2024年04月29日( 月 )

本当に20年で終わるのか?熊本城の復旧工事(前)

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2019年10月、熊本地震で被災した熊本城の大天守の外観復旧が完了し、一般への特別公開が始まった。日曜日、祝日のみの公開にも関わらず、19年12月の来場者数は10万人を突破。1日当たりの来場者数は、被災前とほぼ同じ水準まで回復している。4月29日からは、現在整備中の特別見学通路を使った第2弾の特別公開が開始されるほか、21年春には天守閣内部の公開も始まる。着実に復旧への歩みを進めているが、城全体の復旧完了は37年度の見通しで、その道のりはいまだ遠い。13ある城内の重要文化財建造物は、半数が解体保管中のほか、手つかずのままの櫓(やぐら)や崩落した石垣も残る。熊本城の復旧は現在、どこまで進んでいるのか。今後の課題はどのようなものか。現地を取材した。

新たな天守閣はバリアフリー

 熊本城を管理する熊本市は、2016年12月に熊本城復旧基本方針を策定。18年3月、この方針に基づき、特別史跡区域51.2ha、都市計画公園区域55.7haを対象に、具体的な作業手順などを定めた復旧基本計画を策定し、復旧を進めている。計画では、建造物ごとに復旧の優先順位などを設定したうえで、短期(5年間)、中期(20年間)に振り分けた。被害額は概算で、石垣が約425億円、重要文化財建造物が約72億円、再建・復元建造物などが約137億円の、総額では約634億円の試算となっている。

 天守閣の復旧が最優先で行われ、被災から3年半程度で大天守の外観復旧は完了した。市民などからの早期復旧を望む声に応えるためだったが、早期復旧を可能にしたのは、調査した結果、既存躯体の補修・補強が可能という判断に至ったことが大きい。天守閣は、1877年の西南戦争の折に焼失した後、1960年に鉄骨鉄筋コンクリートなどの現代的な技術を用いて再建されたもの。外観については古写真に基づいて復元されたが、すべてが忠実に復元されたものではない。市民や観光客などにとって、天守閣は熊本城のシンボルではあるが、重要文化財建造物ではなく、再建・復元建造物として、機能的には展望、展示スペースという位置づけだ。

熊本城全景

 被災した重要文化財建造物を復旧する場合には、所管する文化庁の指導のもと、可能な限りオリジナルの部材を使い、忠実に原形に戻す必要がある。一方で、再建・復元構造物にはその必要はなく、現代の部材や工法、耐震技術などを活用することができる。オリジナルとレプリカとでは、取り扱いが大きく異なるわけだ。大天守閣の場合、建造物と石垣が構造的に分離していたのも、早期復旧に有利に働いた。建造物が石垣に載っていた場合、石垣修復後に建造物の修復を行う流れとなるが、天守閣は、建造物と石垣の修復作業を同時に進めることができたからだ。とはいえ、“難攻不落”と謳われた熊本城ならではの復旧の難しさもあった。城外から大天守閣に至るには、行幸坂から登城道をたどるルートしかないが、工事車両が通行するには狭く、西出丸から天守閣前広場に至る2つの工事用スロープ(現在の特別公開のルートになっている)を整備する必要があった。

 復旧に際しては、瓦や漆喰などの外観は可能な限り往時の技術を使うが、内部は現代の技術を活用しながら補修・補強を行い、設備機器の更新も行っている。その代表的なものが、エレベーターの設置だ。設置スペースに制限があるため、車椅子1台と介助者1人が乗れる程度の大きさで、3台を乗り継いで最上階まで上がることになる。スロープを設置するほか、階段なども昇り降りしやすい構造につくり変える予定で、空調設備、照明なども完備。熊本城総合事務所の職員は「バリアフリー化は時代の流れ。避けて通れない」と話している。

全国初となる制震の天守閣

 大天守の建造物は、1960年の再建時に設置した8本の杭で支えられていた。見た目には石垣の上に載っているように見えるが、実際には直接接していなかったわけだ。それが今回の地震では功を奏した。地震によって、天守のシャチホコや屋根瓦、石垣などは崩落したが、杭のおかげで、大天守倒壊は免れたからだ。小天守も1960年に再建されたもので、大天守と同じく4本の杭で支えられていたが、建造物の一部が直接石垣に載っていたためダメージは大天守より大きく、内部の柱や壁などが損傷した。この結果、大天守は最上階の再構築で済んだものの、小天守は最上階に加えて下屋部分など、広範囲にわたる再構築が必要になった。

 復旧工事では、新たな天守閣の耐震性確保が重要なポイントなる。熊本城総合事務所の職員は、「天守閣の耐震化は、地震から建造物を守るだけでなく、内部にいる人の命を守るためにも、必要な措置」と話す。大天守には、ブレーキダンパーとオイルダンパーを交差させた「クロスダンパー」を採用。クロスダンパーは、省スペース化を図るため天守閣の復旧を請け負った(株)大林組が新たに開発した技術で、展示スペースを確保しつつ制震効果が得られるという代物だ。天守閣への制震技術の採用は全国初。屋根瓦の固定方法も、葺き土を使う湿式工法から木材を使う乾式工法に変更された。これにより、6階部分の重量は、従来に比べ3割程度軽くなる。

 ブレーキダンパーとは、地震などによる揺れ発生時に、ステンレス板とブレーキ材の摩擦力を利用し制震するシステム。オイルダンパーは、揺れ発生時に、オイルの入った筒の伸縮を利用し制震するシステム。クロスダンパーはこれら2つのシステムを組み合わせたもの。従来は、それぞれのシステムを一構面(柱と梁に囲まれた空間)ごとに設置していたが、2つのシステムを交差させることで、一構面のみのスペースに設置でき、省スペース化を図るとともに制震性能を発揮する。

【大石 恭正】

(後)

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