2024年04月16日( 火 )

北九州で「東アジア文化都市2020」文化・芸術の“創造力”生かす

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 東アジア域内の相互理解や連帯感の形成促進を、文化・芸術を通じて目指す「東アジア文化都市」。開催都市は、日中韓の3カ国それぞれで、文化・芸術による発展を目指す都市のなかから選定され、2020年の日本の開催都市に北九州市が決定した。

 

2020年の開催3都市
2020年の開催3都市

課題に直面する北九州市

 北九州市は1963年2月、門司・小倉・若松・八幡・戸畑の5市対等合併によって誕生。同年4月には福岡市に先駆け、九州初の政令指定都市となった。九州最北端に位置する“九州の玄関口”であり、筑豊炭田から鉄道や水運で石炭を大量・迅速に調達できるという地理的な優位性もあって、かつては「官営八幡製鐵所」を擁する北九州工業地帯として国内有数の存在感を放ち、多くの企業が拠点を構えていた。

 だが、市の人口は79年の106万8,415人をピークに、減少を続けている。産業構造の変化や少子高齢化の進行など、市を取り巻く環境が厳しさを増すなか、まちは緩やかに衰退に向かっているといえるが、市はこうした課題に直面するたびに「北九州エコタウン事業」「北九州市SDGs未来都市計画」など、多岐にわたるまちづくりの在り方を内外に提示。発展への可能性を拡張させてきた。

 そして2020年3月、北九州市を舞台に「東アジア文化都市」が開幕する。市の文化・芸術が、まちづくりの新たな原動力として期待されているのだ。

「東アジア文化都市」とは

 東アジア文化都市では、選定された都市がその文化的特徴を生かし、文化芸術・クリエイティブ産業・観光の振興を推進することにより、関連事業の実施を契機として継続的な発展を目指すことが目的として掲げられている。日中韓の文化担当大臣会合での合意に基づき始まった文化・芸術の国際交流イベントでもあり、国内外から多くの訪問客が予想される。20年の開催都市は、日本・北九州市と中国・揚州市、韓国・順天市の3都市だ。

 歴史的・地理的に“アジアの玄関口”として発展してきた北九州市は、これまで多くの文化人を輩出してきたほか、多様な文化施設の充実や、先進的な文化・芸術に取り組むなど、豊富な文化土壌を有している。また、「北九州市漫画ミュージアム」などが入居するポップカルチャーの発信拠点「あるあるCity」も擁しており、漫画やアニメなどとの関わりが深いまちでもある。今回、東アジア文化都市の開催都市として選定されたことで、文化・芸術都市としての北九州市の魅力が、観光客らによる新たな視点から掘り起こされ、SNSなどを通じて改めて拡散・周知されていくことも期待される。

 開催期間中(20年3~12月)、北九州市ではさまざまなイベントが行われる。文化・芸術の祭典ではあるものの、イベント来場者に、改めて市の良さを知ってもらう機会にもなり得る。資源の再利用を促す循環型社会の確立と、将来世代の暮らしも視野に入れた持続可能な開発目標、そして、市民の生活を豊かにする文化・芸術活動の促進。北九州市はこの3つのタスクを同時進行することで、一体どのような都市へと変化していくのだろうか。

「東アジア文化都市2020北九州」ロゴマーク

【ロゴマークコンセプト】
 上側は「小倉織」をイメージした北九州の頭文字「K」を、右側は3色の三角形を組み合わせ、日本・中国・韓国の文化の広がりや人々の交流を表現している。あらゆる方向へのつながりを、緩やかに結び合わせ、まとめるイメージとなっている。

北九州市

市民文化スポーツ局東アジア文化都市推進室

 ――北九州市が今回「東アジア文化都市」に応募した理由について、お聞かせください。

 推進室 北九州市は、九州の玄関口として栄え、官営八幡製鐵所を始めとする企業集積地ならではの「会社」を軸とした文化活動が広がり、文学や音楽、美術、演劇、伝統芸能、生活文化など幅広いジャンルにおける文化活動が市民の間で活発に行われるようになりました。近年では、アニメや漫画、映画といったメディア芸術の面でも、北九州市の取り組みは非常に注目されており、評価を高めています。

 市では、市民がこの豊かな文化・芸術に触れて楽しむ機会を増やすとともに、文化・芸術の主催者として活動に参加することを通じて、人材の育成や郷土を愛する心を育み、北九州市の魅力(都市ブランド)をより向上させていく取り組みを進めております。この取り組みを強力に推進するための契機が、今回の北九州市で開催する「東アジア文化都市」であると考えております。

 ――文化や芸術が、市民にどのような影響を与えるとお考えですか。

 推進室 戦後、日本人は物の豊かさを求めて、一所懸命働き、経済的な成長を遂げてきました。成熟社会を迎えた今、これからは“心の豊かさ”が大切だと考える人も増えてきており、国の世論調査でも、これからは「物の豊かさよりも心の豊かさ」だと回答をする人が6割超という結果になっています。文化・芸術が心の豊かさに与える影響は、とても大きいと考えています。

