2022年06月30日( 木 )
by データ・マックス

障害者施設殺傷事件は、シニアにとって対岸の火ですか?(2)

第47回 大さんのシニアリポート

sm 「子どもたちをかわいがり、小学校の教師を夢見ていた」ひとりの若者を、「ヘイト殺人鬼」に豹変させた動機は何だったのだろうか?植松聖容疑者のヘイトクライム(憎悪犯罪)を考えたとき、以前このWEBで報告したふたつの事件に共通したあるキーワードが浮かび上がってくる。ひとつは、昨年11月から今年2月までの間に、3人の入所者を施設の階段から投げ捨てて殺害した「川崎有料老人ホーム『Sアミーユ川崎幸町』殺人事件」。もうひとつは、1983年に横浜市内で起きた「路上生活者殺人事件」である。前者は同ホーム介護職員今井隼人容疑者が、「介護ストレスと待遇(給料含む)の劣悪な環境を理由に殺人事件を起こした」とマスコミが報じた。しかし、わたしはもっと単純な動機だと思う。被害者3人を含む複数の入所者から現金や指輪など計80万円を盗み、3人から「犯人扱いされた」ことに立腹。口を塞ぐために投げ殺したと推測する。「救急救命士という、国家試験を義務づけられた比較的高いハードルの資格を有する人間が、自分より能力の劣っている役立たずの入所者に尽くさなくてはならないのか。入所者は社会のお荷物」という他人を見下す意識があった。

 後者は、20歳未満の少年たちの犯罪で、そのひとりの答えに事実が隠されている。「汚い浮浪者を始末してやった。町内美化に協力してやった。清掃してやったのに、なんで文句をいわれるのか分からない」。共通しているのキーワードは、「仮想的有能感」である。これは「いかなる経験も知識も持ち合わせていないにもかかわらず、自分は相手より優秀であると一方的に思いこんでしまう錯覚のこと」(心理学者速水敏彦氏の造語。『他人を見下す若者たち』講談社現代新書より)で、今井容疑者などのように比較的若い人が抱くことが多いとされている。「(植松聖に)『ヒトラーの思想が2週間前に下りてきた』と発言していたという。ヒトラーは命に優劣をつける優性思想から、心身障害者約20万人を殺害したとされる」(「朝日新聞」平成28年7月29日)。「障害者の安楽死を国が認めてくれないので、自分がやるしかないと思った」「障害者はいらないから殺したいのに、政府が許可してくれない」(同8月16日)という植松聖容疑者の意識と、前述のふたつの事件を犯した容疑者の意識と見事に合致している。実に身勝手で見事なまでの差別意識。

img2 しかし、ヘイトを単純に「憎悪・反感・嫌悪」という意識として考えた場合、「今も施設を出る際、反対されることもある。『車椅子で散策する姿すら見たくない』といわれたことも」(「全国手をつなぐ育成会連合会長久保厚子氏談 同8月5日)という。重度な知的障害者のニュースが流れると、チャンネルを変える友人がいた。「可愛そうだ」というが、疎ましく思っていることも否定しない。潜在的に「異質の人たち」として忌避する人たちも存在する。”ヘイト”とはそれを「口に出していうかどうか」だけではない。植松聖が起こした事件は、動機不明のまま多くの問題を残した。同時に、開けてはならない「パンドラの箱」を開けてしまったという悲劇性を伴った。しかし「パンドラの箱」に収められた数々の”問題”を精査する時期に来ているとも思える。その意味では、幸運といえるのかも知れない。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
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