【クローズアップ】赤字体質が常態化するなか問われる歯科大学の運営・経営体制

(学)福岡学園

 福岡歯科大学や付属の総合病院など経営する(学)福岡学園。大学は九州唯一の私立歯科大学であるが、これまで偏差値、国家試験合格率が低く、長く「Fラン」大学としての評価を甘んじて受けてきた。それらは改善の傾向にある一方、直近5期において最終赤字となるなど、学園・大学の運営・経営体制には課題が多い。

九州私大唯一の歯大

キャンパス整備を進める福岡学園。左が「新本館」
キャンパス整備を進める福岡学園。左が「新本館」

 (学)福岡学園は福岡歯科大学、同大学付属の医科歯科総合病院、福岡看護大学、福岡医療短期大学、ぺんぎん保育園、介護老人保健施設「サンシャインシティ」、特別養護老人ホーム「サンシャインプラザ」、同「サンシャインセンター」を運営している学校法人だ。福岡市早良区田村一帯とその周辺部にこれらの施設が集約、存在している。2022年7月に創立50周年を迎えた。それに先立つ20年9月には総合病院の建替えが完了、約550名収容の大ホールなどを設けた記念講堂も完成した。25年7月には「新本館」も竣工するなど、キャンパスの整備を続けている。

 学園の中核である福岡歯科大学は1973年4月に九州、中国・四国地方で唯一の私立歯科大学として開学した。近年は「歯学から口腔医学へ」の理念のもと、従来の歯学に一般医学・福祉の要素を取り入れたより総合的な口腔医学教育を実践し、「口腔の健康を通して全身の健康を守る歯科医師」を育成している。卒業生は現在までに5,000人を超え、自民党の参議院議員(比例全国区選出)の比嘉奈津美氏らを輩出している。

水田祥代理事長
水田祥代理事長

 学園理事長の水田祥代(すいた・さちよ)氏は42年3月生まれ。九州大学医学部卒業後、福岡市立こども病院・感染症センター小児外科部長などを経て、旧帝国大学系の医学部で初の女性教授として、89年9月に九州大学医学部教授となった。同大学理事・副学長となり、福岡学園の理事、常務理事を経て、2015年から理事長の職にある。福岡歯科大学学長・髙橋裕氏は、1981年に同大学歯学部を卒業。89年歯学博士を取得し、2018年から学長に就任。同大学医科歯科総合病院副病院長、学園の評議員などを歴任している。

 ここで福岡歯科大学を含む「歯学部」の現状について確認しておきたい。かつて社会的に「歯科医は高収入」な職業というイメージがあり、歯学部受験は人気だったが、歯科医師の増加や開業医院の飽和などから、次第に稼ぎづらい職種となり、歯科医の「将来性」に対する期待が揺らいだ。ただ、高齢化や口腔ケア重視などによる医療ニーズの多様化、将来的な歯科医師不足といった懸念から、近年は再び歯学部への関心が戻りつつあり、授業料などが比較的安価で安定的な人気があった国公立大学の歯学部に加え、私立大学の歯学部の志願者数も増加傾向にある。とはいえ、「人気の歯学部」と「定員確保に苦しむ歯学部」の間で二極化も進んでいる。

長く「Fラン」評価に
甘んじてきたが

 福岡歯科大学の状況について確認すると、福岡県内には私立の同大学に加え、公立の九州大学、九州歯科大学の3校がある。東京都を除くと同一県内に歯学部が3校以上あるのは福岡県だけだ。こうした状況もあり、福岡歯科大学はしばらくの間、偏差値が「ボーダーフリー」(河合塾の基準で、受験者数が少なく、倍率が非常に低いため、受験の際の合格ラインが設定できない大学、いわゆる「Fラン」)に設定され、定員確保に苦しむ歯科大学の1つとして位置づけられてきた。しかし、この2年ほどは偏差値が40前後と、私大歯学部のなかでは中位クラスにまで改善。これにより24年5月時点の定員充足率は90%にまで上昇している【表1】。

表1

 同大学の歯科医師国家試験の合格率を確認する。福岡歯科大学は長く合格率において全歯科大学(学部)中で最低位レベルにあり、このことも偏差値や定員充足率が低く、前述のような低い評価がされていた要因となっていた。ただ、25年3月に実施された第118回国家試験の結果を見ると、全体の合格率が70.3%(うち現役は84.0%)だったなか、福岡歯科大は49.5%(同53.5%)となった。新卒53人、既卒43人、合計96人が合格し、新卒での50人以上の合格は10年ぶり、既卒を含めた90人以上の合格は「12年ぶりの好結果」となったという。これは、大学として教育環境の充実を図ったことの成果といえよう。

