2024年05月06日( 月 )

中国の経済成長の陰で~福博の中華料理の名店が黒字閉店(中)

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華風 福寿飯店

日本よりも中国

華風 福寿飯店

 昨年10月に改訂された福岡県の最低賃金は1時間あたり789円。佐賀県の最低賃金737円よりも50円以上高い。福岡市の都心部という立地上、多少の賃上げはやむを得ないのだが、福寿飯店は県の最低賃金よりも400円以上高く設定したのにも関わらず働き手がこなかったという。

 「JR博多シティができる前(2011年より前)、大名地区の飲食店のアルバイトは時給800円でしたが、博多シティができた後、そちらに人材が流れ、人手不足となった。それでやむなく時給を1,000円まで引き上げた。さらに、その後、人材確保のため、時給を1,200円まで引き上げたが応募がこない」(李会長)。

 そのようななか、技術が問われる料理人の確保はもっと深刻だ。火をたくさん使う中華料理の厨房で働く料理人は、大量の油、重量のある中華鍋を用いるためかなりの重労働となる。さらに切り方、盛り付け方など繊細な調理法をマスターしなければならない。最低でも10年は修業しなければ一人前にはなれず、なかなかゼロから育成できるものではない。

 以前は、いわゆる中途採用で、中国本土の料理人を呼び寄せていたが、今では中国のほうが給料は高くなっており、わざわざ日本に来ることはないという。それならばと、日本人の若者を料理人として育てようとしたが、これも長くは続かなかった。「今の若い子は辛抱できない」と李会長は嘆く。

 日本の食文化への浸透とともに中華料理の位置づけが変わり、客単価が下がったため、むやみに人件費を上げるというわけにもいかなくなった。経験がなくても調理ができるファストフードやファミリーレストランなどで中華料理が増えたこと、ラーメンやちゃんぽんの食文化が浸透したことで中華料理は日本の食生活に欠かせないものとなった。だが、その一方で、中華料理が高級料理だという認識が薄らいでいったと李会長は指摘する。

 「本来はラーメンもちゃんぽんも、最後の〆の料理だった。それが今は主菜となっている。中華料理が広まることは嬉しいが、本当の中華料理の楽しみ方からは離れている」(李会長)。

 手づくりにこだわる店と、工場で大量生産し、店で仕上げ加工するファストフードやチェーン店とでは、料理にかける手間とコストは比べ物にはならない。別に中華料理に限った話ではないが、手づくりにこだわる飲食店にとって、近年の低価格の波が経営の重荷となっている。それでも華僑出身で、中華料理のパイオニア的存在であった李会長は、老舗のプライドとして料理へのこだわりを捨てなかった。

競争激化の福岡市

閉店を知らせる貼り紙
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 少子高齢化が進むなか、飲食店全体の事業者数は減少傾向にある。総務省、経済産業省の調べによると、12年度に全国の飲食店は61万782カ所あったが、14年度は60万2カ所と2年間で1.8%減。中華料理店は、12年度5万4,310店から14年度5万3,940店へと2年間で0.7%減となっている。

 「あと、4~5年経てばもっと閉店するところが増えるのではないか。いま、飲食店は皆ギリギリのところでやっている。これ以上、同業者が増えて、経費増と人材不足の現状が続けば事業は存続できるわけがない」と李会長。オフィスビルや商業ビルなどの再開発で、都市部への流動人口の増加が予測され、飲食店の増加が考えられる福岡市だが、現状での競争激化で、すんなりと繁盛いくとは限らないだろう。

 李会長の店はいったん店を閉め、再開を目指して活動しているが、あくまでも人材ありき。「閉店の時は、色んな方から励まされ、残念がられた。お客さまも泣いていたが、我々も泣いた。家庭的な雰囲気を出せたことでここまでやってこられた。我が店をひいきにしてくださった方々には感謝の言葉しかない」と振り返る。

(つづく)
【矢野 寛之】

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