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2020年01月29日 10:04

珠海からの中国リポート(17)

福岡大学名誉教授 大嶋 仁 氏

雑踏の町

 香港はごみごみし、活気があるとはいえ、秩序がないように見える。中国は上からの圧力で何とかまとまっているが、ここには生存競争しかないようだ。

 ある中国の教授はこう言っている。「香港は資本主義の悪い面が全面的に出ていて、香港政府には市民生活を守ろうという姿勢がない」

 なるほど、そうかもしれない。

 その香港に、つい最近行ってきた。2年前にできた珠海・マカオ・香港を結ぶ海上の大橋をわたってである。中国を出て香港に入る。出るのにパスポートを見せ、入るのにまた見せる。しかし、政治情勢のせいか、マカオとちがって出入国の審査は極めて厳しい。

 ひとたび香港に入ると、中国との決定的なちがいが目につく。全体に東京を思い出させる何かがあり、中国的なものが裏通りにしか見つからない感じである。

 貧富の差の激しいことは、路上を行く人々から容易に想像できる。上層部は欧米人あるいは日本人になりたいかのようであり、下層のことなどまるで無関心であるかに見える。

 私が香港に出かけたのは、知り合いのYさんに会うためだった。かつてカナダに住んだことがあり、英語が堪能な中国人女性で、ほとんど私と同年代だ。

 息子のMさんは弁護士だそうだが、まだ会ったことはない。対中国に関して見方が彼女と正反対だということだけは知っている。今回は母親のほうにしか会えなかったが、いつか息子さんにも会いたいものだ。

 町の喧騒を離れて山奥の静かな茶園に招かれた。そこで茶をすすりながら、「最近の香港、大変そうですね?」と聞いてみる。すると、「最初からわかってたことですよ。でも、だからって独立するだけの実力は、ここの人にはない」とあっさりした答えが返ってきた。

 「実力がないというと?」と尋ねると、「香港人はカナダに移民したり、ロンドンに生活拠点を構えたり、どこにでも行くんです。この土地への愛着なんてない。そんな人たちが、どうやって巨大な中国と戦えますか。若者たちが夢を見たいのはわかるけど、無理なものは無理なんです。むしろ、お金を稼いで日本にでも旅行して、中国のことなど考えないでおく。それが賢明というものですよ」

 今度は、「息子さんの考え方をもう少し聞かせてください」と聞いてみた。すると、
「もう40になるのに、まだ若者みたいなことを言ってる。息子によれば、一国二制度は欺瞞で、中国は支配力を徐々に拡大させて香港を中国の一省にしたがっている。半分は当たってるかもしれないけど、私たち個人は大きな力には勝てっこない。もう少し現実的になってほしいですね、息子には」

 息子の言っていることにも一理あるのでは、と私には思えた。

 たとえば広州市の図書館には中国関係の書棚とは別に「港澳台」の三文字が掲げられた書棚があり、香港・マカオ・台湾に関する文書がそこに並んでいる。一見すると、3つの国それぞれの存在が認められていると見えるが、外国書籍とは別枠になっているから、「外国」とは見なされていないことがわかる。香港、マカオのつぎに台湾。台湾も一国二制度に(少なくとも中国側としては)組み込んであるのだ。

 中国での公式書類に国籍を記載するとき、台湾人は「台湾省」と書かなくてはならないそうだ。台湾人にとって屈辱的であるにちがいないが、中国にいるかぎりそうしなくてはならないようだ。しかし、総裁選では一国二制度に反対する蔡氏が勝利した。両者の関係は不透明のままである。

 香港に話を戻せば、中国とのちがいは目に入る外国人の数にも現れている。香港にはアジアのあちこちから、アメリカから、ヨーロッパから人が押し寄せている。広州にはアフリカ人が多数いるが、町で彼らを見かけることはない。珠江ニュータウンの高層建築群の付近でさえ、闊歩する外国人の数は限られている。一方、香港島の金融街やその対岸は真の意味での国際都市を思わせる。「世界中の人がここにいる」と感じさせるのだ。

 それもそのはず、香港は依然として世界第三の国際金融都市である。ニューヨーク、ロンドンにつぎ、人材とインフラ面では世界一と聞く。それに香港空港はアジアの玄関口。世界のどこへでも飛行機が飛んでいる。

 英語のできる人の人口に比する割合も、アジアではダントツだろう。英領だったから当然とはいえ、今後の世界で強みとなること間違いない。問題は住民にとって香港が単なるはたらき場に過ぎなくなっていることだ。つまり、自分が守るべき「故郷」とは決してなっていない。ジャッキー・チェンが中国に身売りしたのも、彼が典型的な香港人だからこそかもしれない。

 とはいえ、わずか3日間の滞在だけで香港を了解したつもりになってはいけない。香港にはそれなりの魅力もあるはずだ。

(つづく)

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