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2019年08月20日 17:23

「平成挽歌―いち編集者の懺悔録」(15)

 私が週刊現代編集長だったのは平成4年から平成9年までの約5年半だった。販売に調べて貰ったら、この間の平均実売率は82%を超えていた。

 あの当時でも信じられないほど高いが、今思い返せば、編集部員に恵まれたことと、私にツキがあったということだろう。

 ツキのもらい方は萩本欽一に教えてもらった。今は、たまにテレビに出てきて、面白くないギャグをかます老いぼれ欽ちゃんだが、当時は『欽ドン』(フジテレビ系)などの冠番組がすべての局のゴールデンタイムを席巻していた視聴率男だった。

 彼は私より4歳年長だから、私が30代前半の頃だったと記憶している。

 私は、活字を読んで腹を抱えて笑えるページをつくってみたかった。泣かせるのは簡単だが、笑わせるのは難しい。それにチャレンジしようと思い立ち、欽ちゃんにその旨を話し快諾してもらった。

 寝る間もないほど多忙のため、月に2回ほどインタビューして、連載としてまとめる。

 仕事を終えてから、赤坂TBSに近い小料理屋に来てもらって、話を聞いた。欽ちゃんは横になってポツリポツリと話し始める。興が乗ると起き上がり、3時間でも4時間でも、話してくれた。

 聞いている時は面白いが、その面白さを活字で表現するのは容易ではなかった。私の編集者としての未熟さもあったため、残念ながら企画は成功しなかった。

 その時の局長兼編集長だったSは、私がやろうとしていた試みにまったく無理解というより無知だったことも、私のやる気を削いだ。

 結局、半年足らずで打ち切りになってしまったため、本にもまとまらなかった。欽ちゃんにそのことを告げても、嫌な顔一つしなかった。

 実はその連載中に、書かざるスクープをものにしていた。欽ちゃんは浅草フランス座の出身である。ストリップの幕間にコントをやる。客は女の裸を見に来ているのだから、よほどの引きがないと聞いてもくれない。八波むと志、渥美清、ビートたけしもこの小屋から出てきた。

 人気絶頂の欽ちゃんだったが、不思議なことに浮いた噂がなかった。そこで私は、ヒゲの山ちゃんこと山崎俊彦記者に、欽ちゃんの周辺を洗ってくれと頼んだ。週現でも事件を追わせたらピカイチの山ちゃんは、フランス座時代の年上の女性の家に、時々欽ちゃんらしい人間が来ること、彼女には赤ちゃんがいることを突き止めてきた。

 書く気はなかった。いつか連載の中で聞いてみようと考えていた。だがある日、彼の事務所から電話が来て、欽ちゃんがインタビューにはいけないというのだ。

 どうしたのかと聞くと、本人がNHKで記者会見をやるといっているが、詳しいことは分からない。私はピンときた。あわててNHKへ向かった。会見は既に始まっていた。

 われわれ雑誌屋は会見には入れない。そこにいた旧友の芸能レポーター梨元勝に聞くと、終わってからNHKの前のホテルで雑誌用の会見をやるという。梨元は、「元木さん、何か知らない?」と聞いてきたが、知らんふりをした。やがて欽ちゃんが来て会見が始まった。

 やはり結婚のことだった。彼は、浅草時代から付き合っている年上の女の人なんだけどね、向こうが別れるといい出したの。それじゃ何が欲しいと聞いたら、子どもが欲しいというのよ。そういわれちゃったらやらないわけにいかないでしょ。子どもができて、僕もときどき見に行ってたんだけど、どうやらどこかの雑誌が嗅ぎつけたらしいの。

 変に書かれるのはイヤだから、発表しようと昨日の朝、突然思ったの。軽妙で洒脱。欽ちゃんらしい暖かい会見だった。長年苦労を掛けてきた年上のストリッパーを、人気が出たからと捨てずに、一緒になる。新聞も雑誌も美談だと大きく報じた。

