2024年04月26日( 金 )

トヨタ、「スマートシティー」でNTTと資本提携 新しい街づくりが、豊田家4代目・豊田章男社長の「一人一業」だ!(後)

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 トヨタ自動車とNTTが、業種の垣根を越えた資本提携で合意した。インターネットやITを活用した街づくり「スマートシティー」の事業で連携する。豊田家には、業祖・豊田佐吉翁が「一人一業」を説いて、代々の盟主は、それぞれの新事業を起業した。次世代技術を駆使した新しい街づくりが、豊田家の4代目・豊田章男社長の「一人一業」ということだ。

豊田家に伝わる「一人一業」の伝説

 「世界のTOYOTA」の歴史は、自動織機の発明者、豊田佐吉翁から始まる。

 1927年10月、昭和天皇から勲章を授与され、親族一同、記念撮影という晴れの席で佐吉翁は倒れた。そして「喜一郎、お前は自動車をやれ」と一言、言い残して世を去ったというのが「一人一業」の始まりとされてきた。

 喜一郎氏が自動車に進出したのは、この「一人一業」を説く佐吉翁の遺志によると、巷間伝わっている。

 喜一郎氏は長男・章一郎氏(現・名誉会長)に「一人一業」を勧め、こう語って聞かせたという。

 〈「俺は自動車のことは何もやらなかった。全部、部下がやってくれた。ただし、おれは紡織機には全知全能をかけたが、世間は、全部、佐吉がやったというよ」
 章一郎は父の言葉を「お前がいくら自動車をやったって、自動車はおれ(=喜一郎)だということになる。だから、お前が何か仕事をやりたいと思ったら、自動車以外のことをやらなきゃだめだ」と理解したという〉(読売新聞2001年5月14日付)

 喜一郎氏が住宅事業を勧めたのは、それなりの理由がある。戦後、一面の焼け野原を目にした喜一郎氏は「木と紙でつくった燃える家ではだめだ」と痛感したからだ。

 章一郎氏は、トヨタホームをつくり「一人一業」を実践した。75年、章一郎氏の発案でトヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)に住宅事業が生まれた。しかし、トヨタホームは住宅業界では影が薄かった。日本消費者は鉄骨づくりの住宅より、木造住宅を好んだからだ。

 トヨタの経営陣にとって、喜一郎氏の「一人一業」の住宅をそれなりの規模にすることが課題になった。天下のTOYOTAがそこまでやるかという強引なやり方でミサワホームを買収した。

 2009年、創業家に大政奉還され、章一郎氏の長男・章男氏が社長に就いた。それから10年後の昨年、トヨタとパナソニックの住宅事業が統合。両社の関連会社であったパナソニックホームズとトヨタホーム、ミサワホームの3社を合算した新築戸建住宅の供給戸数は年間で約1万7,000万戸に上る。国内トップクラスの規模だ。章一郎氏が「一人一業」で立ち上げた住宅事業は、日本屈指のハウスメーカーになった。

 住宅統合新会社は、章男氏が進める街づくり「スマートシティー」の一翼を担う。

スマートシティー事業は長男の大輔氏に託す

 豊田家の4代目・豊田章男氏は「一人一業」で起業した「スマートシティー」が、自分の代で成就するとは、さらさら考えていない。章一郎氏の「一人一業」の住宅も、立ち上げてから今日のトップ企業になるまで45年かかった。

 章男氏が「一人一業」に向かって助走を開始するのは16年。米シリコンバレーにAIの研究・開発拠点となる新しい会社を設立。2年後の18年に、構想をぶち上げた。米ラスベガスで開かれたCESの記者会見で、章男氏は「自動車をつくる会社から、技術に関わるあらゆるサービスを提供するモビリティーカンパニーにモデルチェンジする」と宣言した。

 それから2年後の20年のCESの記者会見で、インターネットやITを活用した街づくり「スマートシティー」事業を明らかにした。

 スマートシティー事業を引き継がせるのは誰か。章男氏の長男・大輔氏であろう。豊田家の直系の5代目の御曹司だ。大輔氏は章男氏と同じレーシングチームに所属する。章男氏は、道楽であるレーシングチームを率いて国際レースに参戦している。

 章男氏は、大輔氏を「マスタードライバーの候補の一人だ」と語る。マスタードライバーはテストドライバーの頂点に立ち、開発中の車の乗り味の最終チェックなどを行う。マスタードライバーは章男氏が担っているが、大輔氏に交代する。

 大輔氏は、自動運転向けのAIを開発する子会社、トヨタ・リサーチ・インステティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)に出向。31歳ながらシニアバイスプレジデント(上級副社長)である。

 スマートシティーでは、トヨタはNTTと資本提携した。グーグルやアマゾンなどGAFAと組むならまだしも、NTTはJRやJT、日本郵政と同じように民営化したお役所体質の企業だ。さして意味があるとは思えない。

 トヨタがNTTと組んだのは、章男社長が息子の大輔氏のためにやったことだろう。GAFAと組めば、のみ込まれてしまうかもしれないが、NTTなら安心して大輔氏を任せることができると判断したようだ。

 トヨタ自動車は4月から副社長を廃止し、豊田社長の下に21人の執行役員が同格で並ぶ体制に変わる。豊田社長が次々と打ち上げる新しい街づくりの構想を冷ややかに見詰めるみつめる役員は少なからずいる。副社長廃止の真意は、スマートシティー事業を推進する人物を次のトップに据えるという意味だ。

 次世代技術を駆使した「新しい街」づくりは、21年春に着工する。次世代都市のモデルを打ち出せるか。「一人一業」の成否がかかっている。

(了)

【森村和男】

(前)

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