国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏
ウクライナのゼレンスキー政権をめぐる汚職問題は、上がそうなら下も同様といった感じで、大統領の側近らがエネルギー部門から1億ドルを横領しただの、ロシアの攻撃に対する原子力発電所の防衛費を流用しただのと告発されています。盗聴により明らかになったようですが、ゼレンスキー大統領への資金提供者や政府高官、実業家らが、請負業者を通じて賄賂をロンダリングしていた疑いも氷山の一角と見なされています。
ゼレンスキー政権中枢の
崩壊と汚職連鎖
ウクライナのゼレンスキー大統領は、政権No.2で最側近のイエルマーク大統領府長官を解任しました。11月28日のことです。ロシアとの戦争終結に向けたアメリカとの交渉において中心的な役割を担ってきた人物のため、今後の和平協議に暗雲が漂っています。
イエルマーク氏はゼレンスキー氏の長年の盟友。政権の中枢を担ってきたわけですが、相次ぐ汚職スキャンダルの頂点ともいえそうです。このままでは、国民のゼレンスキー氏への信頼も失墜し、政権の維持も難しくなるでしょう。そもそも、後述しますが、ゼレンスキー氏本人も数多くの汚職疑惑を抱えています。
こうしたスキャンダルは、ウクライナの汚職対策機関(NABUとSAPO)の弱体化をもたらし、国民による抗議活動を引き起こしています。戒厳令下で選挙が実施されず、日常生活は停電で暗いまま。そして、終わりのないエリート層の汚職により国民のゼレンスキー政権に対する信頼は地に落ちています。
高官汚職の実態と
NABU捜査の拡大
汚職は伝統的にウクライナ政権内部に深くしみ込んできました。そして、最近でもたとえば、ロシアとの戦闘に欠かせないとされる中国製の防弾チョッキですが、安全性検査で不具合がありながら、高額の防衛契約になっており、中抜きがあったことは衆目の一致するところです。一事が万事。NABUはウクライナ国防省へのさらなる捜索を示唆しています。
EUと米国は、ウクライナの汚職対策に対する監視強化を求めており、これまでのような抜け穴だらけの援助やEU加盟は当然のことながら難しい状況です。 NABUは、今後はさらなる高官、あるいはゼレンスキー大統領自身にまで不正関与が疑われる可能性があると警告しています。
その意味では、「ヨーロッパ最悪の汚職国家」と以前から揶揄されてきたウクライナですが、ロシアによる侵攻開始以来、最も深刻な汚職スキャンダルに見舞われているといっても過言ではありません。ウクライナはロシアによる電力網への空爆に対処しつつ、戦争遂行のために西側諸国からの援助に依存しているという重要な局面であり、これらの不祥事は国民の信頼を揺るがすばかりです。
ウクライナ国家汚職対策局「NABU」は1000時間にわたる盗聴により、高官や実業家のネットワークを明らかにしました。そのなかには、ゼレンスキー大統領の長年の資金提供者であり、同大統領がかつて経営していたテレビ制作会社「クヴァルタル95」の共同所有者でもあるミンディッチ氏、マネーロンダリングを幇助したとして起訴されたウクライナの元エネルギー大臣で、停職処分を受けているガルシチェンコ氏も含まれています。また、チェルニショフ元副首相も、不正な蓄財に関与したとされ起訴されました。
戦争長期化がもたらす
支援の動揺と深刻な危機
この種のスキャンダルは、今年初めに反汚職機関の弱体化を企てたとしてすでに批判を浴びていたゼレンスキー政権の中枢を直撃するもの。本年7月、ゼレンスキー政権はNABUとSAPOを大統領の管理下に置くことを試み、EUと米国からは「隠ぺい工作」との抗議と反発を招いていました。結局、そうした動きは撤回されましたが、ゼレンスキー政権の汚職体質を内外に明らかにすることになった次第です。
EUはこうしたスキャンダルを機に、ウクライナの汚職対策への監視を強化しています。最近の欧州委員会の報告書は、NABUの独立性を維持し、主要な人事には国際的な専門家を関与させるよう要求したほどです。2022年以降、1,000億ドルを超えるアメリカからの援助がウクライナに流入しており、西側諸国の議員たちは資金の不正使用防止について改善を求める声を強めています。
「汚職に対するあらゆる効果的な措置は極めて重要だ」とゼレンスキー大統領はテレビ演説で述べています。「処罰は避けられない」とも言っていますが、怪しい限りです。ゼレンスキー大統領と容疑者とのより深い関係が明らかになれば、彼の政治的生命も風前の灯火となりかねません。いずれにしても、ウクライナとロシアの戦争には終わりが見えないのが問題です。
いうまでもなく、ウクライナではすでに100万人近くの兵士が命を失っています。また、80万人以上が身体に障害を受け、路上で物乞い生活を余儀なくされている模様です。兵員不足は深刻で、女性や10代の若年層を徴兵義務化させる動きが出ているほどです。当然、国民からは反発を呼び、国外脱出を試みる若者が急増しています。
そんななか、去る7月ローマでは「ウクライナ復興会議」が開催され、約70カ国の代表が参加し、支援総額100億ユーロ(約1兆7,000億円)で合意しました。しかし、世界銀行の推計によれば、今後10年間で必要な資金は5,240億ドル(約77兆円)とのこと。戦争がどのようなかたちで終結するのか見通せない状況下で、日本を含め世界各国がどこまで本気で資金を提供するのか疑わしい限りです。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。








