)

(中)

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