傲慢経営者列伝(17)北尾吉孝(SBI HD代表)~堀江、村上との連携は同床異夢か(後)

 北尾吉孝、堀江貴文、村上世彰、そして日枝久──。20年前のフジテレビをめぐるライブドア騒動の懐かしい顔ぶれが揃った。さしずめフジテレビ特番「お騒がせ面々、全員集合」の趣だ。だが、役割は異なる。20年前、フジを救った北尾はフジの批判者として登場。北尾、堀江、村上は日枝体制解体の反フジで共闘を組むのか。仲の悪い者同士が協力する「呉越同舟」はとかく「同床異夢」になりがちだ。(文中の敬称は略)

北尾が「ホリエモン、待った」と立ちふさがる

 「他人の家に土足で上がり込んで、仲良くしましょうというのは、いかがなものか」。

 2005年、社会現象ともなったニッポン放送株をめぐるフジテレビとライブドアの争奪戦に突如参戦してきた北尾吉孝は、ライブドア社長で“ホリエモン”の愛称でよばれる堀江貴文をこう切って捨てた。歯に衣を着せぬ物言いで、一躍、時の人となった。

 北尾は1951年1月、兵庫県生まれ。慶応大学経済学部、ケンブリッジ大学経済学部卒。野村證券出身。孫正義にスカウトされソフトバンクに移り、孫の懐刀として活躍した。だが、ナスダック・ジャパンの創設をめぐって、2人に亀裂が生じる。孫と決別した北尾は、金融事業のソフトバンク・インベストメント(現・SBIホールディングス)を率いて独立に向けて動き出していた。

 独立をにらんだ北尾の大芝居が、フジテレビのホワイトナイト(白馬の騎士)としての登場だった。北尾はニッポン放送がもっていたフジテレビ株式を借り受け、一夜にしてフジの筆頭株主に躍り出た。

 ニッポン放送を経営的に支配して、本丸のフジに駆け上がるハシゴが外されたのである。外されたというより、ハシゴを登り切ったところに北尾が立ちはだかり「ホリエモン、待った!!」と大声で叫んだのだ。

明が北尾と日枝、暗が村上とホリエモン

 ライブドアによるニッポン放送の乗っ取り騒動は、プレーヤーたちの明暗を分けた。

 ホリエモンを撃退したフジの日枝久は、今日に至るまでフジの「帝王」として君臨した。

 ホワイトナイトとして脚光を浴びた北尾は、06年にソフトバンクグループから独立。銀行や証券会社の他、IT事業やバイオ事業を傘下に置くコングロマリット(複合企業)への道を進めていく。今や、SBI新生銀行(前身は日本長期信用銀行)のオーナーだ。

 一方、村上は、証券市場の表舞台から姿を消した。インサイダー事件は5年間に渡り裁判で争われた。11年6月、最高裁が村上の上告を棄却し、懲役2年、執行猶予3年、罰金300万円、追徴金11億4,900万円とした高裁判決が確定した。

 ホリエモンは、ライブドアによる総額53億円の粉飾決算(有価証券報告書虚偽記載)事件で最高裁まで争った。最高裁は11年4月、ホリエモンの上告を棄却、懲役2年6カ月の実刑が確定。長野刑務所に収監された。

 粉飾決算事件で実刑を受けるのは極めて異例なこと。証券市場をマネーゲームのバクチ場として狂喜乱舞するベンチャー起業家にお灸をすえる「国策裁判」といわれた。

『論語』を使い
「倫理的価値観」は重要と説く北尾吉孝

 ホリエモンは、北尾にニッポン放送=フジテレビの経営支配を阻止された恨みを決して忘れなかった。10年以上前の「因縁戦争」が火を噴いた。

 17年7月3日、SBIホールディングス社長の北尾吉孝が『週刊現代』のインタビューを受け、自身の経営哲学を披露した記事がネット上にアップされた。

 北尾はこれまでも幾度も『論語』や哲学を重要視し、自身の生き方や経営に生かしていると語っている。このインタビューでも、論語の話を持ち出し、経営者が事業をするうえでは「倫理的価値観」が重要と語る。近年、北尾は哲学者じみているが、この時も人格者然とした内容である。

