【新春トップインタビュー】鉄鋼流通の常識を変える新構想で クニづくり・マチづくり・モノづくりに貢献する
小野建(株) 代表取締役 小野剛 氏
2025年から26年にかけて、鉄鋼流通業界は鋼材市況の乱高下、需要の不透明化、建設投資の停滞など、かつてない逆風に直面している。国際的にも保護主義が強まり、調達リスクは一段と高まった。こうした激変のただなかで、大胆な経営改革を進めているのが小野建(株)である。九州を起点に全国へ事業を広げ、鉄鋼流通と建設の二本柱で独自の地位を築いてきた同社は、25年6月、五代目社長・小野剛氏を新たな舵取り役に据えた。小野氏にその理念と戦略、DX構想、M&A、人材・地域への投資などの施策を聞いた。
乱高下する鋼材市況と
九州経済の急減速
代表取締役 小野剛 氏
──2025年の鋼材市況は乱高下を続け、非常に不安定な1年でした。振り返ってどのように感じていますか。
小野剛氏(以下、小野) 25年は本当に難しい1年でした。鋼材市況が安定せず、上がったと思えばすぐに下がるという、流通としては最も扱いづらい状況が続きました。この背景には「トランプ関税」の影響が非常に大きく、世界全体の鋼材需給バランスが一気に崩れたことがあります。
とくに九州ではその影響が顕著でした。TSMCの半導体工場は当初の計画よりも1年遅れ、自動車メーカーのEVバッテリー工場計画は延期もしくは中止となりました。九州は半導体と自動車産業が大きな柱ですから、そのブレーキは建設需要の縮小となり、結果として鋼材需要にも直接的なマイナスをもたらしました。需要が落ちれば必然的に鋼材価格も下がります。今振り返っても、業界にとっては歴史的に見て難易度の高い1年だったと思います。
ただ、こうした“外部環境の荒波”を前にしてこそ、企業の本質が問われるのだと痛感しました。
就任後の第一歩
存在意義の再定義
──そのようなタイミングで社長に就任されました。最初に取り組んだことは何だったのでしょうか。
小野 私が就任して最初に行ったのは、「会社の存在意義を浸透させること」です。経営環境がこれだけ激変している今だからこそ、「小野建は何のために存在するのか」を明確にし、それを社員全員で共有する必要があると感じました。社長就任までの半年間、幹部や若手社員を交えたディスカッションを重ね、辿り着いた言葉が「クニづくり・マチづくり・モノづくりに貢献する」というものです。
これは単なるスローガンではありません。実は創業者である曽祖父が、会社設立当時に掲げた理念と一致しているのです。曽祖父は、小野建材社(当時)の設立趣意書に「地域社会に貢献する企業でありたい」と明記していました。それを見つけたとき、私たちが導いた存在意義は、創業者から脈々と受け継がれてきたDNAと一致していたのだとわかりました。原点に返り、同じ志を再確認することで、未来への道筋が定まった、そんな感覚がありました。合わせて「小野建パーソン」の行動指針も策定しました。就任からの半年間は、この理念と行動指針を社内にしっかりと浸透させることに注力してきました。
2035年の長期ビジョンと
「三本の矢」
──理念の次に、35年の長期ビジョンを策定されています。具体的にはどのような目標なのでしょうか。
小野 35年には、売上高5,000億円、営業利益200億円という規模を目指しています。非常に大きな数字ですが、あえて高い目標を掲げることで会社の成長力を最大化したいと考えました。その実現に向けて、「三本の矢」という成長戦略を策定しています。これは理念・存在意義を実現するための具体的な道筋です。
【第一の矢】
既存事業の強化と拡大
小野建の中核は「鉄鋼事業」と「建設事業」です。鉄鋼事業は、鉄鋼製品を在庫し、必要に応じて加工し、自社の物流網で届けるというフルラインサービスです。鉄を扱う企業は多いですが、在庫・加工・配送をワンストップで提供できる企業は限られています。建設事業は、ゼネコンから鉄骨・屋根・壁・サッシ・杭など、複数の工種をまとめて請け負うことができる体制を整えています。多工種をまとめて提供できるのは大きな強みです。
