【特集】福間病院──精神科医療の先駆けだった病院に何が起きているのか(4)
療養環境崩壊 福間病院B棟の深刻すぎる実態
前回までは恵愛会の組織体制や佐々木家への権力集中といったソフト面の問題を見たが、ここでは視点を変え、ハード面の課題を検証する。とくに老朽化が著しいB棟は経営上の重大な課題でもあり、職員たちからも「B棟問題」について数多くの証言が寄せられている。
療養環境としてふさわしくない状況に
精神科救急病院の福間病院では患者の症状に応じて、亜急性の2病棟や重度かつ慢性の3病棟など複数の病棟を運営し、看護・援助を提供している。2017年には外来や入院病棟、デイケアセンター、リハビリ施設などを備えた多機能施設の中央棟が完成。約3万坪という広大な敷地を活用した施設の充実が、福間病院の特色であり強みとなっている。
しかし、複数ある病棟のなかには老朽化が著しく、患者の療養環境として不適切な状態が長年改善されないまま放置されているものがある。代表的なのがB棟である。最大の問題は常務理事の判断により、B棟の環境改善が遅々として進まず、長年問題が放置されてきたことだ。本来は患者の療養と自立支援を促すべき病棟が、患者の健康や安全に重大な懸念を生じさせる状況に陥っており、迅速な改善対応が求められる。
以下は職員の証言である。なお、各フロアはそれぞれ「病棟」と称している。
「B棟は地下を含め4階建てで、地下に設備関連の機器が集約されています。1~3階が病棟で患者さんの看護にあたっていますが、老朽化が激しく、隔離室の天井から上階の汚水が漏れるなどの問題が以前からありました。そのたびに対応してきましたが限界があり、ついに1階の1病棟を25年2月に閉鎖しました。残り2病棟も建物自体が限界に達しており、建て替えや廃止を本格的に検討すべき段階です」
また隔離室については次のような声もある。
「夜間帯に患者さんが暴れるケースもあり、職員1人では対応が難しく、隔離室内のトイレの流水処理は翌朝に対応せざるを得ません。その結果、便臭が残り、見舞いに来られたご家族から臭いに関する指摘を受けることもありました」
さらに、以下のような深刻な状況も報告されている。
「1病棟には高齢者や寝たきりの患者さんが多くいますが、そもそも病棟の設計がそのような方の利用を想定しておらず、浴室がないため入浴介助は多数の職員で対応しなければなりません。着替えも廊下で行うなどの無理を強いられています。また、病棟の壁にひび割れが生じ、雨漏りやトイレの排水不良などが頻発していました」
B棟のベッド数は158床だったが、1病棟の閉鎖により現在は108床となった。ベッド数減少による収入減は避けられないが、療養環境の改善と職員の負担軽減という患者や職員の視点から見れば、この判断は妥当であるといえる。しかし職員からは、「05年の西方沖地震で大きなダメージを受けて以降、何度も改善の話し合いを求めましたが、常務は聞く耳をもちませんでした」との声もあり、1病棟閉鎖の決断は遅きに失したとの批判もある。
B棟に関しては、「患者1名あたり年間約500万円の収入が見込まれる」とも指摘されている。このため、常務理事が老朽化問題への対応を後回しにしたのは、収益を最優先したためではないかとの見方も出ている。職員たちの報告通り、臭気やトイレのトラブルにはその都度対応しているものの、築40年を超え更新期を迎える施設の根本的問題は解決されていない。
職員からは次のような厳しい指摘もある。
「B棟の状況を常務に直接確認してもらいましたが、収益への影響を理由に改善要望に積極的に応じなかったように感じられました。1病棟の閉鎖は理事会で承認されましたが、その後も閉鎖を進言した職員を問い詰めるような態度を取っていました。収益確保を重視し、改善の遅れにつながった可能性があると思います」
病院経営において収益は重要だが、福間病院の本来の使命は精神科医療を通じた患者の療養と自立支援である。B棟の療養環境が不適切なまま放置されている現状は、この使命を軽視していると見なされても仕方がない状況である。そして、そのツケが患者や職員を巻き込む深刻な問題として、いよいよ表面化しつつある。
屋上から約4tのお湯が流出
トイレが流れない、窓が閉まらず虫が侵入する、汚水漏れや雨漏りなど、老朽化にともなうB棟のトラブルは数多く発生している。これまではその都度対応してきたものの、あくまで応急処置であり、根本的な解決には至っていない。その結果、ついに重大なトラブルが発生した(25年6月初旬執筆時点)。
B棟は1階から3階までの3病棟(計158床)で構成されているが、前述した通り、老朽化と人手不足を理由に1階の1病棟(50床)が閉鎖された。現在は2~3階の2病棟(計108床)で運営しているが、B棟自体は修理や修繕を繰り返しつつも、設備や建物全体はいつ使用停止になっても不思議ではない状況だ。
こうした老朽化への懸念が、同年5月の最終週に重大な問題として表面化した。トイレの流水トラブルが再発したことをきっかけに、配管の破損が2カ所で確認され、さらに地下のボイラーで沸かしたお湯が屋上まで上昇し、噴出する事態が発生した。この配管破損との因果関係は不明だが、他にも複数カ所で水漏れが確認され、地下に漏れた水がたまりカビが発生。天井の一部がたわみ、落下寸前の状態だという。すでに福間病院では電気保安協会による漏電検査を実施済みであり、これまでのトラブルへの対応速度から考えると、今回の事態の深刻さが際立っている。

屋上から流出するお湯は1日当たり約4tにもおよぶとされ、ボイラーを止めれば流水は止まるものの、それでは入浴が困難になるというジレンマに陥っている。
さらに、B棟の2~3階に残る病棟の1つで「ヒトメタニューモウイルス」の感染が確認された。このウイルスは咳や鼻水など呼吸器症状を引き起こし、病棟の患者の約半数が罹患(りかん)。なかには症状が悪化し重症肺炎に至った患者も5名おり、配管破損やカビの発生が病状悪化に影響している可能性が指摘されているが、医学的な因果関係は現時点では明確になっていない。病棟全体は溢れたお湯の影響で常に湿度が高く、生暖かい環境だという。湿度は80%を超えるとされ、カビは建物のみならず患者の私物にも広がっており、B棟が療養に適さない環境であることは明白だ。当然、職員の労働環境としても劣悪な状況にある(25年6月初旬執筆時点)。
福間病院内では病棟の建て替え議論が進められているが、単に建て替えるだけではこうした諸問題の再発防止につながらない。収益優先の常務理事の判断による日常的な保守・管理の軽視、患者や職員の利便性・機能性の不足が療養環境・職場環境を悪化させている。長年にわたって放置され、最終的に病棟内のウイルス感染拡大にまで発展したB棟の事態は、福間病院の経営課題を浮き彫りにしている。
(つづく)
【特別取材班】