『ザイム真理教』というカルト

政治経済学者 植草一秀

 財政政策運営で重要なことは貴重な財源を何にどう使うのかである。日本財政の最大の特徴は利権補助金が大きすぎること。利権補助金は政治屋にとって献金や裏金の原動力になる。官僚機構にとっては天下り等の利権キックバックの原動力になる。民間の事業者がロケット事業を手がけるときに、なぜ国民が補助金での負担をする必要があるのか。正当な根拠はない。

 経済活動は自己責任をベースに行われるべきとの主張がなされる。新自由主義を主張する勢力は常にこのような言説を発している。その当事者が政府から補助金を受け取ることが大きな矛盾。民間事業者が半導体工場を建設するのに、なぜ国民が兆円単位の補助金を負担する必要があるのか。自動車会社がリチウムイオン電池を開発するのに、なぜ国民が数千億円の補助金を負担する必要があるのか。

 補助金を受領する企業の関係者が「政府から補助金をもらうために政府にすり寄る発言をするのか」と聞かれて、政権が代わっても補助金はもらえる」とうそぶいているという。完全な間違い。見識ある政権が創設されれば利権補助金を廃止することになる。正しい財政政策を運営できる新しい政権を樹立することが求められているだけだ。

 世界の競争に負けないために政府が補助金を投下する必要がある。この理屈で巨大な資金が補助金として投下されてきた。その結果、日本企業が世界に冠たる地位を確保できたのか。否である。政府が主導して巨大な財政資金を投下してきた半導体企業がどうなっているか。政府系ファンドのINCJ(旧産業革新機構)が約1,390億円を投融資していた有機ELパネル製造会社「JOLED」は2023年3月に破綻。同じく官民ファンドのINCJは、前身の産業革新機構の時代から7回、4,620億円を投下してきた中小型液晶パネルメーカーのジャパンディスプレイ(JDI)の全株式を売却。金融収益を含めて回収できたのは3,073億円で1,547億円の損失が確定した。

「日の丸半導体」を旗印にしたエルピーダメモリは2012年に破綻して政府保証の約280億円が消滅した。また、台湾の半導体企業であるTSMCが熊本に工場を建設することに対して日本政府が1.2兆円の補助金を投下。なぜ台湾企業の工場建設に日本国民が1.2兆円もの資金を提供する必要があるのか。政府が利権補助金を提供して利権政党が献金をキックバックされ、官僚が天下りや社外取締役などの利益を供与される。結局、国民の税金を使って利権政治家と官僚が私腹を肥やしているだけなのだ。

 拙著『財務省と日銀 日本を衰退させたカルトの正体』(ビジネス社)に日本財政の根本問題を詳述した。「反ジャーナリスト」として精力的な活動を続ける高橋清隆氏が拙著の書評を公開くださった。
https://x.gd/THUqj

「旧大蔵省に勤務経験のある植草氏が、政治経済学者の視点から財務省の真の姿を告発した新刊書。にわかに『財務省前デモ』が関心を集める中、過去40年にわたる同省の悪行と欺瞞(ぎまん)が白日の下にさらされている。」

「消費税が所得税と法人税の穴埋めに使われていることは知られるようになった。正確には35年間に消費税で509兆円税収を得たのに、605兆円も減税している。『つまり、一般庶民から500兆円をむしり取り、そこに100兆円足して600兆円の減税を富裕層と大企業に施していた』。そして、掛け声と裏腹に、『消費税の税収は、1円たりとも財政再建や社会保障の拡充には使われてこなかった』のが実態である。」

「国会審議を通じて注目を集めるのが当初予算だが、政策支出に当たる部分は年間約23兆円。一方、補正予算はこの4年間で合計154兆円も計上されている。1年平均39兆円で、財源は全額国債の発行で賄われている。2025年度の予算審議で野党が高額療養費制度の『改悪』をやめるべきだと主張すると、テレビ朝日の大越健介氏が『制度改変凍結を唱えるのであれば財源を明示せよ』と批判した。この『改悪』による社会保険料負担軽減効果は60億円程度にすぎないのに、154兆円分の国債発行はどのメディアも問題にしない。」

「植草氏はこれを家計に例え、『毎月の家族全員の衣食住を賄うために月23万円でやりくりしているのに、配偶者は連日連夜飲み食いに明け暮れ、ギャンブルにうつつを抜かし、月39万円も放蕩三昧(ほうとうざんまい)している姿。家族が病に倒れても病院に行くことを許しません』とやゆしている。」

 詳しくは高橋氏のサイトでご高読を賜りたい。

 メルマガでは、引き続き高橋氏の書評を紹介させていただく。

「『103万円の壁』を打ち出した国民民主党は躍進を続けるが、国内総生産(GDP)は年々拡大するので、『壁』を多少引き上げても財務省は痛くもかゆくもない。しかし、消費税率を10%から5%に引き下げることは、同省にとって認めがたい施策だという。7月の参院選で各党が食料品などの税率引き下げ案を提示したが、『どの品目を軽減税率の8%に適用するかを巡って利権の駆け引きが活発化します。複数税率制度は財務省の利権を増大させるのに最高の施策です』と看破する。」

