2024年04月20日( 土 )

復興のシンボルとなる賑わい拠点「SAKURA MACHI Kumamoto」(後)

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SAKURA MACHI Kumamoto

地震で開発が一時中断するも防災機能の大幅強化に

 こうした多彩な機能を備えるサクラマチ クマモトだが、同地にはもともと、バスターミナルである「熊本交通センター」が立地していた。

 旧・熊本交通センターは、隣接する「県民百貨店」などと一体となり、交通拠点としての利点を生かした中心部の賑わい創出に寄与していた。

 だが、数度の大規模改修を経ながらも、次第に老朽化が進行。2000年代以降は、バスターミナルを含めたエリア一帯の再開発構想が持ち上がっていた。そこで08年6月に「熊本桜町再開発準備会社」が発足し、事業に着手。

 当初は2011年度までに開発事業に着手し、15年ごろの全面開業を目指していた。だが、その後に発生したリーマン・ショックといった経済情勢などの影響もあって、開発計画は一度停滞。その後、12年10月に再開発計画が再始動した。14年4月に都市計画が決定したほか、15年5月には事業施工認可も下りたことで、再開発に向けての既存施設の閉店と建物解体工事が進んでいった。

 だが、解体工事が進むなかで16年4月に熊本地震が発生したことで、計画は再度中断。耐震性の強化や備蓄倉庫の設置など、防災拠点としての機能も盛り込まれたことで、設計面でも大幅な見直しを余儀なくされ、完成予定も当初計画の1年半後の19年9月まで延期されることになった。

 その後、17年2月1日に起工式を開催して工事を再開し、19年9月10日には竣工を迎えた。翌11日には「熊本桜町バスターミナル」が先行して開業。そして14日にサクラマチ クマモトが開業した。

 途中、熊本地震という天災によって中断を余儀なくされたが、そのことがきっかけとなって防災面での計画見直しが行われたことで、結果的に施設全体の機能強化につながった。

 まず、建物全体の耐震性を高めるため、より強固な地盤支持層への杭の延伸を実施。電気関係施設の上階への配置や防水扉の設置などの水害対策を施したことで、近くを流れる白川や坪井川の氾濫なども想定した大規模水害にも対応できる施設構成とした。

 また、屋上庭園を含めた施設全体を、災害発生時の帰宅困難者の一時待機スペースとして利用できるように留意。発電機や備蓄倉庫などを設置することで、災害時の業務継続を可能にするだけでなく、避難・活動拠点としての役割を担えるようにした。食糧・水・物資などの備蓄は、約1万1,000人が3日間過ごせる量を常時備えている。

エリア全体を活性化させる中心市街地の“ハブ”に

 施設を運営する九州産交グループのSAKURA MACHI Kumamoto 広報マネージャーの和田直人氏は、「サクラマチ クマモトはバスターミナルを起点として、街中のほかの場所に行く用事の前に寄る、もしくは帰りに寄るなど、ここを目的地とする“ゴール”としてだけでなく、“ハブ”の役割をはたしていきたいと考えています。たとえば、ここには書店がありませんが、すぐ近くの街中にはすでに大きい書店があります。すべてをこの施設内で完結させるよりも、周辺と補完し合うことで、エリア全体の活性化につながっていきます。機能の面でも立地の面でも、中心市街地におけるハブになっていくことが、この施設の存在価値だと思いますし、そこを目指していきたいと考えています」とコメントする。

 実際にサクラマチ クマモトは、熊本城と上通・下通のアーケード街とを結ぶシンボルプロムナードとの一体化を始め、周辺エリアとの動線を考慮することで、街全体の回遊を促すような仕掛けがなされている。

 また、全天候型屋内イベントスペースを設けることで、販促イベントや市民活動の支援を実施。市民や企業、行政をも巻き込んだエリアマネジメントの拠点として、多様なアクティビティの実現に一役買っている。

 また、施設としても、季節ごとの定番イベントのほかに、その時々のイベント開催を計画。「“来るたびに新しい発見がある場所”というイメージで、常にお客さまの予想を超えるようなことをやっていきたい」(九州産交・和田氏)と、さらなる魅力向上にも余念がない。

 こうした施設自体の誘客力と、バスターミナルを起点とした周辺エリアへの回遊促進により、開業以降、近隣のアーケード商店街の通行量は約2割増となるほか、周辺の商業施設などの売上増にもつながっているという。エリアの中核施設として、周辺エリアにも賑わい増などの良い影響をもたらしているようだ。

 一方で、サクラマチ クマモトから約1.6km南西に位置するJR熊本駅の周辺では現在、JR九州による「拠点地域の戦略的まちづくり」として、商業施設やオフィスビルなどからなる大規模な複合開発が進められている。その中核施設となる「熊本駅ビル」は21年春の開業を予定しており、サクラマチ クマモトを含めた中心市街地への影響が気になるところだ。

 これについては、「JR熊本駅と熊本桜町バスターミナルとは、それぞれが大きな交通拠点ではあるものの、それぞれがもつ機能には大きな違いがあります。そのため、バスの拠点はサクラマチ、鉄道の拠点はJR駅と、お互いにない機能を補い合うことで、熊本の中心市街地が広がっていくのではないか、というイメージをもっています。JR熊本駅を“陸の玄関口”として、県外や海外などの広域からの来訪者が増えることに期待しています」(九州産交・和田氏)とコメント。意識はしつつも、懸念はしていないようだ。

 熊本地震からの復興のシンボルとして開業を迎えたサクラマチ クマモト。今後もバスターミナルという交通拠点の強みを生かし、周辺エリアやJR駅とも連携することで、中心市街地だけでなく熊本市全域の活性化に寄与してくれることを期待したい。

(了)
【坂田 憲治】

(前)

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