 歯科医師国家試験の合格率(全体)は、国公立大学では毎年平均で70~80%台、私立大学では同50~60%台で推移しており、国立大学が優勢。ただ、第118回試験で私立の東京歯科大学が95.6%となり全国1位となっている。歯学部をもつ大学は全国に29大学、うち私立は17大学あり、同試験において福岡歯科大学の合格率は全体では下から4番目、新卒に限ってみれば最下位に位置する。このため「好結果」とは表しているものの、依然として国家試験合格率では低いポジショニングにあることは変わらない【表2】【表3】。

表3

 福岡歯科大学は6年制で、在籍可能期間は最長12年間。初年度の納付金はトータルで550万円であり、2年生以降は435万円。これに加えて教科書代および実習器具代が6年間合計で約156万円(25年期実績)かかる。つまり、6年間で卒業できる場合では、全納付額(学費)は約2,881万円になる計算だ。一般的に私立大学の歯学部6年間の平均学費は1,900万円から3,200万円といわれており、同大学は中位レベルに位置づけられる。しかし、公立大学歯学部の学費は6年間トータルで350万円前後が標準であり、福岡歯科大学とは2,500万円程度の乖離がある。それを考えると、25年の国家試験が「好結果」とはいいがたいものがある。

疑惑の渦中に

 同大学は今、疑惑の渦中にある。関係者によると、25年1月17日に6年生が卒業試験の結果発表直前に校舎の9階から飛び降り自殺したというもの。さらに、卒業ができなくなった多留年生(在学期間が12年となり、「放校」が確実な学生もいたとされる)が、理事長に対して「卒業させないと(自分たちも)自殺する」と迫った。その後、大学は卒業試験の成績を問わず、受験者(「6回生」以上)を全員合格とし、これにより同大学史上初の6年生全員が卒業試験合格することとなったのだ。なお、例年の卒業者は6年生(多留年生を含む)の約半数程度であったという。

 大学はこの一連の出来事について明確な否定をしておらず、この件についての当社の問い合わせについても期限までに回答しなかった。なお、福岡市が公開している救急車の出場記録【図】から、同日に福岡歯科大学の敷地に出動があったことが確認できる。仮にこの出来事が真実なら、学園・大学には医療従事者を育成する教育機関、医療機関を経営する法人としての適格性が問われることになる。歯科医師を含む医療従事者には知見や技術はもちろんのこと、高い倫理観が求められるが、十分な教育が施されずそれらが一定の水準に達していない人物を卒業させ、国家試験を経て医療従事者になった場合、倫理性を欠くことで将来的に重大な問題を起こす可能性は否定できないからだ。前述のように「口腔の健康を通して全身の健康を守る歯科医師」育成を目指すならなおさらだ。

図
【図】
福岡市のデータベースより抜粋。
「早良区田村2丁目15番」は福岡学園の所在地

大学淘汰の時代に
いかに存在意義を示すか

 ところで、大学を含む学園全体の経営状況に目を向けると、直近5期(以下すべて3月期)は企業における売上高にあたる教育活動収入は70億円前後で推移しているものの、利益面では人件費や教育研究経費等の支出が収入を上回り連続赤字となっていた。教育活動収入の内訳は25年期において歯科大学などの学生生徒等納付金が44.8%、医科歯科総合病院などの医療収入が34.7%を占める。財務面に目を移すと、流動比率が106.5%、自己資本比率が78.9%となっており、総負債比率が21.1%となっている。財務体質は現状、比較的健全な状態にあるが、赤字体質が常態化しており、今後の財務状況については決して楽観視できるものではない。

要約貸借対照表/既往の業績

 大学の経営は約10年にわたり、水田理事長をトップとする体制(25年6月に再任)が続いている。前述のように旧帝国大学系の医学部で初の女性教授に就任した人物であるが、赤字体質の常態化など経営は順調といいがたい状況にあり、それを許してきたのは事実だ。そもそも、大学そのものが淘汰の時代にあり、それは医療系大学であっても同様である。そのなかで、これまで必ずしも良好なものではなかった大学をはじめとする学園の評価を高め、社会や地域にどれだけ存在意義を示すことができるのか、注目されるところだ。

【田中直輝】

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<COMPANY INFORMATION>
理事長:水田祥代
所在地:福岡市早良区田村2-15-1
設 立:1972年8月
基本金:544億9,726万円
教育活動収入:(25/3)71億7,184万円

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