土壌から紐解く47兆円の勝機『土と生命の46億年史』が示すネイチャーポジティブの真髄

 ビジネス界で「ネイチャーポジティブ(自然再興)」が現実味を帯びている。環境省によれば、2030年までに国内で約47兆円のビジネス機会が生まれるという。脱炭素や循環経済に関連するなか、経営層が注目するのが24年12月刊行の藤井一至著『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)だ。

「土」という動的な装置

土と生命の46億年史    本書は地球誕生から46億年にわたる壮大な歴史を「土」という一貫した視点で描き出した異色の科学史である。生命の誕生から人類の知性獲得に至るまで、進化の重要な転換点には常に土壌が深く関与していた。土とは決して単なる砂の塊などではなく、無数の微生物や複雑な化学反応が織りなす極めて動的な「生命維持装置」なのだ。その深淵な営みを知ることは、現代のビジネスパーソンが社会の「基盤」そのものの価値を再定義する貴重な契機となるだろう。

爆発する微生物市場

 本書が提示する「土の多機能性」という視点は、すでに具体的な市場データによって裏付けられつつある。Fortune Business Insightsによれば、世界の農業微生物市場は32年までに約267億ドルに達し、年平均成長率15.73%という高い水準で推移する予測だ。もはや持続可能な農業への転換は、単なる倫理的選択を超え、倫理的選択を超え巨大な成長分野となっている。

 この潮流を「価値の可視化」が強力に後押しする。オルタナ誌(25年9月)によれば、最新のデータ化技術によって生態系サービスを数値化し、「自然資本」として企業価値に直接反映させる試みが加速している。ネイチャーポジティブ経営が株価評価や資金調達に実質的な影響をおよぼし始めている現状は、土壌の重要性が経済システムの中核に組み込まれた証左といえる。

地域主導の土壌ビジネス

 ネイチャーポジティブ移行は中小企業の好機だ。25年4月施行の「地域生物多様性増進法」により、地域連携活動の公的認定が始まった。『Forbes Japan』が指摘するように、中小企業は変化への対応力に長けている。地方で「土壌微生物力」を核とする戦略は、新たな雇用と付加価値を生むカギとなる。ただし1社単独では限界があるため、自治体や金融機関を巻き込んだ「地域主導の連携体制」構築が成功の必須条件だ。

 本書はビジネスの直接的な解説書ではない。しかし、気候変動や食料安全保障を解くカギがすべて我々の足元の「土」にあると説く。土壌を単なる消費財ではなく「次世代へと受け継ぐべき資本」へと認識を転換すること。本書を深く読み解くことは、47兆円の市場を勝ち抜くための新たな経営的視座を手に入れることに他ならない。

【児玉崇】


<INFORMATION>
書 名:『土と生命の46億年史 土と進化の謎に迫る』
著 者:藤井一至
出版社:講談社(ブルーバックス)
発売日:2024年12月26日
構 成:新書判/272ページ

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