2024年04月26日( 金 )

コロナの先の世界(14)新型コロナ後の北東アジアの姿(4)

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 NetIB‐Newsでは、国際経済連携推進センター(JCER)の記事を掲載している。今回は2020年6月11日付の記事を紹介。


(公社)日本経済研究センター 首席研究員 伊集院 敦

 新型コロナ危機が収束した後、日本を取り巻く北東アジア地域はどう変わるのか。今回の危機で米中の分断が加速し、その影響が北東アジア地域を直撃することは避けられないだろう。米中の分断圧力により北東アジアという地域はズタズタに引き裂かれるのか、それとも危機をチャンスに変えて、まとまりのある地域として発展していくのか。この地域の将来の姿は、今後数年の取り組みによって、相当違ったものになるのではないか。

日本に求められる地域戦略とルール形成戦略の確立

 日本の針路は大別して3つだ。1つは同盟国である米国の戦略に身をゆだね、「新冷戦」の最前線として中国と全面的に戦う道だ。2つ目は米国と離反し、大国となった中国の勢力圏に入って生きる道。3つ目は米国との同盟を堅持しつつ、中国などの近隣諸国との協力を探る道だ。1と2のオプションはリスクと失うものが大き過ぎ、3つ目のオプションがもっとも理想的に思われる。

 日本が日米同盟と地域協力の両立を目指す3つ目のオプションを進めるにあたって、重要になるのが地域戦略とルール形成戦略だ。

 日本は北東アジアに位置しながら、周辺国との外交は日中、日ロ、日韓といった2国間ベースが主流で、北東アジアを面的、広域的にとらえる総合的な戦略を欠いている。北朝鮮やロシアとの関係も含め、どのような北東アジアの将来ビジョンを描くのか。そもそも、独自の地域戦略なくして、日米同盟と地域協力の両立はあり得ない。北朝鮮やロシアとの懸案解決後の経済協力案なども、北東アジア地域の将来をにらんで今からきちんと準備しておくべきだ。

 今後の世界を展望すれば、日本がいくら仲介の努力をしようとも、しばらくの間は米中の分断が一段と進んでいく公算が大きい。両大国の将来の覇権争いが絡むだけに、中国への技術輸出規制などをめぐって、米国から日本への同調圧力はさらに強まるだろう。

 経済と安全保障が密接に絡む時代だ。米国との同盟を安全保障の基本に据える以上、経済分野においても、日本が米国の懸念や意向を無視した政策を進めることは難しい。そもそも米国が中国に抱く懸念の多くは日本も共有しており、日本は米国とともに安保・経済の両面でより安全な世界づくりに努力すべきだ。

 とはいえ、極端な安保優先にはリスクもある。かつて自由貿易の概念を打ち立てたアダム・スミスですら「国防は経済に優先する」と説いたとされるが、経済安全保障政策においても一定の秩序とルールは必要だ。安全保障と経済交流を両立させるには、どのような取引や交流を制限し、どのような分野は規制の対象外とするかといったルール形成が重要になる。その点では2019年6月に大阪で開いたG20首脳会議の宣言にデジタル社会の到来をにらんだDFFT(信頼ある自由なデータ流通圏)の概念を盛り込んだように、我が国が国際的なルール形成で汗を流す余地もあるだろう。

 そして、地域協力を維持・発展させるうえで期待されるのが保健や防災などの機能面での協力だ。分断の波が安保から経済に広がったとしても、地域で暮らす人々の生命を守るための協力にはビジョンと魂をもって対処すべきだ。

 ソウルにある日中韓3国協力事務局が3月に発刊した統計集によると、北東アジアの中心である日中韓の人口と国内総生産(GDP)は世界の2割以上を占め、自動車生産は50%、コンテナ輸送35%のシェアを占める。知らず知らずの間にサプライチェーンなどの相互依存関係も築かれてきたのだ。

 北東アジアはまとまりを欠く脆い地域であるとはいえ、世界にとっても、この地域に住む人々にとっても、各国の関係をズタズタに引き裂き、国際協力を断念するには大きすぎる存在になってしまった。例え、それがいばらの道であっても、日本は独自の地域戦略とルール形成戦略を確立し、日米同盟と地域協力の両立を目指す3つ目のオプションを模索し続けるべきである。

(了)


<プロフィール>
伊集院 敦(いじゅういん・あつし)

 1961年生まれ。85年早稲田大学卒、日本経済新聞社入社。ソウル支局長、中国総局長、アジア部編集委員などを経て、2018年から(公社)日本経済研究センター・首席研究員。中国・清華大学、延辺大学大学院に留学。
 著書多数。近著に『技術覇権 米中激突の深層』(編著、日本経済新聞出版社)。

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