2024年04月29日( 月 )

6割棄権の八王子市長選に物申す 有権者の無関心が政治を腐敗させる

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 任期満了にともなう東京・八王子市の市長選挙の投票が21日に行われ、自民党と公明党が推薦した新人の初宿和夫氏が初当選をはたした。与党に逆風が吹くなかの、与党系候補の勝利はいったい何が原因なのか。

前回より7.20ポイント上昇

 今回3期務めた現職が引退表明し、新人5人での戦いとなったが、八王子市は、自民党安倍派の裏金問題や旧統一教会問題の渦中にある萩生田光一前政調会長の選挙区ということもあり、自民党への逆風のなか、当初は野党系候補に有利とみられていた。投票率は、38.66%で、前回の選挙より7.20ポイント上回った。

 しかし、ふたを開けてみると初宿氏が、立憲民主党、共産党、社民党、八王子・生活者ネットワークの支持を受けた元都議会議員・滝田泰彦氏を6,645票上回った。今回の市長選において、初宿氏以外の滝田氏をはじめとする陣営は「裏金のはびこる、古い政治体質を変えよう」と、裏金問題を争点に掲げ市民に訴えており、八王子市民に一定の訴求があったことは間違いない。

 これに危機感をもった初宿氏陣営は、街頭演説やSNSなどで「市長選は、市の将来のかじ取りを選ぶ選挙で、政権批判は国政選挙で」と強調していた。

八王子は創価学会の城下町

八王子市役所
八王子市役所

    八王子はどのような地域性があるのだろうか。東京・多摩地域南部に位置し、2015年に東京で初めて中核市に指定された、23区を除く東京都内の自治体のなかで最も人口が多いという特徴をもつ。そして忘れてはならないのは、八王子が「創価学会の城下町」ということだ。創価大学や東京牧口記念会館、東京富士美術館など学会関連の施設が林立し、当然、市民のなかに信徒の数も多い。市政に関しては、革新市政が続いた近隣の国立市などと比べると保守地盤といえる。

 萩生田氏の裏金問題や旧統一教会との関係は、創価学会が一番嫌う「政治とカネ」の問題や、「社会的に問題のある団体」との不透明な癒着であり、学会は応援しないのではないかとみられていた。その萩生田氏が応援する候補は相当厳しい状況にあるという認識が政治関係者の間にあった。

 しかも、昨年4月の八王子市議会議員選挙で、共産党は1人増え、自民・公明に次ぐ第3会派になった。立憲は改選前の2人から4人に増え、労組系の議員と会派を組むため5人となり共産党と並んだ。同市議会の定数は40議席だが、自民公認や無所属の自民系から15人が立候補し、13人が当選した。前回は17人が立候補し、16人が当選した。19年の市議選では、自民公認・自民系無所属の得票数の合計は7万3,664票で、昨年4月の選挙では6万5,314票と8,360票少なかった。これを受けて「八王子はリベラルになりつつある」とまでいった自民党関係者もいた。

無関心とあきらめが政治腐敗につながる

 つまり、裏金問題や旧統一教会問題でまともに説明もしていない萩生田氏が推す候補を通してよいのかという統一戦線で勝つことは十分見込まれた。

 開票作業は午後9時に始まったが、「滝田氏先行」の情報も流れ、午後10時半時点の速報値では初宿氏と滝田氏は互角。当確が判明したのは午後10時40分を過ぎていた。

 与党系に不利な条件が多く、投票率も前回より増えたとなれば、その勢いで市政の大転換が起こったはずだが、自公推薦候補が勝った。小池百合子都知事が与党系を応援したなどいろいろな分析も今後なされるだろうが、肝心な投票率に注目したい。

 前回より増えたといっても、6割の有権者が投票に行っていない。行かない理由は、それぞれあるかもしれないが、「選挙なんか行ったってどうせ変わらない」というあきらめの姿勢が大きいのではないか。

 事実、元衆議院議員で、世田谷区長を務める保坂展人氏は、自身のX(旧・twitter)において次のように投稿した。

「八王子市長選挙の投票率は、4割に届かなかった。それでも、前回の3割よりは8ポイント近く上昇はしているが、それでも6割を超える有権者が棄権している。この選挙は『裏金事件捜査』の只中で行われた。従来までの『古い政治』に批判が高まった時期と重なっている。政治転換の大きなチャンスだった」

「今年、『解散・総選挙』が行われる。政治の現状に強い不信を抱き、失望が広がるとともに、『無力感(アパシー)』『何を言っても、やっても無駄だ』という気分が広がっていくことで、投票率が低迷することで『既得権』を持つ側に有利にはたらく。それが、新たな失望の政治を再来させる悪循環だ」

 まさにその通りだろう。ズバリいえば、選挙に行かない人間こそ政治が腐敗する原因といってよい。棄権は、自らの生存権をも放棄する愚かしい行為だ。政治はがすぐ変わることはない。複雑な利害関係などが絡み合って形成される。それでも、声を挙げ、意思表示をしなければ政権が好き勝手するのは当たり前だ。

 他国を見ると、政府が国民生活を顧みないとなると、実力行使もともなう激しいデモや抗議行動が行われる。日本では、政治の話はタブーであり、個人の生活を楽しむことが優先される。そのように教育されてきた結果だが、重税を課され、国民生活の仕組みが為政者に都合よく変更されても、何ら声を挙げないようになった。SNSでは、批判の声は多いが、多くは匿名の投稿で肝心な投票には行かないし、直接政治家に意見をぶつけることもない。

 その結果、利害関係を有する組織票が大きな力をもってしまう。全国民のほんの数パーセントにもかかわらず。旧統一教会問題がまさにそれだ。

 市民が馬鹿なままでは、政治は変わることはない。一自治体の地方選挙と片づけてはならない本質的な問題が問われている。

【近藤 将勝】

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