2024年04月30日( 火 )

博多の龍神神社(1)住吉神社

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住吉神社拝殿
住吉神社拝殿

住吉神社は龍神神社?

 福岡市博多区住吉の住吉神社は、全国に2,300社ある住吉神社の始祖とする説があり、大阪の住吉大社、下関の住吉神社とともに「三大住吉」の1つに数えられる。しかし、境内のどこを見ても、住吉神社には「龍神神社」の記述はない。では、なぜ住吉神社が龍神神社として認知されているのか。それには、古事記の物語を紐解く必要があった。

 住吉神社は底筒男神(そこつつのをのかみ)、中筒男神(なかつつのをのかみ)、表筒男神(うわつつのをのかみ)の住吉三神を祀る神社だ。住吉三神は、古事記にも登場する由緒正しい神さまである。国産み・神産みの神として知られる伊邪那岐(イザナギ)と伊邪那美(イザナミ)は火之迦具土神(カグツチ)という火の神さまを生んだ際にイザナミが大火傷を負い他界する。イザナギは黄泉国にイザナミを迎えに行くも叶わず逃げ帰り、その後「筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原」で黄泉の穢れを払う禊ぎを行った。その際、瀬の深いところで底筒之男神が、瀬の流れの中間で中筒之男神が、水表で上筒之男神が、それぞれ生まれ出たとされる。イザナギが水に身を沈めたことで生まれたので「水の神」とされ、このとき住吉三神と同時に前号の志賀海神社に祀られる綿津見三神も生まれており、両三神とも「航海の神」とされた。

摂社志賀神社
摂社志賀神社

 住吉神社には住吉三神の他に天照大神(あまてらすおおみかみ)と筑紫大神の2柱が祀られており、住吉五所大神と呼ばれている。筑紫大神は神功皇后(じんぐうこうごう)に我が荒魂を穴門山田邑に祀るようにと宣託を下したとされており、相殿(あいどの)にはこの天照大神、神功皇后を配祀。神功皇后を祀る神に加えることで、ヤマト王権の国家的航海神として崇敬され、領主・一般民衆からも海にまつわる神として信仰された。

 このように、住吉神社は間違いなく龍神神社なのである。そして、わざわざ書いていなくても、龍神神社として親しまれているのである。ちなみに、境内には綿津見三神が摂社(関係の深い神様)「志賀神社」として祀られている。

文化財の宝庫

 住吉神社の創建は定かではないが、少なくとも延喜式()には筑前国の一宮(地域で一番社格が高い神社)と記されている。5世紀の倭の五王のころからヤマト王権の軍事・外交に深く関わっていたという説もあり、少なくとも1500年以上の歴史があることになる。

(※)927年に完成。平安時代中期に律令の施行細則をまとめた法典50巻で現在は国宝に指定されている。 ^

 住吉神社には、1623年に初代福岡藩主・黒田長政が再建した国指定重要文化財「住吉神社本殿」がある。福岡県指定有形文化財は、弥生時代の青銅器の祭器「銅戈(どうか)」6口と「銅矛(どうほこ)」5口。福岡市指定有形文化財は社務所別館の南側に1938年に建築された「住吉神社能楽殿」、18世紀から19世紀初頭の江戸時代後期に建てられた住吉神社唐門。その他、鎌倉時代以降の住吉神社の歴史を知るうえで重要な「住吉神社文書」や古文書「松花和歌集巻第五」などがある。

3_左上から時計回りに「住吉神社本殿」(国指定重要文化財)、「住吉神社唐門」(福岡市指定有形文化財)、博多古図
左上から時計回りに
「住吉神社本殿」(国指定重要文化財)、
「住吉神社唐門」(福岡市指定有形文化財)、博多古図

 ほかにも文化財指定こそされていないものの、十分歴史のあるものとして、中世期の博多の様子を描いた絵図「博多古図」、17世紀末成立の縁起「住吉大明神御縁起」などもある。なかでも住吉神社唐門はすぐ近くまで行き、触ることもできる。電動工具も何もない江戸時代にこれだけの門をつくり上げたかと思うと、職人の苦労を想像するのは難しくない。こんな場所が、博多駅からほんの1kmのところにあるというのは、福岡在住者でも知らない方が多いだろう。50年住んでいる筆者も、今回取材を通して初めて知った。

社寺建築の特徴

 本殿は全方位壁があり、画像では確認しにくいかもしれないが、はっきりと住吉造りが見て取れた。日本の神社は大きく分けると8つの様式に分けられる。住吉神社はその神社の名を冠する住吉造りである。梁間2間、桁行4間の規模で切妻造妻入り構造で、破風や垂木には反りがなく、直線的な外観、檜皮葺屋根が特徴。文部科学省によると全国に神社仏閣は15万8,000カ所以上あるとされているが、住吉造は2,300社程度しかないと考えられており、全体の1.5%しかないとても珍しい建築様式である。

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 以前、春吉エリアを取材した際、昔から春吉に住む方が那珂川にかかる橋「柳橋」へのこだわりをみせていたので、疑問に思ったことがあった。その際、橋をわたってどこに行くのかと質問すると、「住吉さんに」と言われた経験がある。この場合、住吉さんとは間違いなく住吉神社のことを指す。住吉神社の権威は昔からあり、現在も地元の方に深く親しまれているのがよくわかるエピソードであったと改めて思った。

【外部ライター・奥野 晃市】

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