2024年05月02日( 木 )

「2024年問題」の解決策? 建設DXやBIMの現状──(後)

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国交省主導で進めるも普及はまだ道半ば

イメージ    日本におけるBIMは、09年にBIMの関連書籍が発売されたことで建築分野を中心として機運が高まり、一部で導入が活発化したことに始まる。このことから、09年が日本における“BIM元年”とも呼ばれている。

 翌10年3月には、国交省が「官庁営繕事業におけるBIM導入プロジェクトの開始」を宣言。14年3月には「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成及び利用に関するガイドライン」を公表した。さらに、建設現場の生産性向上を図るi-Constructionの推進に向けて、同ガイドラインを18年8月に改定するとともに、併せて適用するものとして、BIM電子成果品の作成方法および確認方法を定めた「BIM適用事業における成果品の手引き(案)」の作成も行っている。そして19年6月、官民が一体となってBIMの活用を推進し、建築物の生産プロセスおよび維持管理における生産性向上を図るため、学識経験者や関係団体からなる「建築BIM推進会議」を設置。23年12月までに11回の会議を開催し、検討を進めてきている。

 こうして日本では、国交省が主導するかたちでBIM/CIMの普及を推進。23年4月からは、国交省の直轄の業務・工事においてBIM/CIMの原則適用が開始されるなど、公の事業ではBIM/CIMを前提とする方針へと変わりつつある。

 一方の民間でも、大手のゼネコンや設計会社を始めとしてBIMを導入する事業者が増えてきつつある。だが、大手を除いた設備設計事務所や中小建設会社でのBIMの活用はかなり限定的で、まだあまり使われていない状況にある。日本の“BIM元年”から今年でちょうど15年になろうとしているが、思ったよりも普及が進んでいないのが現状なのだ。

BIM普及を阻む高いハードル

 BIMの普及があまり進んでいない要因はさまざまあり、そのハードルは建設DXの場合と比べてもより高くなっている。

 たとえば、これまでの2次元CADとは設計へのアプローチが違うため、2次元CADの熟練者になればなるほど、BIMへの移行が難しい面がある。BIMを実務レベルで活用しているある設計事務所によれば、習熟するまでに要した期間は約1年だという。これが、人員にある程度余裕のある大手であれば、社内で専門部署を設けるなどして、少しずつBIMへの移行を進めていく手もあるが、限られた人員のなかで日々の設計業務に追われる中小事業者にとっては、なかなかそうもいかない。

 また、BIMで使われる各部材データの整備もネックの1つだ。各部材データは、鉄骨や柱、梁などの構造材から、壁、屋根、窓、ドア、木製建具や鋼製建具、アルミ建具、家具、テーブル、イスなどに至るまで、ミリ単位の精度で丁寧に作成する必要がある。作成してしまえば、あとは各部の寸法や材質などを、パラメーターをいじることで自在に変更できるようになっているが、この作成に費やす時間と労力がかなりの負担になるのだ。もちろん、BIMを活用すればするほど、部材データを作成していけばいくほど、その蓄積によって新規の設計はどんどん効率的になっていくのだが、その段階に至るまでの道のりが長く険しい。市販されているものやメーカーが提供する部材データなどもあるものの、フォーマットが統一されておらず、カスタマイズもしづらく使いにくいという。

 さらに、BIMソフトのライセンス料が高いことや、主要ソフトが4種に分かれ、しかもその互換性が低いことなども、日本におけるBIMの普及を阻害している要因だ。高額なライセンス料に対しては、国交省の「建築BIM加速化事業」(要・事業者登録)において費用の補助が行われたり、ソフトの互換性については「IFCファイル」()の研究・開発がされたりするなど、それぞれに対策は進められているものの、まだハードルを除去する段階までには至っていない。

 このように、国の主導で積極的に導入を進める大手企業と、導入したくともなかなか踏み切れない中小企業との“BIM格差”は、広がるばかりだ。

※IFC(Industry Foundation Classes):中立でオープンなCADデータモデルのファイル形式。さまざまなソフトウェア アプリケーション間の相互運用ソリューションを提供するもので、この形式は建物オブジェクトとそれらのプロパティの読み込みや書き出しを行うための国際標準として確立されている。 ^

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地場業界団体が連携、学校でもBIM教育に注力

 そうした状況に一石を投じるべく、福岡では県内の建築設計8団体の連携による「建築倶楽部BIM推進協議会」(以下、推進協議会)が20年11月に設立。それぞれ「意匠」「構造」「設備」「積算」「管理」「学術」などの異なる専門性を有する8団体が、業界団体の垣根を越えてそれぞれの業務的な立場からBIMの有用性を研究・議論することにより、設計の各段階におけるBIMのポテンシャルを引き出していくとともに、一体となってBIMの普及を推進していこうとしている。なお、活動や方針の詳細については、別項で同推進協議会の西洋一会長のインタビューを掲載しているので、参照されたい。

 また、新たに建築設計の世界に飛び込もうとしている若者に向けては、学生の段階からBIMを前提として建築設計を学ばせることで、将来的に即戦力となり得る人材育成の動きもある。たとえば西日本最大級の私立総合大学である福岡大学の工学部建築学科では、社会的ニーズの高まりを受けて1~2年次の建築関連基礎科目のなかにCADだけでなくBIMも組み込んでおり、19年から独自の講座を開設してBIM教育を行っている。九州最大級の総合専門学校である麻生専門学校グループの麻生建築&デザイン専門学校でも、九州唯一のBIM/CAD専門学科として建築CAD科(2年制)を設けており、BIMソフト「ArchiCAD」と「Revit」の技術をプロレベルまでマスターさせていくことを謳っている。

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 「2024年問題」が目前に迫るなか、一朝一夕に普及させていくことが難しい建設DXやBIMに“特効薬”としての効果を期待していくことは、現状難しそうだと言わざるを得ない。建設DXについてはまだ幾分かハードルが低いため、業種や企業、導入しようとする用途によっては、一気に導入およびその活用を進めていくことも不可能ではないが、BIMについてはかなり難しいだろう。

 ただし、建設DXにしろBIMにしろ、即効性には乏しくとも、業務効率化や省人化に寄与する効果を否定するものではない。むしろ将来的に建設DXやBIMの導入が当たり前の状態になっていくことを考えた場合、自社だけが取り残されぬよう、今のうちから積極的に導入を検討していくのも1つの手だろう。

(了)

【坂田 憲治】

(前)

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