玄海町ヴルーヴ破産問題(3)、補助金の支払いと破産 残された負の遺産

補助金4億円と5億円を概算払い

 2023年10月24日のプロポーザル審査で事業実施者に決定したヴルーヴは、補助金交付申請書を玄海町に提出して必要な金額の支払いを求めることになる。玄海町は補助金の交付方法について、本事業補助金等交付要綱で次のように定めている。「この補助金は、精算払いで交付するものとする。ただし、事業の執行上必要な場合は、補助金の全部又は一部を概算払で交付できるものとする」。

 では、実際はどうであったのか。下記は23、24年度のそれぞれの補助金の支払日、額、その支払い方法だ。

玄海町からヴルーヴへの補助金の支払い履歴
23年11月24日 4億円を概算払い
24年5月24日 8,829万6,000円を精算払い
以上が23年度(令和5)補助金
24年7月12日 5億円を概算払い
25年3月14日 6,000万円を精算払い
以上が24年度(令和6)補助金

 原則は精算払いとされていながら、実際には23、24年度のいずれにおいても補助金の大半が概算払いで支払われていた。

 ヴルーヴが11月13日付で出した交付請求書には、概算請求をする理由として次のように記載されている。「装置発注並びに設計業務における先出コストへ充当し、各業務を円滑に推進するため」。つまり、ヴルーヴは概算によって補助金の大半の事前交付がなければ事業を行うことができない財務規模の事業者であった。そもそも玄海町は公募の必要資料として財務状況を確認する貸借対照表の提出を求めていなかったのであり、莫大な補助金事業を前払いで進めることは当初から織り込み済みだったと言わざるを得ない。

 24年度分の補助金交付請求書でも、ヴルーヴは概算払いの請求理由として、「今年度実施します玄海町高度化通信網構築事業の着工資金として、発注先に部材調達やかかる費用を支払うための運転資金として申請させていただきます」と記載した。請求書の日付は7月9日付、それに対して概算支払いが行われたのはわずかその3日後である。

25年度補助金不交付とヴルーヴの破産

 25年5月、ヴルーヴは、玄海町でローカル5G・Wi-Fi等の高度化通信網を構築し4月1日から本格運用を開始したと発表した。25年度から事業は運用フェーズに入った。これに先立ってヴルーヴは玄海町に対して25年度の補助金申請予定の概算を示した資料を提出している。

【資料7】2025年度高度化通信網予算
【資料7】2025年度高度化通信網予算

 25年度の収支見込みは、支出が約3億6,300万円、売上見込みが約1億2,000万円で、差し引きの概算2億4,000万円を25年度の補助金交付希望額としている。

 ところが、9月10日の報道によれば、玄海町は今年3月にヴルーヴが提出した実績報告書のなかに虚偽の請求書があることを発見した。5月初めごろ玄海町は、25年度の補助金約2億4,000万円を交付しないことをヴルーヴに通知し、6月10日、佐賀県警に対してヴルーヴを有印私文書偽造の疑いで告発したという。

 7月16日、ヴルーヴは全事業を停止し、翌17日に玄海町に対して破産手続き開始を申し立てる予定であることを通知した。通知のなかでヴルーヴは、破産申し立てを行う理由について、次のように説明している。

玄海町のサービス提供に際し、下請け事業者との支払いトラブルが発生したことに起因し、同事業者から当社名義の預金口座に仮差押がなされたこと、同仮差押の解放の為に多額の供託金の拠出を余儀なくされたことから、当社の資金繰りは急激に悪化することとなりました。また、玄海町の検収が長引き、本年度予定されていた交付金の交付が遅れたことから資金が枯渇するに至ったことから、当社を含む「ヴルーヴグループ」の事業の継続は困難であると判断致しました。

 ヴルーヴは補助金の大半を概算請求するほどに資金を補助金に依存した事業者であった。つまり、身の丈に合わない事業を手がけていたのであって、ひとたび支払いをめぐるトラブルが発生すれば供託金の捻出に窮するのも、補助金を止められて資金が枯渇するのも当然だったといえる。

 7月26日、ヴルーヴは東京地裁から破産手続きの開始決定を受けた。負債総額はグループ4社合計で約7億8,700万円。

絵に描いた餅の収支見通しと、残された現実

 もう1つ次のような資料がある。これはヴルーヴが24年度の実績報告で示した今後の事業の収支見通しだ。

 

【資料8】通信網構築に係る予算とサービス収益による収支見通しとスケジュール
【資料8】通信網構築に係る予算とサービス収益による収支見通しとスケジュール

 売上見込みの客観的な根拠は不明だが、高度化通信網構築事業はローカル5Gの整備だけでなく、企業誘致などまで含めた事業構想になっていた。よって売上見込みは、誘致した企業などからのローカル5Gの利用料などが想定されていると見られる。これがどこまで現実的な見込みであったかは疑問だが、今回のヴルーヴの破産は、その結論が早く出ただけといえる。

 収支見通しは絵に描いた餅だった。しかし、【資料7】で見る膨大なランニングコストを必要とするローカル5G施設が玄海町内に残されたことは現実だ。

 仕様書にも記載されていたように、当該施設は破産したヴルーヴの資産であり、現在は破産管財人の管理下にある。この高度化通信網事業が再開されるには、どこかの事業者がヴルーヴの資産となっている施設をまるごと買い受けて運用しなくてはならない。しかし、年間で莫大なランニングコストを必要とする上、採算の見通しが厳しい事業だ。追い銭の補助金による長期補填が保証されない限り、事業者が現れるとは思われない。

 本事業が玄海町に残した負の遺産は大きい。

(つづく)

【寺村朋輝】

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