 その後、会社から、欽ちゃんが赤坂へ向かっているという連絡が入る。先に来て横になっていた。「いい会見でしたね」というと、「ありがとう」といった。その時はいえなかったが、最後のインタビューを終えた時に話した。「そうだったの」と驚いた顔をしたが、それ以上はいわなかった。

 欽ちゃんは競馬好きで馬主だから、私と話があった。「でもね、競馬で当てて、テレビも当たるって、そんないいことはないと思っているから、競馬場には毎回おカネを置いてくるの。わざと当たらない馬券を買ったりしてね」。私も、人間の「運の総量」はみな同じだと思っている。

 幸運の総量が決まっているなら、競馬で儲けるのは編集長を終えてからでいい。私も編集長時代に馬券で儲かったことはなかった。元々馬券下手だが、たまに儲けたりすると、今週号の売れ行きはよくないかもしれない、などと不安を覚えたものであった。

 週現の編集長時代に話を戻そう。今でも、平成7年(1995年)という年は、私にとって思い出深い年である。1月17日(火曜日)、早朝に阪神方面に大地震というニュースを、タクシーのラジオで聞いた。

 眠いので家に帰り、そのまま寝てしまった。8時過ぎに編集部からの電話で叩き起こされた。「阪神方面にこちらから応援を出そうと思いますが」と聞いてきた。眠気でぼーっとした頭で、「もう少し様子を見よう」といって電話を切る。

 しばらくしてまた電話がかかってくる。「編集長、テレビを付けてください」と部員が電話口で叫ぶ。あわててテレビを見た。言葉ではいい表わせない光景が映し出されていた。

 「すぐに応援を出せ」といったが、「電車も飛行機も高速もストップしているから、たどり着けませんよ」と、お前の判断が遅れたからだといわんばかりの返事が返ってくる。

 すぐに起きて、編集部に駆けつける。だがやることといったら、ひたすらテレビを眺めるしかない。大阪のスタッフとは電話が通じない。安否が気になる。

 秘書の女性が、いくつかの新聞社から取材の電話が来ているという。すっかり忘れていた。前日の月曜日発売の週現に、たった2ページだが「関西方面に大地震」という記事を載せていたのだ。

 なぜ週現が地震を予測できたのかと、関西方面では騒ぎになっている、コピーが回し読みされているというのである。

 以前から週現は、年に何回か地震関連の記事を出している。日本のように地震の多い国では、常に注意を喚起しておかなければいけないという、諸先輩たちの考えがあってのことだろう。

 私は、こうした「オオカミ少年」のような予測記事に関心はなかったが、たまたま先週、地震の企画が上がってきて、採案して掲載したのである。

 編集長時代の私には、いくらか予知する力があったのかもしれない。フライデーの時、長崎県雲仙普賢岳を取材していた新聞・雑誌のカメラマン、記者たちが火砕流に飲み込まれるという痛ましい事故が起きた。

 その2日前、担当者に、「普賢岳に行っているカメラマンたちも長くなったから、一度引き揚げさせろ」と指示を出した。担当者はそれを伝え、彼らは引き上げた。その直後に火砕流が襲ったのである。残念なことに、新潮社のカメラマンも亡くなったはずである。

 その時も、いくつかのメディアから取材があった。たしか週刊朝日に手記を書いた記憶がある。

 当然だが、今回はメディアの取材をすべて断った。

 大阪のスタッフの無事を確認し、クルマやオートバイを乗り継いで、応援チームも何とか現地にたどりついたが、大災害でなぎ倒されたビルや高速道路を前に、なす術もなかった。

 1週間後に私も大阪長田区などいくつかの被災現場に行ってみた。自然災害に人間がどれほど無力かを嫌というほど思い知らされた。

 その記憶が薄れる間もなく、わずか16年後の平成23年に東日本大震災が起こる。次は南海トラフ地震や首都圏を襲う大地震が起きるといわれている。不謹慎だが、ここ10年以内に必ず起きるだろう。再び原発事故が起きて日本は沈没する。