とくに「鉄骨工事」は、鉄鋼事業と建設事業が重なる領域であり、当社の最も得意とする分野です。材料調達から加工、施工までを一貫して行うことで、品質と納期をコントロールしやすく、ゼネコンにも大きな信頼をいただいています。
【第二の矢】
M&Aによる成長
現在、国内の鉄鋼流通・専門工事業は後継者不足が深刻で、事業継続を断念する企業が増えています。そこに対して当社には全国からM&A相談が寄せられており、積極的に取り組んでいます。
25年には、すでに3件のM&Aを実行しました。1社目は、中央鋼材(株)(大阪市住之江区)。当社グループではノウハウのなかった厚板加工の技術・設備を獲得しました。2社目は、丸み興商(株)(愛知県豊橋市)で三河エリアに新たな商圏を展開。名古屋営業所と静岡センターとの連携により、東海エリアの需要を捕捉することができます。鋼材ECも行っており、運営のヒントも得ました。3社目は、(株)スタールカケフ(岐阜県可児市)。美濃地区の400社近くの販売先を引き継ぎます。
M&Aには、加工を深くするM&A(技術・設備を拡充)と、商圏を広げるM&A(地理的な拠点拡大)の2種類があります。この両軸で当社は成長を加速させています。
【第三の矢】
eプレイス構想(鉄のAmazonをつくる)
最も革新的な取り組みが「eプレイス構想」です。これは、インターネット上で鉄鋼製品をワンクリックで注文できる仕組みで、“鉄のAmazon”ともいえるものです。
鉄鋼流通業界はいまだに電話やFAXでの注文が中心で、デジタル化が大きく遅れています。そこに一石を投じたいという思いがあります。しかし、単にECサイトをつくればよいわけではありません。鉄鋼は長尺・重量物であり、通常の物流倉庫では扱いづらいという課題があります。その点、小野建は全国に「高天井倉庫」と「長尺貨物を扱える物流設備」をもっており、業界でも稀有な存在です。eプレイスは、物流インフラを持つ我々だからこそ実現できることだと思います。今後3年でベータ版のローンチを目指しています。
全国物流網を強化
2025年に新設した倉庫の狙い
──25年も新たに倉庫を新設されました。
小野 佐賀・山口・静岡の3拠点で新しい倉庫を立ち上げ、25年は福山でも稼働しました。鉄鋼流通にとって倉庫は競争力の核であり、単に保管場所ではなく、在庫・加工・配送を一体で提供できる「サービス拠点」です。新設した倉庫はいずれも高天井で長尺・重量物に対応できる設備を備えており、通常の物流センターでは扱いが難しい鉄鋼品を効率的に取り扱えるようにしています。
当社の倉庫網は現在、西日本ではかなり高密度になっており、「大阪以西で倉庫のない県は4県だけ」というレベルまで整ってきました。ドライバーの働き方改革による配送制約が強まるなかで、エリアごとに倉庫を配置することは、物流の持続性を守る意味でも非常に重要です。
また、これらの倉庫は当社のDX戦略である「eプレイス構想」(鉄のAmazon)を実現するうえで欠かせない基盤です。ECは注文だけでは成り立ちません。長尺貨物を扱える物流インフラがともなってこそ、初めてサービスとして成立します。当社が長年積み上げてきた倉庫網は、今後の事業拡大において大きな強みになると考えています。
「基盤づくり」の重点領域
人的資本とDX
──基盤づくりとして、とくに人的資本とDXに注力するとうかがいました。
小野 まず、人事制度の改善です。評価がわかりづらい、キャリアの見通しが立ちにくいといった声があり、これを解消するために制度の全面見直しを進めています。社員が安心して成長できる環境づくりは必須です。
採用面では、毎年20名前後の新卒者を採用しており、年齢構成は美しいピラミッド型です。現在の若い社員は発信力が強く、SNSの活用も含めて企業の新しい顔になってくれる存在です。
次に、DX基盤の整備です。eプレイス実現には、まず社内の基盤システムがしっかりしていなければなりません。会計処理の早期化やセキュリティ強化、CRM導入など、内部整備に力を入れています。
