【BIS論壇№496】中国のアフリカ戦略

 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は9月15日の記事を紹介する。

南アフリカ プレトリア イメージ    今後発展するアフリカは人口が25年の15億人から50年に25億人に増加。世界人口の4人に1人をアフリカ人が占める。日本のアフリカ戦略におけるアフリカと地理的、歴史的にも近接性を有するインド企業との連携協力、デジタル物流網構築などの研究の必要性について、筆者は【BIS論壇№493】「TICAD9横浜会議」(8月30日初出)および【№494】「躍進のインド、SCO」(9月1日)、【№495】「上海協力機構(SCO)」(9月3日)で強調した。

 日本のアフリカ攻略上、競合が予想される中国は「一帯一路」広域経済圏構想でアフリカに攻勢をかけている。トランプ政権の途上国アフリカなどグローバルサウスへの支援縮小のすきをついて25年1~6月の半年間でアフリカ向け投資は6兆円に達しているという。

 25年1~6月の中国の地域別投資額はアフリカ向けが400億ドル(約6兆円)で、全体の3割強を占めている。中央アジア294億ドル、中東241億ドル、東南アジア187億ドル、ラテンアメリカ10億ドルで、18兆円に達し、年換算では36兆円となる。

 トランプ政権が米国国際開発局(USAID)を閉鎖し、途上国への援助額を大幅に縮小した。途上国の反発などあり、その間隙を縫って中国の途上国への援助は意欲的な「一帯一路」戦略でアフリカを中心に途上国への投資拡大をもたらしていることは否めない。

 とくに中国はアフリカのレアメタル、鉱物資源確保を目指し、投資を拡大している。「一帯一路」の投資には資源権益の確保という思惑もあるようだ。

 アフリカは人口の増加が著しく、21世紀後半から22世紀にかけて「残された最大のマーケット」となるだろう。さらにアフリカは中国にとり、国際的な影響力を強めるための不可欠な存在ともなりつつある。

 25年前半の中国のアフリカ向け投資は24年通年より37%も多い400億ドル(6兆円)となり、13年の「一帯一路」構想提起以来最高となった。とくに南アフリカとともに発展の著しいナイジェリア向けの200億ドル(3兆円)のガス施設、鉄道プロジェクト2億4,500万ドル(約420億円)の投資がアフリカ向け投資をけん引している。中国も日本のTICADに対応し、アフリカとの関係強化に熱心だ。23年10月に「中国・アフリカ首脳会議」を開催。アフリカとのさらなる関係強化を打ち出しており、中国の動向には注意が肝要だ。

 一方、「一帯一路」のアフリカ展開については批判もある。先日NHKで放映されたエチオピアでの「一帯一路」特集番組で、工場建設現場での中国企業の強引な農業耕作地買収交渉、工場現場における儲け本位の経営方針に対する従業員の反発など、問題も散見された。 習近平政権が「人類運命共同体」を高らかに標榜するのであれば、工場建設のための農地買収や、現地工場経営に関し、現地の農民、従業員の立場も考量し、Win-Winの精神で「一帯一路」を推進していくことが強く求められる。


<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。

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