2024年10月13日( 日 )

アンモニア燃料の可能性(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

運輸評論家 堀内 重人

 日本政府が2050年カーボンニュートラルを宣言した。それを受け、海運業界も従来のA重油やC重油、天然ガス(LNG)から「アンモニア」という新しい燃料へ転換せざるを得なくなっている。日本郵船が先陣を切って、アンモニアを燃料としたアンモニア輸送船の建造を行い、2026年に就航を予定しているが、アンモニア燃料を使用した船舶には課題も山積している。本稿ではアンモニアを燃料とした船舶の将来性と課題について述べる。

アンモニア燃料の課題

大型船 イメージ    アンモニアの需要が、将来的に増加することが予想されているが、アンモニアは人体にとって毒性の強い気体であるだけでなく、非常に刺激臭が強い気体でもある。これに関しては、日本郵船の曽我社長は「とくにアンモニアの毒性の克服に関しては、ユーザーの立場から直接設計に関与し、いち早く安全運航に関わる十分な備え、知見を獲得してきたと自負している」と話す。

 日本郵船は、アンモニアを燃料として使用する船舶では、配管を二重化するなど、乗組員を守る設計を十分に行っている。そして運航中は、アンモニアを燃料として使用することから、エンジンが設置されている機関室へは、非常事態が発生しない限り、立ち入り禁止にするという。

 運航に携わる船会社が、アンモニア燃料で稼働する船舶の開発段階から関わっており、これは今後のアンモニア燃料の船舶の普及だけでなく、法制度の整備を進めて行く上で、有利になる。

 船舶の開発や建造も重要であるが、アンモニアを燃料として運航する船舶に関する国際的な法整備も重要である。こちらはIMOが検討を進めているが、まだ実際にアンモニアを燃料とした船舶が就航していないことから、法整備が実施されていない。

 アンモニア燃料によるアンモニア輸送船は、国際的に見ても日本が先行している。そのような船舶を開発するプロジェクトでは、多くの知見が得られる。それを基に、日本主導で国際的な法整備を進めたいと日本郵船の曽我社長は考えており、そうしなければならないと筆者も感じている。

 曽我社長はアンモニア燃料によるアンモニア輸送船以外にも、自動車運搬船でのニーズを想定している。またほかの船種でも、アンモニアを燃料としたエンジンを採用する考えを示しているが、クルーズ船などの旅客船では課題が多い。

 アンモニアには、毒性が強いだけでなく、非常に刺激臭が強い気体であるから、旅客船として使用するとなれば、より高度な対策が求められる。またアンモニアを燃料とした場合、エンジンの防音性や防振性に関しても、未知数の部分がある。

 LNGを燃料とした船舶は、従来のディーゼルエンジンの船舶よりも、防音性や防振性にも優れており、高い居住空間が提供されている。CO2を減らすためには、LNGとの2元燃料になるが、それはLNGの比率が高い燃料となるだろう。

 さらにアンモニアは、毒性や刺激臭だけでなく、排気ガスに対する対策も必要である。CO2こそ排出しないが、アンモニアが燃えると一酸化窒素を排出することになり、これが水に解けると亜硝酸となる。

 亜硝酸は、硝酸ほど酸性が強くないが、酸性である以外に、この気体も毒性を有する。それゆえ「酸性雨」というかたちで、環境汚染を引き起こす危険性が高く、大気汚染も引き起こす危険性が高い。

 そうなると排出される一酸化窒素に水素を付加させて、アンモニアと水を生成させ、アンモニアを再利用する装置の開発も、並行して進めなければならない。

 それ以外に、アンモニア燃料の大量で、かつ安定的な供給も課題である。日本の研究者が世界で最初に、常温・常圧で窒素と水からアンモニアを大量に、かつ短時間で生成することに成功しているが、まだ実用化には至っていない。

 最後に、アンモニア燃料に関しては、さまざまな課題はあるが、燃焼によるCO2を排出しないことから、今後は徐々に普及するように感じる。

(了)

(中)

関連キーワード

関連記事