 また、子どもから大人・高齢者・障がい者まで、多様な人々が垣根を越えて関わることができる「社会的包摂」(ソーシャル・インクルージョン)としての側面も大きいと思います。「東アジア文化都市2020北九州」で文化・芸術イベントを集中的に実施することで、それを実感していただき、今後の活動につながることになればと考えています。

 現在は、AI・ITの時代といわれますが、次世代のことを考えるとき、今ないものを生み出す力―“創造する力”は、これまで以上に重要になってきます。文化・芸術は、まさにこの“創造の力”であり、上質な文化・芸術を身近に体験することで、それに感動し、感性を鍛えることで、人間として磨かれる部分があるのではないかと考えています。「東アジア文化都市2020北九州」を始め、文化・芸術の充実は、SDGsと並び、市の未来につながる取り組みであると考えています。

 ――東アジア文化都市を始めとする文化・芸術イベントがもたらす経済効果について、どのようにお考えですか。

 推進室 文化・芸術の力を生かしたまちづくりは、他地域でも行われ、効果を上げているところが出てきています。たとえば「瀬戸内国際芸術祭」では、16年度の来場者数は100万人を超え、約139億円の経済効果が出ています。また、新潟県の「越後妻有(えちごつまり)アートトリエンナーレ」でも、雪深いまちに約55万人を集客していると聞いています。このように、文化・芸術は観光と並んで、誘客による地域経済の牽引というポテンシャルを有していると考えております。

 ――創造都市・北九州の実現についてお聞かせくだい。

 推進室 文化・芸術のもつ創造性を、地域振興や観光・産業振興などに活用し、地域課題の解決に取り組む都市を「創造都市」と呼び、北九州市においても、文化振興計画のなかで、文化・芸術を地域経済や教育、福祉などに生かし、創造的なまちづくりを進めることを目標として掲げています。今回の「東アジア文化都市2020北九州」開催を大きな推進力として、「創造都市・北九州」の実現を図っていきます。

 ――今後、どのような取り組みを想定されているのでしょうか。

 推進室 文化・芸術のもつ創造性は、地域課題の解決の糸口や可能性を導き出すものだと考えております。たとえば、フランス・ナントはかつてフランス屈指の工業都市でしたが、70年代以降の造船業の悪化によって衰退しました。しかし、90年代に文化による都市再生へと舵を切り、今ではフランス国内でも「最も住みやすいまち」といわれるまでに成長しています。このような世界各地の取り組みを参考に、さまざまな分野で、文化・芸術の持つ創造性を生かしたまちづくりを行っていきたいと考えています。

 ――SDGsと文化・芸術など、北九州市では多方面からまちづくりへのアプローチをされています。今後、どのような効果を期待されますか。

 推進室 北九州市は、アジアで初めてOECDから「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」に選定されました。また、国からも「SDGs未来都市」に選定されております。「東アジア文化都市2020北九州」では、文化・芸術の力を活用して、SDGsの推進にチャレンジしていきます。具体的には、SDGsの17の目標や課題を、アート作品を通して見えるかたちにすることで、SDGsのテーマ性を市民や来場者に実感していただけるアートフェスティバルを開催していく予定です。作品によっては、市民の皆さまがアーティストと一緒に作品を制作するかたちのものも考えております。作品を見るだけでなく、制作にも参加することで、市民の皆さまがSDGsの目標を身近に感じ、実現に向けた行動に移してもらえると考えております。加えて、この取り組みが、SDGs未来都市である北九州市の魅力の発信の原動力になると考えています。

多面的なまちづくり

 まちの特色として文化・芸術を前面に打ち出し、成功した例は少なくない。「芸術の都・パリ」や「古都・京都」などは世界的にも有名だ。両都市ともに、都市景観を損なわないように、建築物に対しては厳しい高さ制限や色彩制限が設けられている。景観保全はまちの新陳代謝を妨げることにもつながりかねないが、街並み自体に価値をもたせることができれば、それはむしろ“箔付け”(ブランディング)となる。

 北九州市は東アジア文化都市開催を契機に、本格的に市の財産である文化・芸術をまちづくりに活用していこうとしている。SDGsなどの他の取り組みと合わせることで、文化・芸術と産業経済とが調和した“創造都市”へと脱皮できるのか、注目していきたい。

https://www.data-max.co.jp/files/article/20200206-higashiasia2020-01.jpg
※クリックで拡大

【代 源太朗】

東アジア文化都市 2020北九州 開幕式典
お問い合わせ先 : 東アジア文化都市2020北九州開幕式受付係
        (RKBミューズ(株) 北九州支社内)
TEL:093-482-2140(平日・午前10時~午後5時)
申込期間:2020年2月3日(月)~2月28日(金)必着

関連記事