2024年05月04日( 土 )

川勝静岡県知事の辞任表明とリニアの今後(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 リニア中央新幹線の建設に対し、大井川水系の環境破壊を理由に、一貫して反対の姿勢を貫いてきた静岡県の川勝平太知事が、4月3日に突然、辞意を表明した。これで「リニア中央新幹線の建設は前進する」という意見がある反面、いまだ後任の知事が決まっておらず、後任に川勝知事の息のかかった人物が選ばれる可能性もあるため、「不透明」とする意見もある。川勝知事はリニア中央新幹線の建設に対して一貫して反対してきたが、よく理由として挙げられる「大井川水系の環境問題」だけではなく、静岡県にリニアの駅が設けられないなど、別の理由もありそうである。リニア中央新幹線は東南海沖地震が発生した際のバイパスルートにもなりえるほか、東海道新幹線の老朽化や混雑の慢性化という問題もある。計画を前進させるには後任の知事とどのように合意形成すべきなのか、その方法を模索していくことにする。

筆者のリニア中央新幹線に対する展望

 マスコミ報道では、静岡県の川勝知事の責任で、目標であった2027年の開業が絶望となったように書かれているが、山梨県や長野県でも工事の遅延が発生しており、川勝知事だけの責任ではない。

 川勝知事は、辞任を申し出たが、元静岡県副知事の大村慎一氏が、後任として静岡県知事選挙に立候補する意向を固めたという。今後は、誰が知事になるかによって、リニア計画が変わる可能性があるため、不透明であると言わざるを得ない。

 川勝知事は、リニア中央新幹線の建設に反対していたが、一時期、JR東海がリニア中央新幹線の開業後に、静岡へ停車する「ひかり」を増やすという旨を表明したとき、態度を軟化させたことがあった。

 つまり川勝知事は、リニア中央新幹線の建設に反対ではなく、リニア中央新幹線は静岡県の一部をかすめるだけで、静岡県に駅がまったく設けられないため、「大井川水系の環境維持」を持ち出して、反対していると、言わざるを得ない。

 仮に、元静岡県副知事であった大村氏が静岡県知事に就任したとしても、JR東海が静岡県の面子を建てるような施策を打ち出せば、態度を軟化させる可能性がある。

リニアの車内
リニアの車内

 静岡県を避けてリニア中央新幹線を建設するとなれば、距離が延びるだけでなく、環境アセスメント調査を実施する必要があり、非現実的である。川勝知事がリニア中央新幹線の建設に反対した理由は、大井川水系の水の枯渇による環境保全である。だが筆者の考える環境問題は、リニア中央新幹線建設時に発生する土砂の運搬であり、もっと地域住民に対して、配慮する必要があったと思っている。

 いまだにダンプカーをフル動員して、土砂を運ぶやり方では、道路の渋滞や騒音、そして交通事故が増加するなど、地域住民に迷惑を掛けてしまうことになるだろう。

 今から50年以上前、神戸市がポートアイランドを建設する際、埋め立て用の土砂は、地下にベルトコンベアを敷設して運搬している。それゆえ神戸市内で、交通渋滞が激化することはなかった。

 JR東海が、開業時期を34年と7年も後退させたのは、静岡工区が未着工であることが主な原因であるが、建設作業員の確保も大きく影響している。

東海道新幹線は、老朽化が進んでいるだけでなく、東南海地震が発生すると、浜名湖や熱海付近にある丹那断層に大きな被害が出ると予想されており、リニア中央新幹線の必要性が増している。

 労働条件が厳しい建設作業の現場の労働者確保は、労働力人口の減少もあり、年々厳しくなっている。建設の遅れを少しでも取り戻すためには、政府も現場の作業員に対して、手当を支給するなど、待遇面で優遇しなければ、人材は集まらないし、定着もしない。財源として、建設国債の発行で対応することになるだろう。

 リニア中央新幹線を「国策」と考え、1日も早く完成させなければならない。その際は、静岡駅へ停車する「ひかり」を増やすなど、静岡県に対する配慮も不可欠である。

(了)

(中)

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