2024年05月03日( 金 )

慢性的な人手不足の建設業をめぐる現状と課題

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 社会資本の整備をはじめ、災害対応や復旧・復興など、建設業は地域社会に欠かせない重要な存在である。だが、慢性的な人手不足や長時間労働など、是正・解決していかなければならないさまざまな課題が山積しているのが現状で、今後、建設業が多様な社会ニーズに応えながら持続的に発展していくためには、新規入職を促進し、将来の担い手の確保・育成を図っていくことが不可欠となっている。ここでは、建設業の置かれている現状と課題を整理してみよう。

下げ止まらぬ就業者数と深刻化する高齢化

 まず建設投資額の推移を見ていくと、1992年度の約84兆円をピークとして減少基調となり、2010年度には約42兆円と20年弱で半分の水準まで落ち込んだ。だが、その後は東日本大震災の復興需要や民間設備投資の回復によって増加に転じており、23年度は70兆3,200億円となる見通しとなっている。これは、ピーク時の8割程度ではあるものの、22年度比で2.2%増加しており、日本における建設投資額はいまだ上昇基調にあることがうかがえる。

 一方で、建設業の許可業者数および就業者数の推移を見ていくと、22年度末の許可業者数は47万4,948業者で、ピーク時となる99年末の60万980業者から約21%減少。建設業就業者数も22年平均は約479万人で、ピーク時となる97年平均の約685万人と比較して約30%の減少となっている。さらに建設業就業者数のうち、建設工事の直接的な作業を行う「技能者」は、97年の約455万人から22年には約302万人まで減少。直接的な作業ではなく施工管理を行う「技術者」も、97年の約41万人から22年には約37万人まで減少している。

年齢階層別の建設技能者数
年齢階層別の建設技能者数

 こうした就業者数の減少に加えて、高齢化の進行はさらに深刻だ。22年時点では建設就業者のうち、55歳以上が35.9%を占める一方で、29歳以下はわずか11.7%となっている。また、60歳以上の技能者は77.6万人で全体の約4分の1(25.7%)を占めており、10年後にはその大半が引退することが見込まれる一方で、これからの建設業を支える29歳以下の技能者は35.3万人で全体の約12%程度。次世代への技術承継に支障をきたさぬよう、若年入職者の確保・育成が喫緊の課題となっている。

資材価格の高騰で求められる価格転嫁

 近年の資材価格の高騰も、建設業にとっては頭の痛い問題だ。21年後半から原材料費の高騰やエネルギーコストの上昇などにより、各建設資材価格が高騰。22年4月から23年4月の1年間で、生コンクリート(10m3)は14万7,500円から17万8,500円へと21.0%上昇、セメント(10t)も10万9,000円から12万9,000円へ18.3%上昇したほか、再生アスファルト合材(10t)は8万5,500円から9万8,500円へ15.2%上昇、厚板(t)は13万2,500円から14万4,000円へ8.7%上昇、型枠用合板(50枚)は9万2,250円から10万円へ8.4%上昇など、全国的に騰勢が続いている。

主要建設資材の価格推移
主要建設資材の価格推移

 こうした建設資材価格の高騰を受けて、適切な価格転嫁への取り組みを進めていくことも喫緊の課題となっている。国土交通省では、サプライチェーン全体で建設資材に関する適切な価格転嫁が図られるよう、受注者・発注者(施主)間を含めた建設工事に関する環境整備を進めることが必要としたうえで、これまでに同省の直轄工事において、スライド条項の運用などの適切な対応を実施するとともに、地方公共団体等に対し、最新の実勢価格を反映した適正な予定価格の設定やスライド条項の適切な運用などを要請してきた。さらに今後の取り組みとして、地方公共団体における資材単価の設定状況やスライド条項の設定・運用状況についての調査を実施するほか、適切なリスク分担などにより価格転嫁が図られるよう、受発注者間で標準約款の適切な活用を働きかけるとともに、資材価格変動に対応しやすい契約について検討していくとしている。

適正価格と工期、道半ばの環境整備

 若年入職者の確保・育成を進めるためにも、担い手の処遇改善や働き方改革、生産性向上などを一体として進めていかなければならないが、これも一朝一夕には進んでいかないのが現状だ。

 とくに物価高が進み、あらゆる産業で賃上げが喫緊の課題となっている現在、建設業においても「構造的な賃上げ」の実現が求められている。国交省では、公共工事の受注者による適正な利潤の確保を通じて賃金引き上げに向けた環境整備が図られるよう、地方公共団体に対して、「①安定的・持続的な公共投資の確保」「②適正な予定価格の設定」「③ダンピング対策のさらなる徹底」などを要請。さらに、都道府県主催会議(公契連)などを通じて市町村を含むすべての地方公共団体に対して、直接働きかけを実施している。

 また、技能者の資格や現場での就業履歴などを登録・蓄積し、技能・経験の客観的な評価を通じた技能者の適切な処遇や現場管理につなげる仕組みとして、建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及を業界団体と国が連携した官民一体で推進。これにより、「①若い世代がキャリアパスの見通しをもてる」「②技能・経験に応じて処遇を改善する」「③技能者を雇用し育成する企業が伸びていける」建設業を目指していくとしている。だが、CCUSの利用状況は、23年11月末時点で技能者の登録数132.7万人(技能者全体の約44%)、事業者の登録数24.7万社(許可業者全体の約47%)と、いずれもまだ普及率は半分以下。登録数は右肩上がりで増加しているものの、今後のさらなる普及に向けた取り組みが必要だ。

 働き方改革の浸透も、まだ十分とはいえない。建設業における働き方の現状を見ると、年間の総実労働時間は全産業と比べて90時間長いほか、約20年前と比べて、全産業では約90時間減少しているのに対し、建設業は約50時間減少と減少幅が小さくなっている。また、平均的な休日の取得状況では、「4週6休程度」が全体の44.1%と最多で、次いで「4週4休程度以下」が22.9%。他産業ではすでに当たり前となっている「週休2日」も、建設業ではとれていないのが現状だ。

建設産業における働き方の現状

 こうした状況下で、建設業においても24年4月から労働基準法の改正により罰則付きの時間外労働規制が適用される。いわゆる「2024年問題」だ。これを踏まえて国交省では、直轄工事における週休2日モデル工事の拡大に加え、地方公共団体や民間発注者、建設業者への働きかけなどを実施。また、生産性向上に資する建設業における技術者等の配置・専任要件の見直しや、技術者の資格要件の見直し、ICTを活用した施工管理による施工体制の「見える化」なども行い、持続可能な建設業に向けた環境整備を進めていく方針としている。

 【坂田 憲治】

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