2024年05月28日( 火 )

「サロン幸福亭ぐるり」と中沢卓実(2)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

大さんのシニアリポート第133回

 URの空き店舗を借りて運営してきた「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)を3月末で閉亭し、以前運営していた場所に移した。理由は運営費用の問題もあるが、私が望んでいた「高齢者の居場所」というイメージから大きく変貌し、元に戻そうという気力が失せたというのが本音だろう。初期の理念とは、「孤独死者を出さない」だった。拙著『団地が死んでいく』(平凡社新書)上梓の際、取材した千葉県松戸市常盤平団地自治会会長(取材時)の中沢卓実さんの考え方に影響を受け開亭したからだ。カリスマとも呼ばれた中沢卓実さんの生き方を報告したい。

「孤独死」に背を向けなかった

中沢卓実氏講演会で対談
中沢卓実氏講演会で対談

    2000年10月のある日の常盤平団地。公団の管理人がある部屋のドアの前に立った。3カ月未納の家賃の督促である。ドアは施錠されたままで、電気のメーターだけは動いている。異常を感じた管理人が警察に通報。警察官がカギを壊して室内に入る。そこには白骨化した遺体が横たわっていた。検視の結果は死後3年。死亡推定年齢69歳。家賃が自動引き落としだったため、預金が底をつくまで誰も彼の死に気づかなかったのだ。公団は「孤独死も死亡の1つ」として公表を避けた。住民もまたプライバシーの問題として無関心を決め込んだ。翌5月、50歳の男性が孤独死した。この若さでの孤独死に中沢さんは驚愕した。

 「人間の死の前には、プライバシーだとか個人の尊厳だとかは問題外。死の領域は坊さんの領域ではなく、自分たちの領域だ」と宣言し、自治会として取り組む決意を示した。「早期発見」「地域ぐるみの取り組み」「自治会と社協の相互協力」を掲げ、「まつど孤独死予防センター」を開設。新聞配達、牛乳配達、郵便局と「孤独死予防対策についての協定書」を交わし、松戸市に「水道メーター検診時の住民への声かけ」を要請。孤独死や事件・事故、災害などの緊急時、掛かりつけ医や家族など関係者と連絡が取れるための「あんしん登録カード」を作成し、全戸に配布した。さらに「みまもり隊」を結成し、4階建ての団地を外から見守った。団地内に「いきいきサロン」という高齢者の居場所を開設して、住民の誰もが自由に集え、会話を交わせる場所を設けた。

 孤独死回避策の決め手は、「住民を外に連れ出し、人と会話を交わすことだ」という持論を展開した。こうしたさまざまな試みはマスコミの耳目を集め、中沢さんの手法はまたたく間に全国に広まった。

「芋煮会」に40人を超す来客

常盤平団地のスターハウス前で 
常盤平団地のスターハウス前で

    県営団地集会所に開亭した「幸福亭」のコンセプトは、「孤独死回避」である。まず、「幸福亭」という名前を周知させるために、住民の住所録を密かに入手。65歳以上の高齢者120人に毎月手紙を書いた。中沢さんの「あんしん登録カード」を真似て「ハッピー(幸福)安心ネット」をつくった。登録カードとともに部屋のカギを預かった。緊急時(24時間)、連絡を受けると私が現場に急行。合いカギで部屋に入り対応するという方法だ。実際に70代の男性から通報を受け、合いカギでなかに入り、倒れていた本人の代わりに救急車を要請して一命を取り留めたことがある。

 高齢者の生活支援(認知症当事者への生活支援、買い物支援、病院などへの送り迎え)、見守り(DV、ギャンブル依存症、夜間電話相談など)、健康維持(マッスル体操)、高齢者に特化した情報提供。福祉関係の世界で活躍する人たちの講演会、「出前講座」(特殊詐欺撃退法、現代の葬儀事情、歌声喫茶)、「こども食堂」の開催などの企画実行。とくに季節を感じさせる月替わりのイベント、「芋煮会」(私が山形出身なので)、「節分」「雛祭り」「5月の節句」「七夕」「忘年・新年会」などを毎月開催。毎回、40人を超す来亭者で賑わった。

 特筆すべきは社会福祉協議会(社協)と組んで「よろず相談所」を開設したことだろう。社協のCSW(コミュニティソーシャルワーカー)のYさんと、子どもたちに見放された認知症の老夫婦を、生活支援から病院への緊急搬送、施設への入所まで徹底してサポートしたことだ。

 社協とタッグを組むことで地域の現状を可視化できたことは大きな収穫だった。この実情を拙著『親を棄てる子どもたち~新しい「姨捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)として上梓できたことは幸運な結果だったと思う。本音は、運営する「ぐるり」を血縁地縁関係のない人たちとの交流をとおして、「好き嫌いを抜きにして互いに干渉し合い、結果として死をも共有し合う意識」を可能にする居場所として位置づけたいと思っていた。そこに「セルフヘルプグループ活動」の真の姿があると思ったからだ。しかし、現実は必ずしも思い描いていたようには進展していかなかった。

(つづく)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。

(1)
(3)

関連キーワード

関連記事