 課税最低限103万円を引き上げることは財務省にとっても織り込み済み。痛くもかゆくもない。財務省が警戒するのは恒久的な消費税減税。「そもそもこの4年間に国全体で18兆円の税収増があったから、消費税を5%に戻すのはたやすいと主張する。一方、『106万円の壁』は『106万円の沼』と呼ぶべきだと訴える。6月に成立した改正年金制度関連法では、週20時間以上働けば社会保険料負担が発生し、手取りが減る。政府は『パート労働者が社会保険に加入しやすくなる制度改正』と表現しますが、〈損になる話〉を〈得になる話〉のように説明するのは極めて悪質」と指弾する。」自公と立民が結託して制定した年金改悪法は、パート労働者を強制的に社会保険に加入させる悪徳法制である。

「12年に第2次安倍政権が発足すると、日銀総裁に据えられたのが、財務省出身の黒田東彦(はるひこ)氏だ。アベノミクス『第2の矢』として、大規模金融緩和策が採られた。その結果、日本円は暴落の一途をたどり、外国人にとっては日本の“売り尽くしバーゲンセール”になっている。各地の優良リゾート施設や水資源を抱える不動産、東京の超高額なタワーマンションも外国人の手に次々と渡っている。」

「経済安全保障問題が議論されていると言いますが、日本円暴落の“放置”が問題視されたことを聞いたことがありません。日本全体が海外資本に乗っ取られることが促進されている」

 参院選で外国人問題が喧伝されたが、最大の問題は日本円暴落の放置なのだ。日本円防衛を図ることが日本防衛の根幹であることを指摘する者が皆無である。外資による日本買収を側面支援していると言うほかない。

「『失われた10年』という語句を作ったのは植草氏だが、1990年にバブルが崩壊してから35年がたつ。崩壊後の経済縮小には、BIS(国際決済銀行)規制が大きな原因となった。巨額の株式を保有する日本の金融機関に対しては、保有する株式の含み益の一定比率が自己資本に組み込まれることとされた。1980年代の株価暴騰局面では銀行融資が制約を受けることがなかったが、90年代を迎え資産価格が暴落に転じると、金融機関の自己資本が一気に縮小し、金融機関は融資残高の圧縮に動かざる得ない状況に追い込まれた。」

「『やがて到来するであろう日本の資産価格下落の局面で、日本の金融機関および金融市場、ひいては経済全体に重大な衝撃を与えることがあらかじめ想定されていたのではないか』と推論する。」
国際金融資本の総本山のたくらみは実に悪らつだ。亀井静香元金融相がいた頃の国民新党が選挙チラシに『BIS脱退』と書いていたのを見て、胸がスカッとしたのを思い出した。」

「“大蔵省三原則”なるものを紹介する。すなわち、『場当たり、隠ぺい、先送り』である。植草氏は1992年時点で『不良債権問題処理のために公的資金投入も必要になる』との見解を日経新聞の『経済教室』に寄稿していた。日本住宅金融株式会社の母体行である旧三和銀行が当時、大蔵省に対して破綻処理=法的整理を含む措置を提案したが、先送りされたという。」

「植草氏が旧大蔵省にいた頃、新たな外郭団体FARE(Foundation for Advanced Information and Research、フェア)が創設された。活動は、海外の政治・経済学者を日本に招聘(しょうへい)することと、2カ月に1回、海外視察旅行で豪遊すること。『これ以上“アンフェア”な組織はない』と皮肉る。」

「これを読んで私は、国際カルトが得意な黒冗談(ブラックジョーク)を思い出した。例えば、MAD(mutual assured destruction、マッド・相互確証破壊)は全面的な核戦争を惹起しかねない狂気の理論であることや、コロナ茶番で国際保健機関(WHO)が打ち出したのがPHEIC(Public Health Emergency of International Concern、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態・フェイク)であることなど。」

「日本人らしからぬ発想だと首をかしげていると、後ろのページに次の記述があった。」

「FAREという研究情報基金が海外とのネットワークを構築する過程で日本を支配する権力の所在地を確認した側面も否定しきれません。その海外視察の過程で一部の随行員が日本を支配する外国勢力のエージェントに転化したとの疑いも否定しきれないのです」

「やはり、財務省を牛耳るのも、国際カルトということになるのか。」

 高橋氏は最後に「同書を故森永卓郎著『ザイム真理教』(三五館シンシャ)に続く救世済民の書として世に広めたい。」と書いてくださった。この場を借りて深く感謝の意を表したい。拙著に対するアマゾンレビューの投稿も広くお願い申し上げたい。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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