福岡教育連盟
執行委員長 山内省二 氏
福岡県内の公立学校は部活動やスポーツにおいて私立学校をしのぐ実績を持つ学校が少なくない。福岡県は50年前、現在では想像できないほど教育現場が荒廃した時期がある。その状況を憂い結成されたのが県立高校や特別支援学校に勤務する教職員を中心とする教職員団体・福岡教育連盟だ。教育現場の現状や課題について福岡教育連盟執行委員長・山内省二氏に話をうかがった。
教育現場の荒廃を憂い
教職員団体を結成
執行委員長 山内省二 氏
──福岡教育連盟の沿革や設立の経緯を教えてください。
山内省二氏(以下、山内) 前身の団体は1972年に結成された福岡県高等学校新教職員組合(新高教組)という団体で、2022年に50周年を迎えました。1997年4月より福岡教育連盟(FENET)と改称して現在、福岡県の公立高校・特別支援学校の教職員を中心に構成しています。
結成当時、福岡県では保守・革新の対立を背景にして日教組(日本教職員組合)の運動が盛んでした。当連盟は、日教組の運動方針や教育の在り方に疑問をもった教職員が結成しました。当時日教組は、賃金交渉や待遇改善に関して交渉と称して管理職に対する激しい攻撃を行っていたと聞いています。
我々の初代委員長で、久留米の明善高校の国語教諭だった永田茂樹という人がいます。永田委員長はもともと詩人の道を歩んでいた人ですが、母校愛から教職の道に飛び込んだそうです。当時の学校現場は組合闘争を背景に荒廃して生徒がスポイルされており、そのことを永田氏は憂い、同じ思いをもった同志の先生方と新高教組を結成しました。
結成以来我々はスローガンとして「すべての子どもをわが子として」を掲げています。わが子である教え子を放置して組合運動をやっていいのか。まず教師は子どもたちと授業や部活動、生徒指導で向かい合って教育活動を進めることが本分です。そして教育を通して、自らの命を育んでくれた母なる国、日本に誇りをもつことのできる心と、日本の伝統と文化、父祖の教えに謙虚に学ぶ姿勢を育むことが必要だと考えています。
時代に対応しつつ
伝統的価値観の両立を
──昭和から平成初期と比べると生徒や保護者の考え方も変わったように思います。
山内 たしかに連盟が発足した50年前の状況と今では大きく変化しました。しかし、生徒と向き合うことが十分確保できているかというと残念ながら心もとない部分があります。そのことについて私たちは3つの視点で考えています。
1つは、先生たちが事務作業などに追われて子どもたちと向き合う時間が減っており、それは正常とはいえないということです。私は高教組(日教組系)を全否定するつもりはなくて、ベクトルは違いますが、組織で交渉していく必要性についてまったく同じ意見です。
2つ目が、新自由主義の問題だと私は考えています。私はその新自由主義に関しても全否定するつもりもありませんが、勝ち組、負け組の二極化、強者だけが一人勝ちしてしまい本来豊かだった中間層がどんどん転落していっています。ではブレーキを一体誰がかければいいのかというときに、個人の力は無力です。高市早苗さんが首相になったことは本当に喜ばしく保守としてすごく期待する部分はあります。しかし、高市首相の所信表明演説を見たときに、教育についての項目が少ないように感じました。また福岡県議会の代表質問を見たときにも、教育についての質問があまりにも薄いことにショックを受けました。
教育現場においても効率化重視ばかりが先行しており、日々の授業や受験にしても短期的な結果が要求されます。先月政府は2025年版の自殺対策白書を閣議決定しました。これによると24年の15~29歳の若者の自殺者は3,125人で、5年連続で3,000人を超えており、主な原因は進路に関するものです。効率化優先の結果、学校で対人関係を築くことを身に着けられないまま、社会に出て挫折する人が増えているのではないでしょうか。
──教科書のデジタル化など新しい取り組みはどうですか。
山内 我々は紙媒体とデジタルのハイブリッドを重視しています。「不易流行」といわれますが従来型の紙の教科書による教育で一定の水準を保っていたのは日本です。一方で世界はどんどんデジタル化が進んでいます。スウェーデンでは紙媒体の見直しもあるようです。
心配しているのは高校無償化です。反対ではありませんが所得制限を全廃したことを懸念しています。家庭の事情から必要な子たちには措置すべきですが、所得制限をなくしてしまうと、前述のように「勝ち組」「負け組」の構図ができてしまい公教育の在り方が崩れてしまうことになりかねません。3つ目のジレンマは、教育の「溶解」です。公立も私立も区別がつかなくなり、生徒指導1つ見ても基準がわからなくなりました。
──連盟として訴えたいことを最後にお願いします。
山内 子どもたちは学校を卒業するといろいろな業界に行きます。学校では子どもたちが何処で生きていくにも必要な共通の事柄を学ばなければなりません。そのためには私たち教職員も、自分たちだけの世界だけに閉じこもらず、違った業種の人たちとのつながりを築いていく必要があると考えています。
11月29日(土)に大野城まどかぴあ大ホールで福岡教育連盟の教育交流大会を開催します。元福岡ソフトバンクホークス選手の内川聖一氏を講師に招いてのトークショーのほか、部活動の在り方についてのパネルディスカッションも開催します。参加無料でどなたでも参加いただけます。多くの皆さんにご来場いただければと思います。
【近藤将勝】
<プロフィール>
山内省二(やまうち・しょうじ)
1967年、北九州市門司区生まれ。福岡県立小倉高校、広島大学文学部卒業。読売新聞西部本社記者を経て、93年福岡県立直方高校教諭、同鞍手高校教諭、福岡県教育センター長期派遣研修員を務め、2009年から嘉穂高校教諭。20年から現職。22年から産経新聞九州山口版にて教育コラム「山内省二の一筆両断」を連載した。