ホリエモンが哲人経営者・北尾を糾弾

 ホリエモンこと堀江貴文は、経済アプリ「News Picks」(17年7月5日付)で哲人経営者・北尾吉孝を糾弾した。
 堀江は

〈ほんとマジこいつクソ。自分が一番倫理観ねーくせに、論語とか哲学だの表向きのカッコつけばっかり〉

 堀江は北尾にまつわる”因縁の過去”を披歴した。

 〈実際は金の亡者そのもの。俺がライブドアで100分割したときに、会社に強引にアポ取ってきて忙しいから断ってもしつこく秘書に架電して無理やり乗り込んできて言った言葉が忘れられない。「SBIとライブドアで5%ずつ増資して持ち合いしよう。そして株価が上がったらお互い売ってファンドをつくろう」だよ〉

 堀江はスルーしていたが05年、ライブドアによるニッポン放送買収騒動の際、今度は北尾がニッポン放送側の「白馬の騎士」として登場。ライブドアの買収を阻止した北尾の知名度が一気に上がった瞬間だ。

 ホリエモンはこう綴った。

〈その時言った言葉が「株式市場の清冽な水を汚した」だよ。こいつマジサイコパスなんじゃね?そしてこいつを尊敬しているとか言っているやつを頭おかしいと断言するよ〉

 普段はやらないコメント欄での「追記」も行い、

〈自分がやっていることと言っていることが矛盾してないんなら剛腕経営者として尊敬するよ。でもそうでないからカスだとおもいます〉

 と最後まで辛辣だ。

「感情」より「勘定」の大人の選択で、
ホリエモンは北尾と和解

北海道大樹町 イメージ    年が押し詰まった22年12月26日、日本経済新聞電子版に載った一枚の写真を見て、思わずのけぞった。北尾吉孝SBIホールディングス会長兼社長を挟んで、ホリエモンこと堀江貴文と稲川貴大インターステラテクノロジズ社長が笑みを浮かべて並ぶ写真が載っていた。「マジか」と仰天した。

 報道によると、堀江貴文らが創業したロケット開発ベンチャーのインターステラテクノロジズ(北海道大樹町)は、SBIホールディングス(HD)傘下のベンチャーキャピタル、SBIインベストメントから10億円の資金調達をしたと発表した。 

 とかく「偽善者」と見られている北尾吉孝と「偽悪者」を気取る堀江貴文は、所詮は「水と油」。両者の関係は「犬猿の仲」「不倶戴天」と評された。

 ところが、ロケット開発で両者は手を組んだ。一体、何があったのか。周囲は呆気にとられた。「歴史的和解」と盛り上がったほどだ。

 23年1月、新生銀行はSBI新生銀行に商号変更した。新生銀行を買収したSBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長は、いまや大銀行のオーナー経営者だ。金持ち喧嘩せず。成熟した経営者としてベンチャー企業を支援する。

 一方、堀江は50歳を超えた。もう若くはない。何ごとにも牙を剥いていたホリエモンではない。「感情」より「勘定」という大人の選択をしたといえるだろう。

プレーヤーたちの思惑が激突する
6月の株主総会が最大の見もの

 そして、今回のフジテレビ問題。フジのホワイトナイトからブラックナイトに一転した北尾は、ホリエモンをどう担ごうとしているのか。

 フジの親会社、フジ・メディア・ホールディングス(FMH)の6月の株主総会で、金光修社長と社外取締役3人が退任する。フジの「帝王」として君臨してきた日枝久の指定席となっていた「相談役」制度を廃止する。経営改革を打ち出して、総会を乗り切りたい考えだ。

 北尾、村上、そしてホリエモンはどう対応するのか。村上は高値売り抜けが狙いなのに対して、北尾やホリエモンはテレビを支配したい。ファンドは不動産売却で上場廃止を視野に入れる。プレーヤーの思惑は「同床異夢」。6月の株主総会が最大の見ものだろう。

(了)

【森村和男】

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