業界構造変化と
生き残り戦略
──需要構造の変化や脱炭素化など、業界は大きな転換点にあります。どのように見ていますか。
小野 日本の内需は人口減少とともに縮小していきます。そのなかで、同業者の数も減っていくでしょう。鉄鋼流通も専門工事業も、再編の波は避けられません。「淘汰の時代に、どう“残る側”に入るのか」。そのためには、技術力・物流網・多工種対応・DXなど、多面的な強みを磨き続ける必要があります。M&Aはそのための重要な手段です。
また、脱炭素化の潮流もあり、軽量化・省エネ建材など新しいタイプの鉄鋼需要も生まれつつあります。これらをチャンスとして捉えていきたいですね。
──海外調達やグローバル展開についてはいかがでしょうか。
小野 海外に拠点を置く計画はありません。当社は輸入の実績もありますが、世界全体が保護主義に傾いているなかで、関税やAD(アンチダンピング)調査のリスクは高まっています。とはいえ、お客さまが必要とするのであれば、最適な調達方法を提案するという姿勢は変わりません。
地域社会への貢献
スポーツ支援と奨学金財団
──地域貢献にも積極的に取り組まれています。とくにスポーツ支援と奨学金財団は特徴的です。
小野 当社は「子どもたちを応援する」というテーマを大事にしています。スポーツ支援では、ライジングゼファー福岡、サガン鳥栖、ツエーゲン金沢など、U-15・U-18を中心としたアカデミー支援を行っています。「スポーツチームは地域の『神輿』。それを担ぐ企業として地域と深くつながりたい」。
(右)ライジングゼファー福岡
また、24年には「ONOKEN財団」を設立し、九州の大学生12名に給付型奨学金を提供しました。応募者は200名近くにのぼり、多くの優秀な学生と出会えたことは、私にとって大きな刺激になりました。
学生たちのなかには、物理学、医薬研究、デザイン、航空・宇宙など多様な分野で挑戦する若者がいました。彼らと話していると、「日本の未来は明るい」と心から感じます。
事業承継と
100周年へ向けた思い
──社長就任までの歩みについても教えてください。
小野 私が小野建に入社したのは05年です。当時、父(前社長)が病気を患い、「戻ってこい」と言われたのがきっかけでした。その時から、「いつか社長になる日が来る」と覚悟を決めていました。副社長の期間が長かったこともあり、事業承継は非常にスムーズでした。逆にいえば、20年もの間、準備期間をいただいたともいえます。
──最後に、小野建をどのような会社へ導いていきたいと考えていらっしゃいますか。
小野 25年、私は45歳になり、会社は77期目に突入しました。私が69歳になる23年後、会社は100周年を迎えます。そのときに「今よりも良い会社」にして、次代へ引き継ぐことが私の使命だと考えています。“良い会社”とは何か――私はあえて定義しません。しかし、社員が“ここで働いてよかった”と思える会社でありたいと考えています。35年の長期ビジョンはその第一歩です。クニづくり・マチづくり・モノづくりに欠かせない企業であり続けるために、未来への布石を1つひとつ打っていきたいと考えています。
【内山義之】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:小野剛
所在地:北九州市小倉北区西港町12-1
設 立:1949年8月
資本金:69億4,763万円
売上高:(25/3連結)2,719億4,200万円
<プロフィール>
小野剛(おの・たけし)
1980年3月北九州市生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。伊藤忠丸紅鉄鋼(株)入社後、2005年10月、小野建(株)に入社。09年4月大阪支店鉄鋼部長、10年6月取締役大阪支店副支店長、11年6月取締役大阪支店長兼関西・中京エリア担当を歴任後、13年6月に代表取締役副社長、25年6月に代表取締役社長に就任。








