2024年04月27日( 土 )

2020年、日韓両国の交流は再活性化するか 今こそ九州-韓国の民間、地域間の交流を(前)

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駐福岡大韓民國総領事 孫 鍾植 氏

 2019年、日韓関係は激変した。徴用工賠償問題は、日本の輸出優遇国リストからの韓国除外、韓国によるGSOMIAの終了通告へとエスカレートし、日韓関係は戦後最悪とも呼ばれる状況に陥った。しかし11月にGSOMIAの失効はぎりぎりで回避され、12月の日韓中サミットでは、6月のG20では実施されなかった日韓首脳会談が実施されるなど、両国には関係悪化に歯止めをかけようという意識が見られる。九州は韓国人客が激減し、大きな影響を受けている。今後の日韓関係、福岡と韓国との交流について、この逆境のなかで日韓の交流のために奮闘する駐福岡大韓民國総領事の孫鍾植氏に話をうかがった。

日本―韓国の関係

 ――2019年を振り返っていただき、20年の展望についてお聞きしたいのですが、まず日韓関係についてどう評価されますか。 

 孫総領事(以下、孫) 19年は多事多難であり、韓日関係にとって非常に残念な1年でした。強制徴用労働者の問題が経済分野にまで拡大し、日本は7月4日、半導体材料の3つの品目の輸出規制を始め、8月28日、韓国をホワイトリスト国から除外しました。それを受け、韓国の国民は自発的に「日本製品不買運動」「日本への不渡航運動」を展開し始めます。18年に九州・沖縄を訪問した韓国人は約300万人でしたが、19年10月には65%減少、1~10月では計18%減少しました。

 ただ、19年11月に韓国はGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を終了させることを猶予し、12月には中国・成都市で開催された韓日中首脳会談で文在寅大統領と安倍晋三首相が会談し、安倍首相も対話を通じて問題を解決していこうとおっしゃいました。両国の外交当局は現在も水面下で話し合いを続けており、この話し合いを通じて関係改善が図られることを期待しています。ただ、時間はかかるかもしれません。

 お互い問題における立場の違いはありますが、韓日関係改善のためには、人的交流が非常に重要であることには意見が一致しています。両国関係には難しい問題がありますが、韓日は離れられない関係です。20年には、両国関係が改善され、古き友人としてお互いの友情をたしかめる1年になることを期待しています。

 ――両国は関係改善のために、今後どのような道を歩むべきなのでしょうか。

 孫 多くの人々が今の韓日関係は最悪であると見ており、総領事としてもそのような状況を直接感じております。ただし、韓日の間には1000年を越える交流の歴史があり、そのなかで友好親善の期間は葛藤の期間より格段に長いです。フランスとドイツ、インドとパキスタンの例からもわかるように、隣国同士は利害関係から衝突が起きてしまう面があります。これをどう管理するかが重要であり、政治家、外交官の役割です。九州は観光への依存度が高く、韓日関係の悪化の影響を最も受ける地域の1つです。

 ――九州にとって韓国人訪日客の激減は大きなショックです。今年、この傾向は改善していくのでしょうか。

 孫 改善案としては日本の経済制裁が解除されることが1つの策だと認識しています。この経済問題は歴史や政治の問題とは質的に違いがあり、歴史問題などは韓国の国民に直接的な影響はなく、彼らからすればどうにかやり過ごすことができましたが、経済問題は彼らにも直接影響がおよびます。彼らは「日本から被害を受けたのに、なぜ日本に行くのか」と思っています。18年には754万人の韓国人が訪日していました。経済制裁の問題が解決すれば自然に回復していくでしょう。また、民間の交流もより活発になると思います。

 日本の方には心配しないでいただきたいと思います。なぜなら、九州は日本で韓国から一番近く、ソウルから福岡へは飛行機で1時間半と東京よりずっと近いです。韓国にとって最も近い外国は九州であり、LCCはほかの地域への路線よりも多くのフライトが就航しており、かつ料金も安いです。また、

 日本と韓国の食べ物は似ており、たとえば、うどん、そば、みそ汁、明太子、鍋などは非常に似ています。韓国人は中国、東南アジアにも旅行しますが、2日くらいはよいとしても3日以上になると食事に困ります。この点においても九州は韓国人にとってよい旅行先です。これらの理由から、関係が改善すれば韓国人の訪日旅行は自然と元通りになっていくと思いますので、それほど心配しなくてよいと思います。

 ――韓国で『反日種族主義』という本がベストセラーになっています。内容に偏りがあると見受けられて驚いたのですが、韓国ではどのような背景の下、広く読まれているのでしょうか。

 孫 『反日種族主義』が韓国社会で読まれているのは韓国国民がその本の内容やメッセージに対して共感しているということではなく、今まで国内で出版された多くの書籍が日本に対して否定的な内容が多かったことから、それまでとは違う新しい目線で語られたことにより好奇心をもったのではないかと考えます。それだけこの現象は、いかに韓国社会で韓日両国について関心が高いかを反映していると考えられます。

(つづく)
【聞き手・文:茅野 雅弘】

<プロフィール>
孫 鍾植(ソン・ジョンシク)

 1951年生まれ。75年慶熙大学校卒業(86年同大学にて修士号取得)。駐大阪大韓民國総領事館領事、駐日大使館参事官公使、東亜大学教授などを歴任し、2017年12月駐福岡総領事に着任した。大統領表彰を三度受賞。

(中)

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