中国の内部分裂とCIA の終わりの始まり(後)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

戦後日本政治とCIAの影

 かつては世界をコントロールしてきた超大国アメリカの、情報収集の中心的役割を担ってきたCIAです。戦後の日本では、自民党もCIAの資金によって誕生したことはよく知られた事実。東西冷戦が激化するなか、アメリカはソ連と対峙するため、日本を利用する必要性に迫られ、自国の傀儡として保守合同を実現させた背景があります。

 もちろん、ソ連はソ連で当時の社会党に巨額の秘密資金を提供していました。戦後の日本政治はアメリカやソ連からの機密資金によって骨抜きにされ、金権体質と列強への従属体質が強まったといって過言ではありません。そうした体質は日本政治のDNAに深く刷り込まれており、今日でも尾を引いているわけです。

 とはいえ、アメリカの国力低下は否定のしようがありません。バンス副大統領が認めているように、産業の空洞化が進み、アメリカの武器生産力はロシアや中国に敵わないレベルにまで落ち込んでいます。GDPは世界一を維持していますが、実際に役立つような製品を自前で生産する能力がほぼ失われているのがアメリカの現状です。この点を踏まえれば、USスチール買収提案が象徴するように、日本はアメリカの産業復活への支援で対米交渉を有利に進める絶好のチャンス到来といえるでしょう。

ケネディ暗殺文書とCIAの深層

書類 イメージ    ところで、日本でも関心を呼びましたが、トランプ大統領の鶴の一声で「JFK暗殺に関する政府文書」の機密扱いが解除されました。これまでは「国家の安全を維持するため」という理由で公開が差し止められてきたものです。

 1963年11月にダラスで暗殺されたケネディ大統領。その衝撃的な知らせはアメリカから日本へテレビ電波が届いた際の最初のニュースでした。今でも当時の白黒テレビの映像がはっきりと記憶に残っています。

 3月18日、JFK暗殺記録1,123本のPDFファイルがネット上で公開されました。とはいえ、6万3,000頁におよぶため、すべてに目を通すのは大変です。そのためか、日本を含めた多くのメディアの取り上げ方は「特段目新しい情報は見られない」というもの。

 しかし、単独犯と見なされて逮捕された後、警察署内を移動中に殺害されたオズワルドの、ソ連やCIAとの関係などについては興味深いものがいくつもありました。たとえば、彼はソ連滞在中に射撃訓練を受けたようですが、現地での評価は最低レベルで、「とても使いものにならない」と判断されていたとのこと。

 この一点からも、移動中のケネディ大統領の車を教科書倉庫ビルの上層階の窓から狙撃することはあり得ない話です。しかも、CIAはオズワルドをソ連のスパイと認定しており、その行動を監視していたことも詳細に記載されています。また、CIAがオズワルドの郵便物を密かに開封していたことも明らかにされました。それだけ要注意人物と見なされていたわけで、当然、オズワルドの動きはCIAによって把握されていたはずです。

 さらにいえば、彼を警察署内で銃殺した地元マフィアのルービーはオズワルドとしばしば会っていたことをFBIの捜査官が認めていたことも記載されているではありませんか。ところが、この2人の関係については、詳細な部分が公開部分から削除されているため、真相を知ることはできません。

 また、今回の公開ファイルからはCIAがアフリカ、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカ各地に34カ所の機密活動拠点を維持していたため、「ケネディ大統領はそうした海外での非合法的な活動拠点を廃止するように動いていた」ことも明らかにされています。

 こうした“CIA潰し”に動いていたケネディ大統領でしたから、目障りな存在として暗殺のターゲットになった可能性を否定できません。また、CIAとFBIの抗争も示唆されており、FBIのフーバー長官は「実のところ、オズワルドはFBIのエージェントではないか」という噂を必死で打ち消そうとしたことへの言及もあります。

ケネディ家とCIA、そしてトランプの離反

 読めば読むほど、アメリカの諜報機関の深い闇に引きずり込まれてしまいます。そうしたケネディ関連でいえば、新たな動きも出てきました。何かといえば、トランプ大統領は選挙戦で支援を受けたロバート・ケネディ・ジュニアとの約束を反故にしようと目論んでいるフシが見られることです。

 昨年の大統領選の途中でトランプ支持を鮮明に打ち出し、多くの集会でトランプ候補のために応援演説を繰り返してきたのがケネディ氏でした。抜群の知名度をもつケネディ一族で、民主党の大御所のような存在です。そんなケネディ氏がトランプ氏へなびいたのは、バイデン政権が進めた「ワクチン推進政策」への反発でした。ケネディ氏は自らが主宰する「子どもの健康を守る会」の活動を通じて、アメリカの保険衛生当局が製薬業界の影響を受け、「有害な薬品やワクチンを承認している」との批判を展開。アメリカではワクチン懐疑派を中心に一定の支持を集めていました。そのため、トランプ氏はケネディの名前のもつインパクトへの期待もあり、また大手製薬メーカーへの不信感を抱く有権者を取り込めると判断したと思われます。

 トランプ氏は、当選した暁にはケネディ氏を保健衛生行政の責任者に抜擢することを匂わせ、実際、その通りになりました。また、ケネディ氏からすれば、自分の父親や叔父にあたるジョン・F・ケネディ元大統領の暗殺の真相を明らかにしてくれることをトランプ氏に期待したはずです。ケネディ氏もトランプ氏も「CIAが黒幕」との見方では一致しており、ケネディ氏はトランプ氏とともに「CIAを解体する」とも発言していました。ところが、今では雲行きが怪しくなってきています。CIAのJFK暗殺記録ファイルは公開されたのですが、先に述べたように、依然として肝心の部分は明らかにされていないからです。

 また、CIAの存在そのものが「風前の灯火」化してきていることに注目すべきでしょう。このままでは、アメリカの権威が失墜するのと連動するようにCIAも影響力を失うことが想定されます。CIAによる国外での人材確保はほぼ終わりを迎えてしまいました。日本では内閣情報調査室(内調)と公安調査庁がCIAと情報交換を続けていますが、CIAの内部崩壊の実態は把握していないようです。日本の情報収集力の低下が懸念されます。

(了)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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