2024年04月27日( 土 )

名古屋・栄の久屋大通公園~日本初の大規模P-PFIでどう変わるのか?(後)

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三井不動産グループの「革新性あるコンセプト」

 市が事業者の公募を開始したのは17年10月。選定審議会の審査の結果、18年2月に三井不動産(株)グループ(大成建設(株)、(株)日建設計、岩間造園(株))を選定した。三井不動産グループの提案は、テレビ塔のビスタライン(眺望線)を確保し、水盤を配置するなど、「国際競争力の強化につながるような革新性のあるコンセプトが明確」であることなどが評価された。

 三井不動産グループは公園整備運営コンセプトに、「サステナブルな発展を底支えするインフラ」「世界に冠たるシンボル公園」「常に賑わいを創出する多目的な公園」「地上と地下とが連携連動した3Dパーク」を掲げている。“世界に冠たる”公園が具体的に何を指すのかは不明だが、これらの文言から、同社グループとして、かなり入れ込んでいることだけはうかがえる。

 北エリアを「都会のやすらぎ空間」と位置づけ、芝生広場を始め、レストランやカフェなどを設置する。テレビ塔エリアは「観光・交流空間」とし、テレビ塔が映える水盤、デジタルサイネージなどを配置する。その一方、合計約1万m2(既存は約6,000m2)の広場を整備し、災害時の広域避難スペースも確保する。

公園施設(収益施設)のスペック
<北エリア>
▽建築面積1,748m2▽延床面積1,996m2▽屋外部分面積864m2▽階数1階(一部2階)
<テレビ塔エリア>
▽建築面積3,652m2▽延床面積5,410m2▽屋外部分面積489m2▽階数2階(一部1階)

久屋大通公園リニューアル後のイメージ。公園中央の水盤には、テレビ塔が映える
(三井不動産グループ資料より)

 P-PFIの対象となる面積は、北エリア2万8,700m2、テレビ塔エリア2万5,800m2の計5万4,500m2。設置可能な建築面積は合計5,400m2。P-PFI、指定管理者の期間は2038年2月まで。既存のシドニー広場、南京広場、メキシコ広場、ロサンゼルス広場などは解体し、新たに公園施設、公募施設などを整備する。樹木も伐採するが、その一部は移植して残す。

 園内には20棟ほどの店舗建築物が立地する。建築物工事が完了後、園路や広場などの整備に着手する。当初は、北エリアは20年4月に供用開始する予定だったが、北エリア(旧・リバーパーク)の掘削土にレンガなどの産業廃棄物が多数混入していることが判明。廃棄処分に時間を要することから、供用開始時期は、テレビ塔エリアと同時期の20年7月に延期された。

 市は南エリア(錦通~若宮大通)についても、別途リニューアルする方針を固めた。19年2月、リニューアルに先立ち、栄バスターミナル(噴水南のりば)跡地(敷地面積約4,000m2)の暫定活用事業のため、(株)中日新聞社を代表企業とするグループを事業者に選定。(株)名古屋三越をネーミングライツ・パートナーとした「ミツコシマエ ヒロバス」という愛称で、レストランやカフェなどを併設するイベント広場を整備している。事業手法は設置管理許可制度を適用。事業期間は19年3月~22年度末。東京2020オリンピック・パラリンピック開催中のパブリックビューイングスペースとしての活用が期待されている。

いかにして両立させるか「賑わい」と「憩い」「防災」

 P-PFIは、都市公園の再生(賑わい創出など)スキームとして、全国的にも事例が増えている。公園の規模に応じて、カフェ1店舗を設置する程度のものから、複数の商業施設などを設置するものまで、その内容もさまざまだ。都市公園法の改正により、都市公園内で一定のビジネスを認め、その収益の一部を公園整備に充てることが可能になったことは、閉塞感漂う都市公園の新たなあり方を示したという点で、一定の意義がある。久屋大通公園のように規模の大きな都市公園ともなれば、「再開発」に匹敵するインパクトがある。

 ただし、その根っこには、長引く緊縮財政にともない、自治体が都市公園整備に必要な予算を回せない状況があることを忘れては、事の本質を見誤る。都市公園には、「賑わいの場」だけでなく、「憩いの場」「防災拠点」としての役割も求められる。「憩い」「防災」は収益につながらない。それらをどう両立させ、まちと一体化した公園にできるか。P-PFIの意義を判断するには、その点をしっかり検証する必要がある。

(了)

【大石 恭正】

Park-PFI(P-PFI、公募設置管理制度)
都市公園内に飲食店や売店などの公園施設を設置運営し、その収益を基に公園の整備改修などを一体的に行う民間事業者を公募する制度。2017年の都市公園法改正により創設された。民間資金を公園整備に充てるのが狙いで、従来の制度と比べ、事業期間が最長20年、建蔽率が最大10%上乗せ可などの特例措置がある。

(前)

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