 焦土となった敗戦から立ち上がり、毎年来る台風の被害にもめげず、大地震からも復興を果たした日本人はすごい民族だとは思う。だが、これだけの災害大国なのに、耐震化は日暮れて道遠しである。年金も介護も喫緊の課題だが、日本列島全体をできる限り耐震構造にするという、これまで人類が挑戦したことのない大事業に取り組むのは、今しかないと思うのだが。

 そして平成7年3月20日には、日本の歴史上最悪の無差別テロ「地下鉄サリン事件」が起こるのである。

 この事件の詳細については次で詳しく触れる。麻原彰晃のオウム真理教は、その前の年の6月17日に、「松本サリン事件」を起こしている。死者8人、負傷者600人を超えた大テロ事件である。

 だが、サリンという聞きなれない毒物に、田舎警察の捜査は混乱する。妻がサリンで倒れたため(14年後に死亡)、警察に通報した河野義行を、自宅に薬品があったというだけで犯人と断定し、苛烈な取り調べを行うのである。

 新聞、テレビ、雑誌も、警察情報だけをもとに「河野真犯人説」を垂れ流し続けるのである。もちろん週現も例外ではなかった。

 だが、無実を主張し続ける河野に、私は、初動捜査を誤った警察が焦ってつくり上げた「冤罪」事件ではないかという疑問を抱いた。

 記者を動員して取材をさせ、「冤罪の可能性大」との確信を抱き、平成6年11月26日号の週現で、「松本サリン事件『会社員犯行説』にこだわる警察“冤罪”のシナリオ」という特集を組んだ。

 河野(当時は匿名)のインタビューで、長野県警捜査本部の自白強要の酷さを明らかにした。

 「一番ひどかったのは、松本署のYという警部で、『お前がやったんだ』『お前しかいない』と、断定的に脅すわけです。『シラを切るとは恥ずかしくないんか、遺族に対して申しわけないと思わんのか』と」(河野)

 根拠など示さず脅し一点張りである。妻も中毒症状を起こして入院し、本人も後遺症に苦しんでいることなどお構いなしに、厳しい尋問を続け、ついには河野が全身けいれんを起こした。

 押収した薬品が農作業などに使うもので、証拠品にならないと分かった捜査本部は、「長男に、薬品を捨てろ、処分せよと指示しただろう。たしかな証言者がいる」とまでいい、長男を共犯者に仕立て上げようとしたというのである。

 これがつい20年も経たない時の、警察の取り調べである。このやり方は、今も何ら変わってはいない。冤罪は、今も生まれているのだ。

 河野が犯人ではないという新しい証拠が出て、ついに捜査本部は彼を釈放する。だが、正式に謝罪するのは、だいぶ後になってである。もちろん、すべてのメディアが河野に謝罪した。

 そして、読売新聞が平成7年1月元旦の誌面で、「山梨の山ろくでサリン残留物を検出」とスクープを放つのである。

 山梨県上九一色村で平成5年7月に悪臭騒ぎがあり、サリンが生成された疑いがあるとして、オウム真理教がクローズアップされたのである。

 そうした中で、オウム真理教の仕業だといわれてきた坂本堤弁護士一家誘拐・殺害事件の全貌を、週現がスクープするのである。

(文中敬称略=続く)

<プロフィール>
元木 昌彦(もとき・まさひこ)

ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任。講談社を定年後に市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。
現在は『インターネット報道協会』代表理事。元上智大学、明治学院大学、大正大学などで非常勤講師。
主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)『現代の“見えざる手”』(人間の科学社新社)などがある。

連載
J-CASTの元木昌彦の深読み週刊誌
プレジデント・オンライン
『エルネオス』メディアを考える旅
『マガジンX』元木昌彦の一刀両断
日刊サイゾー「元木昌彦の『週刊誌スクープ大賞』」

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