2024年06月13日( 木 )

熊本県菊陽町の「セミコン通勤バス」の展望(前)

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運輸評論家 堀内重人

 熊本県菊陽町の通勤バスが、注目されている。半導体企業が集積するセミコンテクノパークという工業団地に台湾積体電路製造(TSMC)が進出したことを契機に、JR豊肥本線の原水(はらみず)駅が利用者を増やしている。2023年度の利用者数は、増便の効果で前年度の1.6倍に急増するなど、好調である。菊陽町は慢性化する道路交通渋滞の緩和策の柱と位置付け、利便性の向上に力を注いでいる。

バスが運行を開始した背景

原水駅 イメージ    熊本県の菊陽町には、半導体企業が集積するセミコンテクノパークという工業団地があるが、熊本市の郊外に位置することもあり、通勤は自家用車が普通だった。これは熊本県だけの問題ではないが、自家用車による通勤が普通であれば、当然のことながら朝夕の通勤時間帯は道路交通渋滞が酷くなる。

 一方、熊本市のような地方都市の郊外では、バス事業者は朝夕の道路交通渋滞によって定時運行が確保できないことに加えて過疎地なども抱えているため、厳しい経営を強いられる。こうした課題を解決すべく、菊陽町や合志市などの沿線の自治体と熊本県、セミコンテクノパークという工業団地の立地企業がセミコン交通対策協議会を設立し、路線バスの導入を協議することになった。

 セミコンテクノパークは、JR豊肥本線の原水駅から約3km離れた距離にある。原水駅は、豊肥本線のなかで熊本~肥後大津駅の間に位置する電化区間にあるため、この区間は熊本近郊区間として、列車本数も多い区間である。そうすると熊本から路線バスを設定するよりも、原水駅~セミコンテクノパーク間に路線バスを設定することで、フィーダー輸送(中継輸送)を行えば良いとなった。そして15年から、JR豊肥本線の原水駅を起点にセミコンテクノパークを結ぶ路線バスの運行が始まった。

バスの概要

 平日の朝の原水駅は、熊本市方面からの列車が原水駅へ到着するたびに乗客が大量に降車して、通勤バスに乗り換える。バス乗り場には長蛇の列ができるなど、地方都市では考えられない状況が発生している。

 そして23年5月15日に原水駅北口のロータリーが完成したことで、利便性が大きく向上した。それ以前は町道沿いのバス停に停車していたため、道路交通渋滞や乗降時の安全性の確保が課題となり、菊陽町が8,500万円の費用を負担して整備したのだ。ロータリーで待機する大型バスは通勤客ですぐに満員となって発車するなど、自家用車による通勤が普通である地方都市郊外の状況とは大きく異なる。

 この路線バスは、「セミコン通勤バス」と呼ばれており、バスの運行は熊本電鉄に委託しており、菊陽町が事務局を務めている。運行されるルートは2つあり、15年の運行開始時からのルートに加え、JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)という会社を経由するルートも新たに加わった。

 朝は原水駅から工業団地、夕方は逆に工業団地から駅へ向かうかたちで運行され、運賃は大人片道180円。3kmの利用で200~250円という価格設定が多いなか、低廉な価格に設定されている。支払いは、現金以外に交通系電子マネーによる決済も可能であり、通勤用の定期券も導入されている。採算性についても、コロナ禍の20年にセミコン交通対策協議会が欠損補助を行った以外は収支均衡状態にあるという。地方の通勤バス路線では、健闘しているといえる。

(つづく)

(後)

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