玄海町ヴルーヴ破産問題(1)、開示資料で明らかになった、杜撰なプロポーザル公募
佐賀県玄海町が進めるローカル5G整備事業を手掛けていたヴルーヴ(株)(東京都品川区)が、玄海町から約10億4,800万円の補助金を交付されていながら今年7月に破産した件について、データ・マックスは、玄海町への公文書公開請求によって開示された資料を入手した。
資料を見ると、10億円超という莫大な補助金を交付する事業でありながら、まるで杜撰なプロポーザル公募の実態が明らかになった。
公募期間はわずか1週間
ローカル5Gの整備事業は「高度化通信網構築事業」(以下、本事業)として、2023年10月の玄海町議会において、本件補助金を含む補正予算が可決された。補助金交付上限は23年度が6億4,000万円、24年度が5億6,000万円の予定で、2年間で最大12億円というものだ。
10月11日、玄海町のホームページにて、公募型プロポーザルを実施することが公告された。ホームページには、実施要領、仕様書、各種書式などとともに、下記日程の赤字部分が掲載された。
本事業の事業者決定までの日程(赤字は公告されたプロポーザル日程)
2023年10月6日 玄海町議会にて、本事業の補助金を含む補正予算が可決
10月11日 公募型プロポーザルを公告
10月11~17日 質問書受付期間
10月18日 質問書への回答予定日、参加申請書等の提出期限
10月20日 参加資格結果通知、企画提案書等の提出期限
10月24日 プロポーザル審査日 午前中にプレゼンテーション30分、質疑応答45分、その後採点
10月25日 実施候補者がヴルーヴに決定したことを同社に通知
まず日程があまりにも短期間であることに驚かされる。参加申請書の提出期限は公告後わずか7日後、企画提案書の提出期限もその2日後である。また、応募を検討する事業者のなかには、質問を希望する事業者もあるだろう。ところが、質問書の回答予定日と参加申請書等の提出期限が同日とされており、質問しようとする事業者は実質的に公募から排除されているとしか思えない設定だ。応募者は参加資格結果通知を受けてから企画提案書等の提出をするものと思われるが、その期限が同日となっていることも不可解だ。
公正な公募であれば、応募者はこの公告が出て実施要領と仕様書を見てから、提案内容を検討し、必要書類をそろえなくてはならない。本件のように補助金10億円を超える規模の事業について、1週間以内に参加申請、9日以内に企画提案書の提出を行うということがはたしてできるものなのか。そしてそもそもこのような日程で、本当に適格な事業者を公正に選ぶことができるのだろうか。
ちなみに玄海町が行っている別の公募型プロポーザルの例を見てみよう。これは9月8日に玄海町ホームページに掲載された公告の抜粋だ。
玄海町勤怠管理システム導入業務委託に係る公募型プロポーザル
委託料上限額:1,100,000円 (取引に係る消費税および地方消費税額を含む。)日程
25年9月8日 公告(プロポーザル実施要項告示)
9月12日 質問書受付締切
9月22日 参加申込書等の提出期限
9月26日 参加資格審査結果通知
10月6日 企画提案書等の提出期限
10月14日以降 プレゼンテーション審査
プロポーザル審査後 審査結果の通知
こちらの委託料は110万円とローカル5Gの1,000分の1だが、公募期間がまるで違う。こちらは公告から2週間後に参加申込期限、4週間後に企画書提出期限、5週間後以降にプレゼンテーション審査だ。
ほかの自治体の例を見ても、公募期間4週間程度というのが一般的である。玄海町が本事業に設定したプロポーザル公募期間が異常な短期間であることは明らかだ。
実質的要件のない仕様書
次に公告で掲載された仕様書を見てみる【資料1】。事業の目的は、ローカル5Gなどの高度化通信網構築にとどまらず、それらを活用した企業誘致なども含むかなり広範なものであることが分かる。その結果、事業内容は多岐にわたるが、要するにすべてを事業者に任せるということのようだ。
事業要件の項目には、整備後の運用方針、要求水準として次のような記載がある。
本事業で整備された施設は事業者の資産とし、適切な運用を図ること。機器更新など整備後にかかる費用は事業者が負うものとし、本町は後年度において負担を一切負わないこと。
なお、整備後の維持管理費等の一部については、整備から5年間程度本町が負担するものとし、その期間については、事業実施候補者と協議の上、決定する。
資産の帰属先と費用負担についての記載があるのみで、構築されるべき通信網の具体的な機能やスペックの要件はまったく記載されていない。実際に構築される通信網については関心がないようにすら見える。まるで事業者に全幅の信頼を置いているかのような仕様書だが、あくまでもこれは事業者決定前の公募時の仕様書だ。
財務状況は不問
次に、本事業への応募にあたって提出が必要な書類を見てみる。実施要領には次のように記載されている。
参加申請書、会社概要、納税証明書、登記簿謄本、業務実績調書、企画提案書、業務実施体制、業務工程表、見積書
企画提案書、業務工程表、見積書などといった書類が、果たして公告後9日という書類提出期限までに準備できるか、はなはだ疑問だ。
だが、それ以上に大きな疑問がある。提出書類に貸借対照表などの財務状況を確認するための資料が含まれていないのだ。莫大な補助金を交付する事業でありながら、交付先の財務状況を確認しないとは、事業者の倒産リスクなどについては一切考慮しないということだろうか。
仮に本事業が、通信網構築の請負業務のようなものであり、完成後に施設を町に引き渡して完了ということであれば、引き渡し後に補助金を精算払いにすることである程度のリスク回避を考えることもできる。しかし、その場合でも契約不適合が発生したときに責任が放棄されるリスクは残る。
ところが、本事業は仕様書の事業要件に記されているように、「本事業で整備された施設は事業者の資産とし、適切な運用を図ること」となっている。つまり、事業者は通信網を構築して終わりではなく、構築した施設を資産として保有し続けて運用することになっている。とすれば本事業の長期的な継続性を確保するためには、事業者に倒産リスクがないかどうかが最も重要な確認事項であるはずだ(実際、本件はそのようになってしまった)。
応募したのは1社
補助金上限12億円という大きな事業でありながら、極めて短い公募期間というハードルの高さの一方で、財務状況は不問というなんともちぐはぐな公募に対して、実際に応募してきた企業が1社あった。それがヴルーヴである。
応募はわずか1社だが、実施要領には「応募者が1者の場合においても審査を行うものとする」とある。ヴルーヴの応募によって、予定通り審査は行われた。
(つづく)
【寺村朋輝】