2024年04月20日( 土 )

人生100歳時代というけれど…(3)

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シンガポールの楽齢(アクティブ・エイジャー)とは?

ぐるり亭のカラオケ

 興味深い記事を読んだ。朝日新聞『GLOBE』2018年1月7日号の「100歳までの人生設計」という特集記事に、シンガポールの実情が報告されている。特徴的なことが「生涯働くのが幸せ」という小見出しに現れている。

 日本を遙かに上回るスピードで超高齢者社会を迎えているのがシンガポール。そこには日本のように「先行き不安とあきらめ」という概念はない。「政府に頼らず、働くことこそ幸せという『教え』が染みわたっていた」と記者は書く。「東部地区にある大規模スーパー『NTUCフェアプライス』では、300店舗で働く約1万人の半数が50歳以上だ。60歳以上も2割強。最高齢は『82歳の薬剤師』だ。『お年寄りは経験豊富で接客向き。高齢者雇用を率先して進めていく』という」。

 「高齢者の就労を押し進める背景には、厳しい現実がある。2016年には12%だった65歳以上の人口は、30年には24%に倍増する予測。日本ですら22年を要したプロセスを14年で突き進み、50年には3人に1人が高齢者になるという。出生率は1.2と世界最低レベルで、積極的に進めてきた移民受け入れにも限界がある。八方ふさがりのなかで国が選んだのが『働き続ける社会』だった」。

 首相のリー・シェンロン(当時65歳)は14年末にフェイスブックで「日本で高齢者福祉が社会の負担になり、若者が不満をもっている。これは教訓だ」と紹介し、日本のような事態にならないようにと、国民にハッパをかけた。「元気な高齢者を『楽齢(アクティブ・エイジャー)』と名付け、就労や社会貢献を奨励。06年に14%だった65歳以上の就労率は16年には27%と倍増。日本の22%を追い抜いた」。

 シンガポールでは高齢者就労だけではなく、高齢者同士の「自助」も支援する。「前首相が設立した『シニアボランティア機構(RSVP)』には元気な高齢者約3,500人が登録し、一人暮らしの高齢者宅の訪問などをしている」。訪問先の住所を登録して、近所の高齢者をマッチングする携帯アプリも導入の予定。「高齢者が施設にこもるのは、死ぬ2年前からでいい。『老後も社会に貢献する』という心構えは現役世代のうちから教え込まれている」と報告する。

 現在の日本では、「近所の高齢者をマッチングする携帯アプリの導入」という画期的な発想はありえない。個人情報をボランティアに開示し、情報を共有することは考えられないからだ。ケアシステムの第2層を包括が担うことに嘆いていても何も解決しない。包括を頭にいただきながら、地域ごとにシンガポール式の「シニアボランティア機構(RSVP)」を独自につくり上げてみてはどうか。今こそボランティアの能力を最大限に活用すべきだと思う。

 たとえば私の地区は縦に長いので、これを4から5分割して、それぞれに支部を置く。支部長のなかから全体を仕切る代表を選出して、包括の担当者を動かす(提言する)。表面的には、包括が仕切っているように見せかけ、実質的には「シニアボランティア機構」が握る。

 実は、第2層を地域のボランティア、NPO団体などに委ねられた場合にも、この方策が私の頭にはあった。既存の組織を再利用しても、発想力と実行力に乏しい組織では多くを期待できない。一番割を食うのは、「地域包括ケアシステム」により、地域で安心して生活できると期待した重度の要介護者と家族であることを忘れて欲しくない。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)など。

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